2012 Fiscal Year Annual Research Report
地域生活記憶集積メカニズムの解明とアーカイブ施設の社会実験及びその運営手法の構築
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23360263
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大月 敏雄 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80282953)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 正美 京都文教大学, 公私立大学の部局等, 教授 (00298746)
篠原 聡子 日本女子大学, 家政学部, 教授 (20307987)
服部 岑生 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (40009527)
西川 祐子 京都文教大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (50183538)
岩本 通弥 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (60192506)
鈴木 雅之 千葉大学, 学内共同利用施設等, 助教 (90334169)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 記憶 / 継承 / 団地 / 集合住宅 / UR / アーカイブ / 支え合い |
Research Abstract |
昨年度に引き続き、UR赤羽台団地を対象として、昭和37年に建設されてから現在建替途上にある同団地における生活記憶の継承装置としての団地アーカイブ施設の運営を、社会実験として行った。2012年度においてはURから借用している空き店舗の適宜改装を伴いつつ、これまで単に物品展示に終始してきた同アーカイブにおいて、カフェ機能を併設し、団地内外の地域の居場所づくりという、新たなアーカイブ施設の機能展開の可能性を追求した。その結果、常連とも呼べる、新たな団地内人間関係の構築にも寄与することが分かった。団地の客観的歴史と、運営の主体となっている学生の駐在という二つの要素が、新たな場の構築に寄与しうるという結果が得られた。 また一方で、団地自治会と共同でアンケートならびにインタビュー調査を行い、高齢化が進む同団地における支えあいの可能性と団地の記憶継承の可能性についての分析を行った。その結果、団地内にはさまざまな支えあいの契機となる人間集団が形成されており、それらが自治会のようなフォーマルな組織から、複数人という小集団まで様々なタイプがあることが判明し、そのうちの一つとしてアーカイブ施設を取り巻く人間関係も挙げられることが分かった。こうした、身近な歴史を取り扱う場をオープンにしておくことの、地域社会としての可能性を確認できた。 さらに、上記のような活動の成果を、年度末に、北区飛鳥山博物館と共同で発表することができ、地元のCATV等でとりあげられた。 一方で、従来から継続的に行っている、国内外の居住地におけるアーカイブ施設の事例調査も引き続き行っている。特に、ドイツ、ハンブルグにおける戦時中から継承される団地に関するアーカイビング活動が、オーラルヒストリーの記録保存とともに多様に展開しているという先進的事例を発見することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、住宅地における記憶の継承をテーマにし、日本ではなかなか明示的には取り上げられない記憶の継承という課題を、社会実験によって作り出される地域アーカイブ施設の具体的運用によって、明らかにすることを目指している。本研究ではすでに、UR赤羽台団地において長期間の建て替えに伴い、空き店舗となっている店舗を借り受け、学生主体の活動としての地域アーカイブ施設を実験的に運用して、すでに3年がたっている。この間、地域に住む居住者が旧住棟から新住棟に移る際に廃棄したものを居住者の了解のものとに展示していくことが、地域アーカイブ施設の主要因となりうることが実証できた。のみならず、アーカイブ施設という場が存在することにより、ここを拠点とした新たな居住者同士のつながりの場も形成できることが明らかになった。 さらに、店舗施設内での展開ばかりではなく、施設外の外部空間でピクニックやオリエンテーリングやスタンプラリーといった活動を通して、団地内外の書空間にまつわる記憶を複数人で継承するという試みも有効であることが実証できた。 また、このアーカイブ活動を通して、団地自治会との協働作業も生まれ、毎年行われる夏祭りが、この団地にゆかりのある多数の人々の、団地生活の共同的記憶装置となっていることを突き止めた。 一方で、今後のこの種のアーカイブ施設の具体的運用を考えるに当たり、国内外の同種の施設の運用状況の実態を補足し整理分析する作業も行っており、特にヨーロッパ各国での取り組みが明らかになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、計画住宅地のアーカイブ活動に関する国内外の活動について現地調査を行う。そしてそこで得られた計画住宅地のアーカイブ活動に関わる諸団体や個人を招き、国内公開研究会を実施する。この目的は、本申請研究の中間とりまとめとその報告会を行うことであるが、あわせて、これまで行ってってきた国内調査活動で関係構築のできた諸団体や個人とのネットワーク形成と強化も目指していく予定である。また、この記録を中間報告という形でホームページなどで公開に付す予定である。 また、実践面としては、引き続き赤羽大団地における、赤羽台団地自治会などの地域居住者組織とともにおこなう、アーカイブを中心とした社会実験施設を継続的に運営し、単なるアーカイブ施設ではなく、その空間を通じてコミュニティ形成とともに記憶の継承が行なわれるようなプログラム展開をし、その検証を、インタビューやアンケート調査などを通じて行う。 この活動については、昨年度から共同関係にある、北区の郷土博物館と連携して、アーカイブ展示活動を行い、それを起点として研究成果の社会還元を目指す。また、赤羽台団地のみならず、隣接する都営桐が丘団地を含め、地域にまだ多少残存する同潤会木造住宅(赤羽普通住宅)、勤め人向け住宅(赤羽勤め人向け住宅)のエリアにも、活動地域を展開予定である。これに関連して、同潤会最後のアパートである上野下アパートでの記録保存活動も展開する。
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