2012 Fiscal Year Annual Research Report
メロヴィング王朝期国家構造の総合的研究ー西洋古代から中世への移行新論ー
Project/Area Number |
23320158
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
佐藤 彰一 名古屋大学, 高等研究院, 特任教授 (80131126)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | ゲルマン民族 / フランク部族 / エトノス集団 / ギリシア・ラテン著作家 / キルデリクス1世 / ゴート人 / クローヴィス / ユリアーヌス帝 |
Research Abstract |
研究課題「メロヴィング王朝期国家構造の総合的研究」にとって、そもそもゲルマン民族のひとつ「フランク部族gens Francorum」はどのような経過を経て一つのエトノス集団として成立したかを詳細に解明することが、研究成果の深度を決定するという考えが強まり、このためにギリシア・ラテンの古典著作家たちが書き残した著作において、「フランク人」がどのように言及されているかを、原典にあったて網羅的に訳出する作業をおこなった。最古のフランク人に関わる事績は、自身は4世紀中葉の北アフリカ出身の皇帝役人であったアウレリウス・ウィクトリウスの記述であり、彼はフランク人がイベリア半島のタラゴナを侵略した西暦257年の出来事を記している。これを嚆矢として、西暦400年頃までの事績を網羅的に洗い出し、それを下記のような構成をもった草稿として纏めた。すなわち「序論」、フランク人の起源を考察した「薄明のフランク史」、ローマ帝国との関係を論じた「帝国に奉仕するフランク人」、諸皇帝のなかでも特にフランク人を重用したユリアーヌス帝への奉仕を論じた「皇帝ユリアーヌスの旗のもとに」、フランク人首長層のローマ帝国中枢部への進出を考察した「帝国におけるフランク首長層の台頭」がその内容である。これに続く1世紀は、フランク人に代わってゴート人が帝国に重用される時代であり、そのこともあって、叙述史料が極めて希薄になる。目下フランク・メロヴィング朝創建者クローヴィスの父キルデリクス1世までの検討を終えてつつあり、クローヴィスの部分まで25年度末に検討を終えて、1冊の著書として完成させる予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
厳密に、狭く「研究課題」を捉えるならば「やや遅れている」と書くべきなのであろうが、あえて「当初の計画以上に進展している」と自己評価したのは、提案した研究課題の枠内に止まっていたならば、ありうべき理解の深度が著しく限られたに違いなく、時間枠を広げてそもそも「エトノス」としてのフランク人の淵源にまで測深の錘りを下ろしたことにより、歴史現象としてのメロヴィング王朝期フランク国家と、西欧の古代から中世への移行の様相を、より広い歴史的パースペクティヴの中でとらえる前提が築かれたと思われるからである。特筆すべきは、今まで多くの研究者がチャレンジしながら成功しなかったクローヴィスの父キルデリクス1世の事績に関するクロノロジーに関して、年代的矛盾のない編年として確立できたことである。これはフランク時代の主要な歴史記述であるトゥール司教グレゴリウスの『歴史十書』、フレデガリウスの『年代記』、作者不詳の『フランク史書Liber HIstoriae Francorum 』の異本の校合や、これまで本格的な検討が行われなかったギリシア語で書かれた同時代の記録などをもとに行った作業の成果である。また伝統的にフランク人の構成原理に関して、「サリー支族」と「リプアリア支族」の2集団を排他的に考えて来たが、最近の研究はこの2集団への分類が実体とは無関係の歴史学的構築であることを明らかにしつつあり、この主張を取り入れて考察した結果、新たな地平を切り開くことができたと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討で、475年に西ローマの帝位を追われたユリウス・ネポス帝が480年に暗殺されたのを契機に、キルデリクス1世は、西ローマ帝権ではなく東ローマ皇帝へ接近を強める姿勢を示していたとの新たな認識に到達したが、本年度はキルデリクス1世とクローヴィス1世父子の旧西ローマ帝国領土内の、蛮族諸国家の国際政治環境裡での動向を史料に即して追究し、上に述べたように建国以前のフランク人の歴史として一書を編む。 来年度以降は「メロヴィング王朝期の国家構造」の本格的な検討を継続する予定である。
|
Research Products
(9 results)