2011 Fiscal Year Annual Research Report
フェアトレードによる貧困削減と徳の経済の構築に向けた理論的・実証的研究
Project/Area Number |
23402028
|
Section | 海外学術 |
Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
池上 甲一 近畿大学, 農学部, 教授 (90176082)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山尾 政博 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (70201829)
坂田 裕輔 近畿大学, 経済学部, 教授 (50315389)
辻村 英之 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50303251)
鶴田 格 近畿大学, 農学部, 准教授 (60340767)
|
Keywords | フェアトレード / 貧困削減 / 徳の経済 / 経済思想 / 社会的責任消費 |
Research Abstract |
本研究は、「徳の経済」についての経済学史的・思想史的研究とフェアトレード(FT)の役割と実像に関する実証的研究の2本柱から構成されている。FTについては、生産地へのインパクト・スタディー、消費者の購買行動分析、その仲介役となるFT組織という3つの側面からアプローチする。平成23年度はこうした研究枠組みの深化・共有を図るとともに、インパクト・スタディーのための予備調査および海外研究協力者との打ち合わせに力を注いだ。 理論的研究については国内研究会(3回開催)において議論した。その中では、ポランニーの互酬性や「二重運動論」、A.センの「正義」とケイパビリティー、A.スミスの「慈恵の徳」などFTに適用可能な概念を抽出し、集中的に議論した。 実証的研究としては、代表者らがこれまでにアフリカと東南アジアで行ってきた調査結果に基づいて、生産者がFTを家計戦略の一環として捉えており、その意味でサブシステンスという視角からトータルにアプローチする必要のあることを明らかにした。この点については、2011年度地域農林経済学会大会(愛媛大学)においてセッション報告を企画し報告を行った。より直接的なインパクト・スタディーとしては、南アフリカの乾燥地において、FT認証を取得し、協同組合形式によってルイボス紅茶を生産している地域、およびタイの最貧困地域であるラオス国境地帯においてFTのジャスミン・ライスを生産している農民たちのアウトラインを把握して本格調査への道筋をつけることができたほか、タンザニア・キリマンジャロ州の継続調査を行った。 先進国の消費者行動分析については、ベースとなる調査票を設計し、日本のほかにイギリス、フランス(2か所)、韓国で実施の方向に向けて具体的な詰めを行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
FTの持つ理論的可能性、すなわちポランニーの二重運動論との関連づけ、A.センのケイパビリティ概念と正義についての理解を深めることができた。「徳の経済」についての全体像を描くことは容易ではないが、A.スミスの道徳情操論を手掛かりにその端緒を開くことができた。フェアトレードのインパクト・スタディーについて、南アフリカおよび東北タイにおいてユニークな事例について、本格調査への足掛かりをつくることができた。消費者行動調査については、予定外のオーストラリアにおいても実施できる可能性が生まれ、日・英・仏・韓・豪5か国の国際比較が可能となった。この結果は平成24年度において公表が可能である。
|
Strategy for Future Research Activity |
理論的研究については、年4回程度の研究会を開催し、A.スミス、セン、ロールズ、ポランニーなどの専門家をそれぞれ招聘して「徳の経済」に向けた試論の深化を図る。とくに、スミスだけでなくJ.S.ミルやA.マーシャルにも認められる「徳の経済」の思想的系譜を解明し、その継承と後退、再評価の必要性を重点的な課題とする。インパクト・スタディーについては本格調査のほか、ガーナのフェアトレード・カカオ生産地域を追加し、それを加工しているチョコレート・メーカーまでのバリューチェーンを明らかにする。消費者行動分析については平成24年中に解析結果を公表する。
|