2012 Fiscal Year Annual Research Report
染色体ダイナミクスによる新しいエピジェネティックな遺伝子発現制御機構
Project/Area Number |
23390068
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
縣 保年 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60263141)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | エピジェネティクス / 染色体ダイナミクス / コヒーシン / CTCF / 遺伝子発現 / クロマチン / ChIP-Seq / 3C アッセイ |
Research Abstract |
細胞分化における遺伝子発現の変化には、染色体分配に関わるコヒーシンや、インシュレーターに結合するCTCFなどによる染色体のルーピングが関与することが明らかにされつつある。そこで本研究では、これらの因子による染色体ダイナミクスを介した遺伝子発現制御機構を解明することを目的として、T細胞へ分化誘導可能な造血系前駆細胞(EBF KO proB細胞)を用いて以下のような解析を行なった。 まずコヒーシンとCTCFが結合する遺伝子をゲノムワイドに同定するために、未分化なEBF KO proB細胞と、Notchリガンドを発現するストローマ細胞上でIL-7濃度を下げ、T細胞へと分化誘導させた細胞で、コヒーシンのサブユニットRad21とCTCFに対するChIPを行ない、免疫沈降されたゲノムDNAを次世代シークエンサーによって解析した(ChIP-Seq解析)。その結果多くの結合遺伝子を同定することができた。 次にコヒーシンとCTCFによる遺伝子発現制御や細胞分化能を解析するために、それぞれに対するshRNA発現レトロウイルスベクターを作製し、ノックダウンが確認できた未分化なEBF KO proB細胞と、T細胞へ分化誘導した細胞からmRNAを調製し、マイクロアレイ解析を行なった。その結果、ChIP-Seqで同定されたRad21とCTCFが結合する遺伝子の中に、TCF1、Gata3、Dtx1、Bcl11bなどのT細胞の分化誘導に伴って発現が上昇するT細胞分化の制御遺伝子が存在し、それらの発現がRad21とCTCFのノックダウンによって、さらに上昇することがわかった。そこでT細胞への分化状態を調べたところ、Rad21とCTCFのノックダウンによってT細胞への分化が促進されたことから、コヒーシンとCTCFはこれらの遺伝子の発現を負に制御することにより、分化を抑制する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コヒーシンやCTCFが結合する遺伝子領域をゲノムワイドに同定するために、T細胞へ分化誘導可能な造血系前駆細胞(EBF KO proB細胞)を用いて、コヒーシンのサブユニットRad21とCTCFに対するChIP-Seq解析を行ない、多くの結合遺伝子を同定することができた。さらに、コヒーシンとCTCFのノックダウンによる細胞分化能と遺伝子発現変化の解析においては、Rad21とCTCFに対するshRNA発現レトロウイルスベクターを導入し、これらの因子をノックダウンした未分化なEBF KO proB細胞と、Notchリガンドを発現するストローマ細胞上でIL-7濃度を下げ、T細胞へ分化誘導したEBF KO proB細胞からそれぞれmRNAを調製し、マイクロアレイ解析を行なった。 一方、ES細胞では、分化制御に重要なNanogやOct4などの転写因子の遺伝子発現が、コヒーシンによる染色体ルーピングを介して制御されることから、造血系前駆細胞でも主に分化制御に重要な転写因子の発現が、コヒーシンによって制御されている可能性を想定した。そこで転写因子に着目し、上記のChIP-Seq解析とマイクロアレイ解析の結果を併せて絞り込みをかけたところ、コヒーシンとCTCFが、T細胞の分化誘導に伴って発現が上昇するTCF1、Gata3、Dtx1、Bcl11bなどのT細胞の初期分化を制御する転写因子の遺伝子領域に結合することがわかった。さらにそれらの転写因子の遺伝子発現が、コヒーシンとCTCFのノックダウンによって上昇したことから、細胞の分化能に変化が生じないか表面マーカー等のFACS解析を行なったところ、コヒーシンとCTCFのノックダウンによってT細胞への初期分化が促進される結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
ChIP-Seq解析とマイクロアレイ解析の結果を併せて転写因子に絞り込みをかけた結果、コヒーシンとCTCFが、T細胞の分化誘導に伴って発現が上昇するTCF1、Gata3、Dtx1、Bcl11bなどのT細胞の初期分化を制御する転写因子の遺伝子領域に結合することがわかった。そこでこれらの転写因子の遺伝子について、コヒーシンが直接ルーピング等の染色体構造変化に関与するか、染色体領域の相互作用を高解像度で解析できるchromosome conformation capture (3C)アッセイによって検討を行なうとともに、それらの遺伝子をノックダウンして細胞分化能に変化が出ないか解析する。また、もしそれぞれの領域間の距離が3D-FISHで解析できるほど離れていれば、3D-FISHによっても接近状態を測定する。相互作用が確認された場合、コヒーシンのノックダウンによって相互作用が消失するか調べる。さらに結合領域がエンハンサーやプロモーター、あるいはそれらの相互作用をブロックするインシュレーターとして機能するか、レポーターアッセイによって解析を行なう。 さらにコヒーシンのノックダウンによってT細胞への初期分化が促進される結果が得られたことから、in vivoでのコヒーシンのT細胞分化における役割を明らかにするために、コヒーシンのサブユニットSmc3遺伝子のfloxマウスを、様々なT細胞の分化段階で遺伝子を欠失することが可能な各種Creマウス(Cpa3-Cre, Lck-Cre, CD4-Creマウス)と交配し、Smc3遺伝子を欠失させた時のT細胞の分化異常や、遺伝子発現変化をマイクロアレイ解析する。発現の変化が見られた遺伝子のうち、コヒーシンが結合する遺伝子をChIP-Seq解析によって絞り込み、さらに上記の3Cアッセイや3D-FISHによって染色体構造変化の解析を行なう。
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[Journal Article] E2A and CBP/p300 act in synergy to promote chromatin accessibility of the immunoglobulin κ locus.2012
Author(s)
Sakamoto S, Wakae K, Anzai Y, Murai K, Tamaki N, Miyazaki M, Miyazaki K, Romanow WJ, Ikawa T, Kitamura D, Yanagihara I, Minato N, Murre C, *Agata Y
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Journal Title
J Immunol.
Volume: 188
Pages: 5547-5560
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] High expression of nuclear factor 90 (NF90) leads to mitochondrial degradation in skeletal and cardiac muscles.2012
Author(s)
Higuchi T, Sakamoto S, Kakinuma Y, Kai S, Yagyu K, Todaka H, Chi E, Okada S, Ujihara T, Morisawa K, Ono M, Sugiyama Y, Ishida W, Fukushima A, Tsuda M, Agata Y, Taniguchi T
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Journal Title
PLoS One
Volume: 7
Pages: e43340
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Reciprocal control of G1-phase progression is required for Th-POK/Runx3-mediated CD4/8 thymocyte cell fate decision.2012
Author(s)
Sato T, Chiba T, Ohno S, Sato C, Sugoh T, Miyashita K, Akatsuka H, Hozumi K, Okada Y, Iida Y, Akatsuka A, Agata Y, Chiba M, Kohu K, Satake M, Tanabe H, Saya H, Habu S
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Journal Title
J Immunol.
Volume: 189
Pages: 4426-4436
DOI
Peer Reviewed