2012 Fiscal Year Annual Research Report
平等院ガラスはどこから来たか-オンサイト蛍光X線分析による古代和ガラスの起源解明
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23404008
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
中井 泉 東京理科大学, 理学部, 教授 (90155648)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 考古学 / 美術史 / 蛍光X線 / 非破壊分析 / 考古化学 / ガラス / オンサイト分析 / 東西交流 |
Research Abstract |
日本の古代ガラスの組成的変遷をアジアとの関連で明らかにし、宇治の平等院で見つかった平安後期のガラスがどこから来たかを解明することを本研究の最終目的として、交付申請書に以下の1),2)の実施計画を立案した。 1)日本の古代ガラスの流入ルートと国内における伝搬に関する研究 2)日本の古代ガラスの起源の解明 1)では、交付申請書に平成24年度の最大の分析目標資料とした、東大寺の国宝・不空羂索観音立像の宝冠のガラスについて、東大寺ミュージアムで2回にわたって分析調査が実現できたことが最大の研究実績で、全国の主要新聞各誌にカラーで紹介された。宝冠は、ガラス玉を主体に1万数千個の宝玉類で装飾された奈良時代のガラス工芸品の最高傑作とされる作品である。分析の結果、鉛ケイ酸塩ガラスとアルカリガラスの2種類があった。全体の2/3が奈良時代に日本で製造が始まったとされる鉛ケイ酸塩ガラスで、平等院ガラスの1割と同タイプであった。一方、1/3がアルカリガラスで、さらに3種類の異なる組成タイプに分類できることがわかった。これらの組成タイプは、弥生、古墳時代の古墳出土ガラスに特徴的で、それらは西アジア、東南アジア、中国から搬入されたとされている。国内の古墳出土ガラスでは、新たに茨城県つくば市の古墳と、宮崎県の古墳のガラスの分析を実施し、関東と九州で流通したガラスの違いを明らかにした。 2)では、東南アジアのガラスの分析調査が実現し、ラオスおよびベトナムで、現地の国立博物館等にポータブル蛍光X線分析装置を持ち込んで、遺跡出土ガラスの分析を実施した。その結果、日本の古代ガラスとの組成的類似性が明らかになり、日本とのつながりが認められ、本研究の目標実現に大きく近づいた。 起源解明の手法とし、鉛同位体比分析が最も重要であるが、二重収束ICP-MSを使った分析手法を確立し当研究室で行えるようになった点も大きな進展である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画通り、東大寺の国宝、宝冠の分析が実現し、画期的な成果が得られたことが非常に大きい。また、西アジアのガラスの分析では、大英博物館、MIHO MUSEUM、大原美術館、平山郁夫シルクロード美術館で分析が実現し、多くの成果を得た。そして、平成25年3月9日から6月9日の期間、MIHO MUSEUMで春季特別展 「古代ガラス -色彩の饗宴-」が開催され、ほとんどすべてのガラスが我々の分析した成果をもとに展示がなされ、引き続き岡山オリエント美術館で7月6日~9月1日開催される予定である。本科研費による研究成果が学術的な成果の他に、このような形で広く一般市民に対してもアピールできたことで、計画以上に進展していると言えるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
研究は大変順調に進んでおり、推進方策に変更の必要性はなく、引き続き国内外の古代ガラスの分析調査を進める。研究対象地域の変更は若干あり、韓国のガラスの分析は、適当な調査受け入れ機関がないため実現は難しい。ただ、韓国のガラスについては、申請者の知人で韓国に在住しているDr. James Lanktonがすでに多くの出土ガラスの分析を実施しており、その分析データを利用すれば本研究の考察上問題ない。インドの調査については、現在も交渉中であるが、受け入れ先で国からの許可が得られず、実現は難しい可能性が高い。ただし、一作年のインドの調査で一点分析が実現し、日本との関連が示唆される結果が得られており、実現すれば有用な調査になることから、実現に向けて引き続き交渉を行う計画である。 ①本年度の最大の調査目標地域は、中央アジアである。現在のところ、キルギスの国立博物館と協定を昨年むすび、本年の夏にガラスの分析調査が実現する見通しである。また、キルギスにつづいて、タジキスタンのガラスの分析も行う計画である。いずれもシルクロードの拠点であり、正倉院の宝物にも中央アジアから来たガラスの可能性が示唆されているように、日本の古代ガラスの起源を考える上で重要な地域であるが、これまでほとんど研究がなされていない地域である。 ②国内調査では、前年度から調査を開始した宮崎の古墳出土ガラスの分析を夏までにおこなう。さらに、前年度調査をおこなった茨城県つくば市の古墳出土ガラスの追加試料に加えて、千葉県、栃木県など関東地方のガラスについて、計画通り順次分析を進める予定である。
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Research Products
(35 results)