2011 Fiscal Year Annual Research Report
クジラ類由来高濃度メチル水銀曝露の健康影響に関する研究
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23390168
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Research Institution | National Institute for Minamata Disease |
Principal Investigator |
中村 政明 国立水俣病総合研究センター, 臨床部, 室長 (50399672)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂本 峰至 国立水俣病総合研究センター, 国際・総合研究部, 部長 (60344420)
蜂谷 紀之 国立水俣病総合研究センター, 疫学研究部, 室長 (90124643)
村田 顕也 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (90264853)
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Keywords | 環境中毒 / クジラ / メチル水銀 / 健康影響 |
Research Abstract |
194名(男117名、女77名)の神経内科検診(嗅覚検査と上肢運動機能評価システム検査を含む)を行い、成人の健康影響(神経障害)を調べた。毛髪水銀濃度の幾何平均値は全体で15.1 ppm、男性で17.8 ppm、女性で11.8 ppmであった。上記診察の結果、感覚障害など神経症状が疑われる症例については、聴力検査(31名)、筋電図検査(24名)、MRI検査(頭部:8名;頸椎:10名;腰椎:9名)による精査を行った。今回の健康調査の範囲内では、メチル水銀中毒の可能性を疑わせる者は認められなかった。次に、神経所見、検査所見と毛髪水銀濃度の関連について統計学的解析を行った。多変量解析は、対数変換した毛髪水銀濃度のほか、年齢「性別を独立変数とする重回帰分析あるいは多重ロジスティック回帰分析を実施した。年齢、性別と有意な関連を示す神経症候はあったが、毛髪水銀濃度と有意な関連を認める神経症候は無かった。嗅覚は、年齢と有意の負の関連を示したが、性別および毛髪水銀濃度との関連は認めなかった。また、横断研究であり、かつ交絡因子の影響を十分に除外していない可能性があるため因果関係については言及できないが、上肢運動機能評価システムの解析では、描画の正確さ・滑らかさ・指標追跡能力・動作時の震えに対して水銀曝露はむしろ良好な関連が示された。 平成19-20年に太地町沖で捕獲された歯クジラ類 (スジイルカ (n=29)、マゴンドウ (n=30)、ハナゴンドウ (n= 31)、ハンドウイルカ (n=31))の筋肉の総水銀、メチル水銀、セレンの濃度を測定した。検討した歯クジラ類は、比較的高濃度の水銀を体内に 蓄積するが、無機化能力が 高いと思われ、メチル水銀 濃度は一定で頭打ちになっていた。 また、無機化水銀はセレンと1:1で結合し、非活性で 無毒なセレン化水銀であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脳磁計の検査(10名)を除けば、神経内科診察、MRI検査、筋電図検査および主要なメチル水銀曝露源と想定されるクジラの総水銀、メチル水銀、水銀の毒性軽減作用のあるセレンなどの分析を終えることができた。実施出来なかった脳磁計検査も平成24年6月には実施予定になっていることから、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 成人の健康影響(神経障害)調査: メチル水銀中毒の中核となる症候は中枢性感覚障害であるため、2点識別覚や皮膚書字覚、立体覚などは重要な検査法であり、昨年度の神経内科診察でも行ったが、これらの方法は被験者の主観に基づいたものであり、特異性や感受性に乏しいという欠点があった。そこで、今年度は、脳磁計を用いてメチル水銀曝露による成人の健康影響(感覚野の機能障害)について詳細に検討する。脳磁計検査は、神経内科検診を受けられた被験者のうち、これまでの毛髪水銀濃度が一度でもWHOクライテリアで神経症状発現の下限値とされる50 ppmを上回る毛髪水銀濃度を呈した被験者について、研究協力を得られた者全員を対象に実施する。 2) メチル水銀曝露による小児発達への影響調査: 研究計画では成人の循環器疾患のリスク因子に関する調査を行う予定であったが、クジラ(や魚)を食べる習慣のある地域の母親の妊娠期間中のメチル水銀曝露量は一般日本人よりはるかに高い可能性があるため、現在世界でも注目されているメチル水銀の小児発達への影響調査に変更した。太地町の小学生と母親を対象に、親子の毛髪水銀濃度および臍帯水銀濃度を測定し、現在および胎児期のメチル水銀曝露状況を評価するとともに、小児神経機能評価を実施し、メチル水銀曝露による小児発達への影響を検討する。
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Research Products
(1 results)