2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23360366
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
高木 昌宏 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 教授 (00183434)
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Keywords | コレステロール / リポソーム / 曲率 / 液滴 |
Research Abstract |
(背景)細胞膜は内層と外層では曲率差が存在している。コレステロール(Chol)は、脂質分子の間に入り、脂質の相互作用を変化させる役割が知られている。本研究では、液滴及びリポソームのサイズ分布に着目し、膜二層構造におけるCholの役割について調べた。(方法)外層及び内層に1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DOPC)を用いて液滴法によりリポソームを作製し、位相差倒立顕微鏡により観察した。次に、外層にDOPC/Chol=50/50を用いた場合、内層にDOPC/Chol=50/50を用いた場合、外層及び内層にDOPC/Chol=75/25を用いた場合で観察し、液滴及びリポソームのサイズ分布を測定し比較した。また、内層にDOPC/Oxycholを用いた場合も行い比較した。 (結果・考察)界面(外層)、液滴(内層)ともにDOPCを用いてリポソームを作製した場合、リポソーム形成率は28.0%、細胞サイズリポソームの形成率は22.6%となった。外層にDOPC、内層にCholを用いた場合、細胞サイズリポソーム形成率が上昇した。つまり、内層にCholを用いることが、細胞サイズリポソームの曲率の安定に重要であると考えられた。 内層にOxycholを用いた場合では、リポソームの曲率が上昇し、同時に細胞サイズリポソームの数及び形成率が減少する結果となった。これは、Oxycholの親水性部分がリポソーム内部に露出し曲率が上昇した結果、サイズが縮小したことが示唆される。 そこで、滴下前の液滴を観察したところ、DOPC/Chol=50/50の場合ではDOPCのみの場合よりもサイズが大きく、DOPC/Oxychol=50/50の場合ではサイズが縮小した。この結果から、リポソームの曲率及びサイズは液滴のCholに依存していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞膜の二層構造でのコレステロールの役割を調べるために、液滴を用いたリポソーム作製法である液滴法を用いた。内層膜にコレステロールを含有した場合、外層膜にコレステロールを含有した場合で、リポソームを作製した結果、内層膜にコレステロールを含有した場合に細胞サイズのリポソームが形成した。また、内層膜に酸化コレステロールを含有した場合、外層膜に酸化コレステロールを含有した場合でリポソームを作製した結果、リポソームサイズが縮小し、特に内層膜に酸化コレステロールを含有した場合に顕著なサイズの縮小が示された。また、生体温度に近い37.0 ℃の条件によって二相系内でリポソームを作製した。その結果、全体的にリポソームサイズが縮小する傾向がみられた。しかしながら、内層にコレステロールを含有した場合にはその傾向が小さい結果となった。以上から2分子膜に存在するコレステロールは内層に多く存在することで細胞サイズリポソームが形成されると示唆された。実験結果より以下の3点を明らかにした。1. 細胞サイズリポソームは内層にコレステロール含有する場合に安定的に形成する。2. コレステロールや酸化コレステロールは細胞サイズリポソームの安定性に深く影響する。3. リポソームサイズは生体温度条件では縮小するが内層にコレステロールを含有することでリポソームサイズの縮小が抑制される。したがって、コレステロールは細胞サイズリポソームの膜二層構造内において、細胞サイズを維持する重要な役割を持つことが明らかとなった。これらの知見は、従来のコレステロールの膜における機能に、新たな知見をもたらすもので、興味深い進展であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
脂質膜を対象に、生きた細胞の現象(エンドサイトーシス、小胞輸送、オートファジー等)について、リポソームを用いて再現しつつ、生体物質(核酸、ペプチドなど)あるいは人工物(ナノ粒子、人工膜チャネル等)と膜の相互作用、相互作用が引き起こすダイナミクスに関して研究を行っていきたい。常にモデル膜系と生きた細胞の両面からのアプローチにより、生物学と物理学の境界領域における研究を行う。 我々は、最近、膜の2次元的・3次元的構造変化を、可逆的に制御する技術や、ナノ粒子の膜とのサイズ依存的な相互作用に関する研究成果を、国際的な論文誌に発表している。 現象論が先行して、エネルギーの観点から物理的・定量的な解析が不十分な膜ダイナミクスの分野に、エネルギー状態解析を用いて、従来の物性解析の結果に対する理論的な裏付けを行い、さらには常識を覆す多彩な膜構造空間の創出、空間内部の反応のデザインと制御を目指す。物理的定量解析は、「分子ロボット」に関わる理論研究者にも情報を提供することができ、将来的にはミクロ空間そのものを、人工物質で構築することも可能となるであろう。 得られると予想される研究成果は、長期的には、細胞機能を凌駕する膜ミクロ空間に関する計測・設計理論、さらには、膜を介した情報伝達と膜内での反応を連携させた機構の設計である。これらは実質的な「分子ロボット」構築につながる。短期的には、薬物・遺伝子送達やマイクロラボラトリーの開発などが挙げられ、基礎・応用の両面に役立つことが期待できる。
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Research Products
(7 results)