2012 Fiscal Year Annual Research Report
多機能融合酸化物薄膜への機能元素ドープ効果とフェロイック物性間の関係解明
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23360284
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
坂本 渉 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 准教授 (50273264)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 誘電体物性 / 強誘電特性 / 磁気的特性 / 格子欠陥 / 薄膜作製 / 機能元素ドープ / リーク電流特性 |
Research Abstract |
平成24年度は主に、BiFeO3系マルチフェロイック酸化物およびBiFeO3と同様に構成元素として揮発性元素を含有する他のペロブスカイト強誘電体酸化物の薄膜における機能元素の微量ドープが電気的特性(特に絶縁特性)に及ぼす影響について明らかにした。ここでは、機能元素として前年度に特性向上効果が顕著であった遷移金属元素であるマンガン(Mn)を中心に調べた。このMnについては、薄膜中の揮発性金属元素(Pb, Bi, アルカリ金属)が結晶化のための加熱処理過程で酸素空孔の生成を伴って欠損した後に、生成した酸素空孔が再び酸化されることに起因するホール導電(絶縁性劣化)を抑制する効果があることを実験的に明らかにした。BiFeO3系化合物ではFeのようなMnと同様の電子配置となる遷移金属イオンを含むため、Mnの価数解析が非常に困難であったが、ニオブ酸・チタン酸化合物のような他のペロブスカイト強誘電体酸化物について電子スピン共鳴法を用いて調べることにより、Mnの価数状態解析を行うことができた。ここでの結果は前年度の光電子分光法による解析結果を支持するものであり、ドープ元素であるMnには、その価数変化により上記ホール導電の原因となるホールをトラップし、薄膜の絶縁性を高めるはたらきがあることがわかった。このような薄膜内のチャージバランス達成のためのMnの価数変化によるバッファとしてのはたらきと最適ドープ量との関係解明については今後の課題である。さらに、走査型プローブ顕微鏡を用いた薄膜評価においては、前年度に確認されている電界印可により分極反転させたエリアにおいて、磁気力顕微鏡により磁気的な応答変化(磁気電気相互作用)を検出した。また、ナノインデンテーション法により薄膜の結晶格子歪み状態と薄膜の硬度・ヤング率(機械的特性)との関係についての基礎データ(相関関係)を取得することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの達成度としては、おおむね順調に進展していると考えられる。その理由として、BiFeO3系マルチフェロイック酸化物薄膜における機能元素の微量ドープが電気的特性(特に絶縁特性)向上に及ぼす効果の解明について、機能元素であるMnの価数(酸化数)の変化を電子スピン共鳴法など分光学的な手法を用いて解析することにより、特性向上メカニズムを明らかにすることができ、本研究課題の大きな目標を達成できたことが挙げられる。ここでは特に、他の強誘電体化合物(揮発性金属元素を含有するが、Feのような磁性イオンが構成元素でないもの)の薄膜についても検討を行い上記の確証を得た(前年度までのデータを支持するデータが取得できた)ことは大きな成果である。さらに、走査型プローブ顕微鏡を用いたマルチフェロイック薄膜の評価においては、前年度に確認されている電界印可による分極反転現象に加え、薄膜内で分極反転させたエリア(領域)において、磁気力顕微鏡により磁気的な応答の変化(磁気電気相互作用)を検出するという目標も達成できた。また、本年度はナノインデンテーション法による薄膜の結晶格子歪み状態と薄膜の硬度・ヤング率(機械的特性)との関係に関する基礎データ(相関関係)も取得することができており、今後のさらなる評価が期待される状況になっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、BiFeO3系マルチフェロイック薄膜の特性発現の鍵を握る機能元素の状態解析(+構成イオン間の結合状態解析)をさらに詳細に進め、薄膜中の格子欠陥と絶縁特性との関係および(強)誘電特性と磁気特性間の関係(磁気・電気相互作用)について明らかにする。特に、磁気・電気相互作用については、電場、磁場印可下での各特性に関する(より正確な)応答解析法の確立を行う。さらに、作製膜のナノ構造(本化合物系における物性発現の起源となる結晶格子歪み構造を含む)について各種分光学的な手法および透過型電子顕微鏡観察などにより明確化する。また、作製した機能融合材料薄膜のデバイス応用(センサ素子など)に対する可能性探索を行うため、本研究で作製した薄膜の微細加工を行い、諸特性評価を進め、実際のデバイス応用に関する適合性について調べる。ここでは、デバイス化を考えた磁化現象と分極反転現象の相互作用から生じる信号強度に関する問題点と改善点を明らかにし、新規のマルチフェロイック酸化物薄膜デバイスの提案を行い、実際の応用に向けた指針を確立する。
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Research Products
(18 results)