2013 Fiscal Year Annual Research Report
聴覚受容体遺伝子の機能解析および難聴モデルマウスの作製
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23390399
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
鵜川 眞也 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20326135)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野口 佳裕 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 講師 (50282752)
村上 信五 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80157750)
梶田 健二 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (80381820)
喜多村 健 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (90010470)
植田 高史 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90244540)
佐久間 英輔 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90295585)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 聴覚受容体 / 機械刺激受容チャネル / 酸感受性イオンチャネル / ASIC1b / 有毛細胞 / ノックアウトマウス / 国際研究者交流 / 英国 |
Research Abstract |
マウス蝸牛有毛細胞の感覚毛には機械刺激受容チャネル、すなわち聴覚受容チャネル(METチャネル)が存在し、鼓膜の振動に由来する機械刺激を電気信号に変換している(MET電流の惹起)が、その分子実体は不明である。われわれは、線虫機械刺激受容チャネルdegenerinsの哺乳類相同遺伝子である酸感受性イオンチャネルの一つASIC1bがマウス蝸牛有毛細胞の感覚毛基部に発現していることを見出し、聴覚受容チャネルの候補遺伝子と考え(水素イオンで活性化されるチャネルであるが、機械刺激にも応答するのではないか?)、ノックアウトマウスを用いて解析を続けた。その結果、以下の知見が得られた。①ASIC1bノックアウトマウス有毛細胞の形態は正常、②ABR(聴性脳幹反応)検査にて軽度~中等度の難聴所見が認められる、③野生型マウスの有毛細胞に酸を投与すると、ASIC1bに起因すると考えられる水素イオン応答性陽イオン電流が記録できるが、この反応は成熟した有毛細胞では消失、④ノックアウトマウスのMET電流は減弱しているかもしれないが、ばらつきが大きく、断定できない、⑤DOPAE(歪み成分耳音響放射)はMETチャネルの特性をある程度反映していると考えられているが、ノックアウトマウスにはDPOAEの悪化が認められる。これらの所見は、ASIC1bがMETチャネルの構成蛋白質であることと矛盾せず、現在、学術誌に投稿している。さらに、一連の過程において、サブユニットの存在を示唆する重要な知見を得た。ASIC1bノックアウトマウスの有毛細胞に酸を投与した際、記録された電流値は野生型に比べ減弱していたものの、水素イオン応答が残っていたのである。そこで、single-cell RT-PCR法にて有毛細胞に発現するASIC遺伝子を網羅的に解析したところ、ASIC3およびASIC4も発現していることがわかり、解析を続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
聴覚受容チャネル(METチャネル)は感覚毛の先端付近に位置し、チップリンクというひも状の構造物によって機械的に開閉されるというのが聴覚生理学の定説である。薬理学的には、感覚毛の屈曲時に惹起される機械刺激電流は利尿剤の一種であるアミロライドで完全に抑制されることから、アミロライド感受性のMETチャネルが感覚毛の先端付近に位置すると多くの研究者が信じている。ASIC1bノックアウトマウスには難聴が認められること、ASICチャネルの電流もアミロライドで抑制されることから、ASIC1bが聴覚の受容に関与している可能性もあると思われるが、ASIC1bが感覚毛の先端に位置しないことから、学術誌に投稿してもなかなか受理されないという現実がある。しかしながら、投稿できるだけのデータは揃っており、また定説を覆すチャンスでもあるので粘り強く投稿を続けている状況である。 本申請課題では、ASIC1bノックアウトマウスの解析のみならず、ASIC1bのサブユニットを含む新たなMETチャネル候補遺伝子の探索と同定も重要な課題である。ASIC1bノックアウトマウス有毛細胞の酸に対する応答の残存を契機に、マウス有毛細胞には他のASIC分子も発現していることがわかった。なかでも、ASIC3とASIC4が発現していることが明らかになり、新たなMETチャネル候補遺伝子として解析を開始することができた。ASIC3ノックアウトマウスはすでに所持していたので、DPOAE検査を施行したところ、ASIC1bと同様に明らかな悪化が認められ、有毛細胞レベルで何らかの異常が生じていることがわかった。ASIC3が感覚毛に位置することを証明する必要があるので、現在、ASIC3ノックインマウスを作成中である。また、ASIC4も有毛細胞に発現している可能性が高いことから、ASIC4ノックアウトマウスの作出にも着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
最近のカルシウムイメージング解析によると、METチャネルは、感覚毛の先端付近および基部の両側に位置している可能性がある。われわれは、ASIC1b以外のMETチャネル候補遺伝子の手がかりを得るために、有毛細胞の機械刺激電流を阻害する新たな薬物を探索した。その結果、ASICの選択的阻害剤であるナファモスタットが機械刺激電流を完全に抑制することがわかった(投稿準備中)。一方、感覚毛の先端付近に位置するMETチャネル候補遺伝子としてTMC1およびTMC2チャネルが挙げられている。われわれは、これらのチャネルをクローニングし、電気生理を行ったところ、両者ともアミロライドに感受性を示さなかった。すなわち現状では、感覚毛に存在し、アミロライドとナファモスタットに感受性を示すチャネルはASICしかあり得ない。ASIC1bは感覚毛の基部に位置しているが、他のASIC分子は先端付近に位置している可能性もある。そこで、今後はASIC分子を標的として、研究を進めていく。 具体的には、はじめにASIC3の役割を明らかにし、その上でASIC1b/ASIC3ダブルノックアウトマウスの機能解析を行う。手法として、聴覚生理学的検査(ABR検査とDPOAE検査)、有毛細胞を対象にしたパッチクランプ法(機械刺激電流、水素イオン感受性電流、電位依存性電流)、in situ hybridization法などの形態学的手法、single-cell RT-PCR法などの分子生物学的手法を用いる。さらに、ノックインマウス(ASIC3と蛍光蛋白質を融合させたマウス)を利用して、ASIC3蛋白質の分布を確認する。有毛細胞にはASIC4とASIC2も発現している可能性があるので、ASIC3の解析と並行して、それらについてもノックアウトマウスを用いて検討を加えていく。
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Research Products
(1 results)