2011 Fiscal Year Annual Research Report
葉緑体遺伝子の選択的発現制御システムの解明とその活用
Project/Area Number |
23380205
|
Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
小林 裕和 静岡県立大学, 融合科学研究科(研究院), 教授 (80170348)
|
Keywords | シグナル伝達 / 転写制御 / タンパク質リン酸化 / 葉緑体 / 植物 |
Research Abstract |
光の強度および波長 (赤色あるいは昼光色) を感知した葉緑体遺伝子発現の制御に介在する機構を解明する。本年度は、以下の研究を実施した。 ① シグマ因子 (SIG) をリン酸化するタンパク質キナーゼおよびそのキナーゼ・カスケードの同定:コムギ無細胞タンパク質合成系にタンパク質間相互作用検出系AlphaScreen (PerkinElmer) を適用し、SIG1と相互作用を示す49種のタンパク質キナーゼ候補を特定した。また、[γ-32P]ATPを用いたリン酸化アッセイにより、コムギ抽出液中にSIG1のThr-170をリン酸化する活性を見出した。リン酸化アッセイを用い、SIG1をリン酸化するタンパク質キナーゼとして、シロイヌナズナからは4種に絞り込んだ。 ② リン酸化SIG1を脱リン酸化するタンパク質ホスファターゼの同定:コムギ無細胞タンパク質合成系を用いタンパク質ホスファターゼを生産し、AlphaScreenによりリン酸化SIG1タンパク質との相互作用の検出を試みた。残念ながら、この方法では有意なシグナルが検出されず、リン酸化SIG1とタンパク質ホスファターゼとの相互作用 (結合力) は、SIG1とそのタンパク質キナーゼとの相互作用に比べ弱いと判断された。 ③ 異波長光照射による葉緑体遺伝子psaAの発現制御の解析:野生型系統シロイヌナズナを用い、昼光色光を対照として、青色光 (450 nm) あるいは赤色・赤外光 (660~730 nm) を照射した際のpsaA遺伝子の発現を解析した。700~710 nm の光により、psaA遺伝子の発現は最も抑制された。 ④ 葉緑体形質転換可能植物種および栽培植物種への応用研究の準備:栽培植物種としては、静岡県が日本一の生産高を誇るチャに注目し、品種「やぶきた」の一番茶の新葉からmRNAを調製し、シーケンス用cDNAライブラリーを作製した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績の概要」において記載した研究項目 (①~④) は、平成23年度の交付申請書の「本年度の研究実施計画」と対応する。今後の課題としては、以下が挙げられる。 ① シグマ因子 (SIG) をリン酸化するタンパク質キナーゼおよびそのキナーゼ・カスケードの同定:タンパク質キナーゼ反応実験においては、タンパク質キナーゼ候補の自己リン酸化に相当する分子量のシグナルが観察された。タンパク質キナーゼ候補4種は、分子量が50~58 kDaであり、SIG1の分子量56 kDaと極めて近い。また、タンパク質キナーゼ反応後はbiotin-streptavidin系を用いてSIG1を回収しているが、タンパク質キナーゼ候補はSIG1に結合して回収されると判断される。truncateしたSIG1の調製を検討する ② リン酸化SIG1を脱リン酸化するタンパク質ホスファターゼの同定:リン酸化SIG1とのタンパク質ホスファターゼとの相互作用は、SIG1とそのタンパク質キナーゼとの相互作用に比べ弱いと判断されるため、AlphaScreenに代わる新規なアプローチが必要となる。 ③ 異波長光照射による葉緑体遺伝子psaAの発現制御の解析:野生型SIG1あるいはリン酸化部位欠失sig1(T170V) を強制発現させたシロイヌナズナを用いた同様の実験が、今後の課題となる。 ④ 葉緑体形質転換可能植物種および栽培植物種への応用研究の準備:計画通り達成された。
|
Strategy for Future Research Activity |
① シグマ因子 (SIG) をリン酸化するタンパク質キナーゼおよびそのキナーゼ・カスケードの同定:コムギ無細胞タンパク質合成系に内在するタンパク質キナーゼがSIG1をリン酸化する可能性を見いだしたため、SIG1-GST (グルタチン-S-転移酵素) に結合したタンパク質キナーゼを回収し、MALDI-TOF-MSによりタンパク質キナーゼを同定する。これらの遺伝子のオルソログのシロイヌナズナ欠失変異系統を用い、欠失変異系統における光を感知した葉緑体遺伝子発現を解析する。 ② リン酸化SIG1を脱リン酸化するタンパク質ホスファターゼの同定:リン酸化SIG1タンパク質とタンパク質ホスファターゼの相互作用は弱いため、タンパク質相互作用に基づく戦略に限界があることが判明した。したがって、入手可能なタンパク質ホスファターゼ遺伝子の欠失変異系統を用い、pulse amplitude modulated (PAM) 蛍光および遅延蛍光計測において表現型が異常になったものを選抜する。 ③ 異波長光照射による葉緑体遺伝子psaAの発現制御の解析:光技術を活用した遺伝子発現の制御が可能な葉緑体工学の樹立を目指す。psaAプロモーターの制御下に強制発現させたい目的遺伝子のRNAiコンストラクトを置き、葉緑体に導入後、近赤外光 (700~710 nm) を照射した際に目的遺伝子の発現抑制が解除されるかを検討する。 ④ 葉緑体形質転換可能植物種および栽培植物種への応用研究の準備:チャは栽培時の遮光により玉露あるいは白葉茶になる。シーケンス用cDNAライブラリーを用い、3' EST高速シーケンス解析 (FLX+) データベースを構築する。これを用いてDNAマイクロアレイを作製し、遮光チャ葉における遺伝子発現を包括的に解析する。
|