2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23340119
|
Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
平野 琢也 学習院大学, 理学部, 教授 (00251330)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | スクイーズド光 / エンタングルメント / パラメトリック増幅 / 周期分極反転光導波路 / パルス光 / 量子計測 |
Research Abstract |
本研究の目的は、研究代表者がこれまでに培ってきたパルス光エンタングルメントや無雑音増幅の研究成果を活用して量子測定の実証実験を行い、量子力学の基礎の検証と量子情報の応用に展開することである。 今年度も、初年度に引き続き、質の高いエンタングルメントの生成を実現することを目的とした実験を進めた。しかし、光源として用いるレーザーに不具合が再び発生し、再度修理を依頼したために、今年度も予算を繰り越す必要が生じた。我々が従来用いていた通信波長帯のパルスレーザー光源は、繰り返し周波数が5KHz程度と低く、基本的に同軸の光学系を用いていた。しかし、量子測定の実証実験では光学系がより複雑になるため、本研究においては、光源の繰り返し周波数を2000倍以上高速化するための実験を実施した。 今年度引き続き不具合が発生したのは、繰り返し周波数10MHzの波長1535nmのパルスレーザーである。再修理により、パルス光の発振が可能になったので、高繰り返し対応のホモダイン検出器を用いて、ショット雑音の測定実験を行った。その結果、自作の検出器を用いることで、10MHzのパルス光のショット雑音を測定することができた。また、市販の広帯域バランスドレシーバではパルスの繰り返し周波数に現れる強い信号のために十分な信号対雑音比を得ることができなかったが、狭帯域の製品ではショット雑音限界の動作を確かめることができ、市販のバランスドレシーバを用いたコンパクトな量子鍵配送装置の実現に道筋が得られた。エンタングルメントの生成については、ピコ秒モード同期レーザーを用いた実験を進め、エンタングルメントの質の向上を実現することができた。具体的には、波形整形したLOパルス光を用いることにより、検出器の持つ雑音を補正した値ではあるが、パルス光については世界で初めて3dBを超える差分散と和分散を観測することに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の実験を行ううえで、主となる光源として用いる通信波長帯の高繰り返し光源が、年度途中で不具合のために使用できなくなり、通信波長帯におけるエンタングルメントの生成実験と無雑音増幅実験には遅れが生じた。そのため、波長1064nmのピコ秒モード同期パルスレーザーを用いてエンタングルメントの改善実験を進めて一定の成果を得ることができたほか、量子情報への応用を前倒しで実施することにし、高繰り返しパルス光のホモダイン検出実験を行い、量子鍵配送を実現する見通しを得ることができた。これらの状況を総合して、やや遅れていると判断した。遅延の生じた研究についてより詳細に述べると、これまでに我々は、通信波長帯パルスレーザーを光源とし、エンタングルメントを安定に生成する技術を開発し(PRA, 79, 050302(R), 2009)、量子状態の転送に成功した(Opt.Express, 19, 1360, 2011)。これらの実験は低繰り返しの光源を用いていたために、量子測定や量子情報への応用には課題があった。そこで、通信波長帯の高繰り返し光源を用いた実験を本研究で進めている。実験の手順は、光源となるパルスレーザーの第2次高調波を発生し、この第2高調波を励起光としてパラメトリック増幅を行い、スクイーズド光を発生した。エンタングルメントは、スクイーズド光を2つ発生し、これら2つの位相を直交させ、ビームスプリッタで重ね合わせることにより生成する。しかし、波長1535nmの繰り返し周波数10MHzのパルスレーザー不具合により、この光源を用いた実験では、エンタングルメントの生成まで至ることができなかった。更に、ホモダイン検出器を用いてショット雑音の測定を行ったところ、レーザー動作が不安定であり、余分な雑音が発生していることが判明した。そこで、繰り返し周波数の改善を100倍までにとどめたレーザーを購入した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、パルス光エンタングルメントの改善を進め、当初の研究目的である量子測定の検証実験の実現を目指すほか、研究の遅延を考慮し、量子情報への応用を前倒しで進める。パルス光エンタングルメントの改善については、これまでの経緯を考慮して、レーザー光源の多様化を図り、実験の遅延がなるべく生じないようにする。まず、最も望ましい仕様のレーザーであり、本研究において主として用いてきた波長1535nm、繰り返し周波数10MHzのパルスレーザーは、H24年度におこなった修理により、当初のスペックの発振が可能となった。しかし、安定した発振が長続きせず、余分なピーク雑音が発生するという問題があり、微調整の精密化や温度の安定化などによる改善を試みる。次に、このレーザーの代替として、繰り返し周波数が500KHzのレーザーを今年度の予算で購入した。このレーザーは、高速電流変調により短パルス光を発生し、そのパルスを光通信用の増幅器で増幅するというパルスレーザーとしては新しい方式であり、従来に比べて低コストで高ピークパワーを実現できるものである。繰り返し周波数の改善は、当初の2000倍とくらべて、100倍となるが、十分な改善であると考えている。そして、第3のレーザー光源として、波長1064nmの固体モード同期レーザー(繰り返し76MHz)を用いた実験を進める。 量子情報への応用については、量子鍵配送の研究を進める。実験的には、繰り返し周波数が10MHzのパルス光に対応可能なホモダイン検出器を用いて、連続量量子鍵配送としては世界最速となる10MHz動作の実現を行う。また、量子的な測定についての知見をもとに、連続量量子鍵配送の安全性についての研究も進める。
|