2012 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫サイトカイン依存的な新しい自然免疫活性化経路の証明
Project/Area Number |
23370034
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
早川 洋一 佐賀大学, 農学部, 教授 (50164926)
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Project Period (FY) |
2011-11-18 – 2015-03-31
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Keywords | 昆虫 / サイトカイン / 自然免疫 / growth-blocking peptide / 体液性免疫 / 細胞性免疫 |
Research Abstract |
Growth-blocking peptide(GBP)は、20年前に申請者がアワヨトウ蛾幼虫から発見した昆虫サイトカインである。私達は、このGBPが種々のストレスによって変動する昆虫自然免疫活性の調節因子ではないか、と予想した。病原菌の侵入による自然免疫活性化機構に関してはショウジョウバエや哺乳類においても膨大な報告があるものの、異物侵入を伴わない自然免疫活性調節については未だに未解明な系である。本年度は、GBPが異物侵入非依存的な自然免疫活性調節因子であることを証明できた。すなわち、ショウジョウバエGBPを同定して、GBP強制発現ショウジョウバエ系統を作成し、その幼虫体内で7種類の抗菌ペプチド遺伝子発現活性を測定した結果、MetchnikowinとDiptericin遺伝子で有意な発現上昇を確認できた。次に、GBP RNAiショウジョウバエ系統を作成し、病原菌感染に伴うMetchnikowinとDiptericin遺伝子発現を測定した結果、共に、コントロール幼虫に比べ感染に伴う遺伝子発現上昇が有意に低いということが分かった。さらに、10度から25度への温度ストレス、ピンセットによる無傷の摘み刺激、さらに、4度の低温ストレスに伴うMetchnikowin遺伝子発現上昇が、GBP RNAi系統では著しく低下していることを確認できた。すなわち、これらの結果は、GBPが病原菌の感染によるストレス時にはもちろん、さらに、非感染性の温度ストレスや機械的ストレスによって変動する昆虫の抗菌ペプチド遺伝子発現を調節するサイトカインであることを示唆するものである。さらに、ショウジョウバエGBPは、こうした体液性の自然免疫調節活性のみならず血球などの細胞性免疫活性を調節するサイトカインであることも証明した。しかも、その活性化に関わる細胞内情報伝達経路についても概ね解明することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究成果は以下に指摘する2点において新規性の高い結果と言えるため、研究は概ね順調に進展しているものと評価できる。 1)本研究によって、ショウジョウバエ幼虫におけるGBPの体液性自然免疫活性調節は、GBP-GBPレセプター-IMD-JNK-AP1という細胞内情報伝達経路を経てなされることを証明した。この情報伝達経路はこれまで報告されていない全く新規の経路であり、極めて重要な発見と言える。 2)GBPによる血球の免疫活性調節過程で、抗菌ペプチド遺伝子発現誘導、すなわち、体液性自然免疫活性化と、GBPによる細胞性免疫活性化は、血球の細胞内で密接な相互関係を構築していることを発見した。すなわち、血球は抗菌ペプチドを産生・分泌する体液性免疫活性を有している一方で、異物に対する貪食や包囲化といった物理的な攻撃(細胞性免疫)にも関与する重要な器官である。本研究によって、GBPは血球の体液性と細胞性の両免疫活性をどのように調節しているか、という問題に対して重要な示唆的結果を得た。具体的には、GBPによる血球活性化は、GBP依存的細胞内カルシウム濃度上昇―proPVF分泌―proPVFからPVFへのプロセシング―PVRの活性化―ERK活性化―血球活性化、という情報伝達経路によって誘起されること、さらに、この経路が活性化している血球では、抗菌ペプヂド遺伝子発現は上昇しないことを証明した。すなわち、GBPによる血球活性化は体液性免疫、あるいは、細胞性免疫いずれか一方への活性化しか起こらず、その方向性は血球のPVF-PVR-ERK経路の活性の高さに依存することを実証したことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、特に、細胞外のGBP活性調節機構解析に重点を置いて研究を進める。GBPは前駆体(proGBP)として生合成されたのち血中へ放出され、血清中に比較的高濃度存在すること、そのカルボキシ末端側にコードされるGBPペプチド領域がストレス条件下でプロテアーゼによって切断されて活性型GBPへとプロセシングされること、さらに、この反応には特異的セリン型プロテアーゼが関与することを確認済みである。このセリン型プロテアーゼの単離、構造決定が今年度の研究となる。最初の段階は生化学的実験手法が中心となるので、大型昆虫であるアワヨトウ蛾を用い、その幼虫体液からプロセシング酵素の精製を開始する。精製はプロテアーゼ活性が指標となる。その為、予め大腸菌によるproGBP遺伝子発現系を構築し、精製ターゲット酵素の反応基質となるアワヨトウproGBPを十分量調製する必要がある。このin vitro 発現系の最適化はほぼ完了している。次に、プロセシング酵素の精製である。採血したアワヨトウ終齢幼虫体液から素早く血球を遠心除去 した血清中には、proGBPプロセシング酵素活性が存在することを確認している。ただ、このproGBP切断が生体内での切断箇所で正確に起こっているかどうかについては確認できていないので、まず、この点を明らかにする。確認後、プロテアーゼの精製に着手する。酵素活性を保ちつつ調製した血清分画をヘパリンかトリプシンインヒビターをリガンドに用いるアフィニティーカラムクロマトグラフィーに供し、得られた活性分画をイオン交換、疎水カラムクロマトグラフィー、最終的に、基質であるproGBPをリガンドに用いるアフィニティーカラムクロマトグラフィーによって精製純度を上げる。ペプチドシーケンサーによるN末端解析とLC-MS/MSによるde novoシークエンシングを行い、アミノ酸配列情報を得る。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Drosophila growth-blocking peptide-like factor mediates acute immune reactions during infectious and non-infectious stress.2012
Author(s)
Tsuzuki, S., Ochiai, M., Matsumoto, H., Kurata, S., Ohnishi, A. and Hayakawa, Y.
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 2
Pages: 210
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Activation of PLC by an endogenous cytokine (GBP) in Drosophila S3 cells and its application as a model for studying inositol phosphate signaling through ITPK1.2012
Author(s)
Zhou, Y., Wu, S., Wang, H., Hayakawa, Y., Bird, G.S., and Shears, S.B.
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Journal Title
Biochemical Journal
Volume: 448
Pages: 273-283
DOI
Peer Reviewed
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