Research Abstract |
牛の中指骨遠位端から採取した軟骨組織から,酵素消化法により単離した初代軟骨細胞をアガロースゲルに播種し,生体組織モデルとした/この生体組織モデルの表面に対し,シリコンゴム表面層を持つポリプロピレンローラにより摺動負荷を加えながら培養し,培養軟骨細胞による摺動負荷に適応した組織内部構造の構築と組織表面への潤滑機能の発現について実験的に検証した. 培養実験では,モデル表面に対しローラを初期押し込み深さ0.2mmにて接触させ,ストローク1.6mmの純転がり往復しゅう動を1Hzにて12 hour/dayだけ加え,3週間培養した.この間,培地は毎日交換した.また対照群として,同一形状の試験片を同一環境にて摩擦負荷を与えずに3週間培養した.培養後の組織モデルについて,H型コラーゲンおよびグリコサミノグリカン(GAG)の一種であるケラタン硫酸を抗体染色法により蛍光標識し,培養中に産生されたこれら細胞外マトリックス(ECM)成分によりモデル内に形成された組織構造を共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)により観察した.また培養後の組織モデルのしゅう動部および非しゅう動部から直径3mmの円柱状試験片を採取し,購入したゲル粘弾性測定装置を用い,その粘弾性特性を評価した. CLSMにより取得された組織構造の画像より,しゅう動負荷を加えられたモデルでは,しゅう動部周辺で他の部位と比較し著しくコラーゲン線維量が増加していることが確認された.このしゅう動部周辺では細胞数の増加も画像から認められた.またしゅう動負荷培養後のモデル表面には,ケラタン硫酸が多く分布していることも確認された.これらの構造的特徴は対照群には認められず,組織表面へのしゅう動負荷が,表面近傍の細胞のECM産生と細胞分裂を選択的に刺激した可能性が示唆された.また粘弾性特性評価の結果,しゅう動負荷培養後のモデルは,対照群と比較し,貯蔵弾性率が高くなるとともに,損失弾性率も著しく高くなった.つまり,しゅう動負荷による組織構造の発達が機械的強度とエネルギー吸収特性の向上につながったことが確認された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り,摺動負荷培養実験を実施し,摺動負荷が培養軟骨細胞により形成される組織の構造に顕著な影響を与えることを示すことができた.また,形成された組織の年弾性特性を計測し,組織の形成に伴い貯蔵弾性率と損失弾性率の両者が増加することを確認することができた.表面の摩擦測定については,ゲル粘弾性測定装置による測定では必ずしも十分な精度での測定ができておらず,更なる検討が必要と思われる.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に沿って,摺動負荷により組織モデル内に生じる応力とひずみ等の力学的状態を規定する,「接触圧力」,「転がり速度,「滑り率」の3つの力学パラメータを変化させた摺動負荷実験を行い,培養軟骨細胞の代謝とそれによる組織形成に対する各パラメータの影響を評価する.また,これまで行ってきたCLSM観察による定性的組織形成の評価に加え,生化学分析によるコラーゲン線維および糖タンパク複合体といった細胞外マトリックス産生の定量を行い,摺動負荷の細胞代謝および組織形成に関する定量評価を行う.また,表面の摩擦特性についてより定量的に信頼性の高い評価を行うため,新たに摩擦試験機を製作する.
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