2012 Fiscal Year Annual Research Report
九州西岸で発生する潮位副振動(あびき)の予知と防災対策手法の開発
Project/Area Number |
23360217
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
浅野 敏之 鹿児島大学, 理工学研究科, 教授 (40111918)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山城 徹 鹿児島大学, 理工学研究科, 教授 (20158174)
田中 健路 広島工業大学, 環境学部, 准教授 (30315288)
齋田 倫範 鹿児島大学, 理工学研究科, 准教授 (80432863)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 潮位副振動 / 沿岸災害 / 気象津波 / 大気海洋結合過程 / 共鳴機構 |
Research Abstract |
① 気圧変動の観測・通信伝達システムの構築と大気場の数値シミュレーション 全球予報データを用いて中国南部沿岸域、華中平原、台湾上空を監視領域として、乾燥空気と対流圏中層の不安定と下層の安定場を解析することで、東シナ海上の気象津波および沿岸域での潮位副振動の発生に関する予報手法の構築を行った。2009年から2011年までに発生したあびきについて解析したところ、いずれの事例においても上述の大気構造が現れ、気圧微変動を伴う大気重力波が発生する際に東シナ海上でのProudman共鳴を生じやすい条件を満たしていることがわかった。 ② 外洋・沿岸域でのあびき長周期波の観測と、発生・発達・伝搬の数値シミュレーション 上甑島浦内湾の内外に8台の水位計、5台の流速計を配置し、約70日にわたる観測を実施した。今回の観測では外洋部において波による揺動で誤差が混入しないよう測定系の係留方法に注意を払った。精度の向上した観測データから水位偏差波形を抽出し、気象擾乱で発生する長周期波の伝搬・増幅過程の解明を進めた。数値解析では、沖合の長周期海面波の発生,外洋での海面波の伝搬速度と気圧変動の速度との関係,甑島湾内の増幅過程について,東シナ海全域にわたる高精度計算を実施し、伝搬に伴う各プロセスでの増幅過程の解明を進めた。 ③ 内湾でのあびきによる湾水振動の挙動の解明と防災対策の検討 甑島浦内湾内の潮位変動データを詳細解析し、地形形状で決まる固有振動モードの把握と、あびきによる長周期波の湾内増幅特性の解明について検討した。スペクトル比の平方根から算出した波高増幅率と、バネ-質点系 のアナロジーである増幅率指標Q値について定量的な評価を行った。甑島浦内湾のみならずあびき事象が発生した時の長崎湾や枕崎の潮位変動データも併せて解析したところ、両者の増幅率指標は湾形に対してほぼ普遍的な値となることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
気象庁提供の数値予報データGPVや気象衛星画像の解析に基づいて、中国大陸から九州西岸に至るまでの気圧微変動の発生と不安定気団の移動等に着目した大気場の数値解析については、着実に成果を挙げておりいくつかの査読付き論文を発表している。当初の計画では、甑島・女島・福江・対馬・長崎・枕崎など、多点の水位・気圧のあびき観測ネットワークを構築する予定であったが、自然条件の厳しい女島など遠島では試行はしたものの難しいため方針を変更した。地方気象台などから水位変動・気圧データの提供を受ける協力体制は確立した。気象擾乱に始まり沿岸の湾内で増幅が完了するまでの、一連の海洋長周期波の数値解析は、最終的に被災を受ける漁港・漁村部のあびき振幅を予測するところまでおおよそ達成できている。甑島浦内湾の湾外・湾内における水位・気圧観測については、十分な精度でデータを測得できており、固有振動特性、湾内増幅率などの解明も完了した段階にある。防災対策として防波堤・突堤を設置したときの局所的な増幅や先端部で生じる渦など未検討の課題も残されているが、大気場と海洋場の数値解析の成果を統合することにより、あびき予知を通じてあびき防災に資する成果が順調に得られていると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
① 気圧変動の観測・通信伝達システムの構築と大気場の数値シミュレーション あびきの発生した期間の気象庁提供の数値予報データGPV;MSMを収集・解析し、気象場からのあびきの予知の可能性を検討する。本研究で取得された観測事例を対象として、気象モデルWRFによる気圧微変動の高精度評価法の構築を行う。従来の方法では、海洋長波の外力要因となる気圧微変動自体は現れるものの、気圧微変動の振幅が実測に対して過小評価になる傾向になり、潮位副振動の予知への大きな障壁となっている。今後は、気象庁数値予報データをバックグラウンドデータとして用いて、鉛直方向の解像度、大気下層の水蒸気量の影響を考慮し、予報精度の向上に努める。 ② 外洋・沿岸域でのあびき長周期波の観測と、発生・発達・伝搬の数値シミュレーション 中国大陸を西端、九州西岸を東端とした東シナ海全域にわたる海面長周期波の数値シミュレーションを実施する。大領域から中領域・小領域へとネスティングし、広域にわたる高精度計算を実施することによって、あびきの発生・発達・伝搬・増幅の全体像を解明する。気圧変動によって励起される沖合の長周期海面波の発生波の特性については、大気海洋結合過程についての考察が必要であり、今後重点的に検討したい。 ③ 内湾でのあびきによる湾水振動の挙動の解明と防災対策の検討 測得された甑島浦内湾内の潮位変動と流速のデータを詳細解析し、地形形状で決まる固有振動モードの把握とともに、突出地形による流れの加速現象や渦形成などの特性を解明する。沿岸方向に進行する陸棚波(エッジ波)の進行速度と気象波の伝搬速度が近接した場合に、陸棚上で発達する副振動についても現地観測を行い、その増幅特性を明らかにする。これに関係づけて陸棚に向けて開口した湾の増幅特性を調べる。
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