2011 Fiscal Year Annual Research Report
タンパク質内エネルギー散逸の時空間分解観測による機構解明
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23350007
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
水谷 泰久 大阪大学, 大学院・理学研究科, 教授 (60270469)
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Keywords | エネルギー移動 / 共鳴ラマン分光法 / 時間分解分光法 |
Research Abstract |
本研究では、トリプトファン残基のアンチストークススペクトルをピコ秒の時間分解で測定することによって、タンパク質内の余剰エネルギー移動を調べた。その観測のためには、強度に関して高精度の測定能力が装置として必要である。そのため、光反応の効率を上げることとラマン散乱検出の効率をあげることの二面から現有のピコ秒時間分解共鳴ラマン分光装置の性能向上を図った。試料には、立体構造が詳細に調べられているマッコウクジラ由来のミオグロビンを用いた。このミオグロビンにはトリプトファンが2残基含まれているため、まずこれらをラマン散乱強度の弱いチロシン、フェニルアラニンに置換した。この変異体にトリプトファン残基を1残基導入することによって、望みの位置にトリプトファン残基をもつミオグロビン変異体を作製した。この変異体について、ヘムからトリプトファン残基への振動エネルギー移動を観測した。今年度は、ヘムからほぼ同じ距離でかつ方向の異なった位置にトリプトファンを導入した変異体3種、F43W、V68W、L89W変異体、を作製し、ヘムからのエネルギー伝搬の異方性について調べた。振動励起状態の生成および減衰の時定数は、V68W変異体については3ピコ秒であった。また、V68W変異体に比べF43W、L89W変異体は安定性が悪く、長時間のデータ積算ができなかったため、時定数を求めるレベルのデータはまだ得られていない。現在、安定性向上のための実験条件を検討している。 タンパク質内のエネルギー散逸機構の解明には、実験データとモデル計算との対比が必要不可欠である。そこで、タンパク質の立体構造を考慮に入れたモデルについても考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
試験実験として行ったチトクロムcの実験データを詳細に解析し、論文としてまとめた(発表済)。また、ミオグロビンのいくつかの変異体に関する成果については、現在モデル計算を行い、論文としてまとめているところである。一部の変異体については安定な試料が得られていないが、変異体試料が不安定であることは当初から予想されていたことなので、そのための対策は考えてあり、現在はそれに沿って改善を図っているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
不安定な変異体試料の安定化を図ること、また新しい変異体試料の作製を試みることのふたつの方向で、試料の種類を増やし、タンパク質内のエネルギー移動の異方性について詳細に調べていく。また、二次構造に特徴のあるさまざまなタンパク質について測定を行うことによって、エネルギー散逸の立体構造依存性を調べる。
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