2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23405014
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松井 正文 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (40101240)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西川 完途 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 助教 (10335292)
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Project Period (FY) |
2011-11-18 – 2014-03-31
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Keywords | ボルネオ島 / 両生類 / 種多様性 / 起源 / 止水性種 / 系統分類 |
Research Abstract |
シロアゴガエルはボルネオをはじめ、東南アジアのほぼ全域から知られるが、その内部での分類、系統には定説がなかった。そこで、分布域の大半から得られた多数個体について、ミトコンドリアおよび核DNAの遺伝解析をし、系統関係を明らかにし、その結果に基づいて分類についても示唆した。ボルネオ産は1種のみから成るが、近隣地域産と遺伝的に近く、たぶん人為分散も加わった結果、遺伝的に若干異なる数系統を含むことが分かった。近隣地域産との遺伝的分化の程度からみて、本種は止水性種の中では新しくボルネオに侵入した要素といえる。一方、同時に調査されたカブトシロアゴガエルは、シロアゴガエル類の系統中、根幹部に位置し、ボルネオ島に古くから定着した要素と考えられた。 一方、トビガエルのうち、ボルネオ産はジャワ産と同一種とされていた。しかし、形態を詳細に調査し、ミトコンドリアDNAの遺伝解析をした結果、ベトナム産やマレー半島産で、近年ジャワ産から独立種として分離された数種同様にジャワ産から離れていることが判明したので、これを別種と判断した。このトビガエルはボルネオ島固有の要素であるが、遺伝的分化程度から見た場合、シロアゴガエルとカブトシロアゴガエルの中間の年代に周辺地域産から分化したと推定される。 ボルネオ産の止水産卵性両生類相の成立を考えるとき、マレー半島との間に位置するスマトラの両生類相も鍵となる。スマトラから発見されたアカガエル科の1種は、ボルネオに分布するバラムガエルやオオイボガエルに近いが、形態的にも遺伝的にもまったく異なることを見出し、新種記載した。また、シロアゴガエル同様に、東南アジア産のヌマガエルは未だに広範な地域内での分類が確立していない。分類解明の一環として分布域最西部のインド北東部産を調べ、形態学的、音声学的に特異な独立種として新種記載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古くから研究されていたにも関わらず、多くの未解決の分類学的な問題を抱えていたシロアゴガエルについて一定の結論を得たことの意義は大きい。同じボルネオ島内に生息する3種のシロアゴガエル属のなかで、カブトシロアゴガエル、クロミミシロアゴガエル、シロアゴガエルは分布パターンが異なるが、遺伝的種内分化の程度と、それから推定される分化年代が大きく異なること、シロアゴガエルでは現在の分布に人為分散が影響していることなど、本研究によって、ボルネオ産止水産卵性両生類の進化を考えるうえで重要な系統生物地理学的知見が得られたと考える。 一方、ボルネオ産両生類のなかで、これまで近隣地域産と同種とされてきた両生類はすべて再検討の必要がある。この観点からトビガエルを調査したところ、ボルネオ産はジャワ産と別の独立種であることが分かった。この結果は近年目覚ましい勢いで報告されている隠蔽種の発見であり、多様とされてきたボルネオ島の両生類相の解明が未だ不十分であることを示すものとなった。なお、この研究に用いた標本は、かつて科学研究費による調査の際に採集され、現地サバ州の大学に保管されているもので、今回短期滞在することによって調査が可能になった。これは東南アジアの両生類の分類学的研究において、慎重に標本を調査することが重要であることを示す例である。 ボルネオ産の止水産卵性両生類相の成立を解明するうえで、これまでマレー半島からタイにかけて現地調査を行い、詳細な研究を行ってきたが、スマトラやジャワ、また広域分布種を扱う際にはアッサムまでもが重要な知見を与える地域となる。スマトラ産アカガエル科および、北インド産ヌマガエル近縁種の発見も、ボルネオ島の特異性を示すうえで重要な知見と言える。このように、本年度の成果は、生物地理学的、分類学的に非常に重要な知見をもたらすものであり、2年目の達成度として、順調と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本課題の最終年度に当たるので、ボルネオ産止水産卵性両生類の成立に関するまとめを行いたい。野外調査はボルネオ島のなかで、これまで調査を行っていない地点を埋める形の現地調査と、サバ州、サラワク州の現地機関が所蔵する標本調査を中心に進める。また室内実験は、これまでに蓄積している組織標本を用いて、できるだけ多く遺伝的解析を行うとともに、液浸標本を用いての形態解析を行う。 具体的には、野外調査はボルネオ島サラワク州の東部山地を中心とした地域で現地調査を行い、現地機関が所蔵する標本調査はサバ大学、キナバル国立公園多様性研究所、サラワク州多様性保全センターを中心に行いたい。室内実験は、まだ手をつけてないウキガエル属やドリアガエル種群などについての遺伝的解析、形態解析、音声分析を行う。また、これまでの研究から未記載種であることが判明しているヒメアマガエル属の数種、アオガエル科1種他の記載論文の作成を進める予定である。更に、すでに進めてきた流水産卵性の種についても止水および準止水環境で繁殖する種との比較のための調査を続ける予定である。具体的にはコノハガエル科のホソウデナガガエル属、アカガエル科のクールガエル属について系統分類の結論を得て、ボルネオ島での分化パターンを解明したい。それによって、止水および準止水環境で繁殖する種の特異性が浮き彫りになるであろう。 現地調査許可の取得は年ごとに困難になってきている。この問題はすでに取得している許可の延長申請や、現地受け入れ研究者との共同研究体制を確立することで解決できると思われるが、これまでより一層密接な連絡を早めに進める事で、順調に調査研究を行えるように配慮する予定である。現地の研究機関や博物館における標本調査などはより容易なことが分かっているので、最悪の場合はそうした調査ができるように、事前に当該機関の担当者らと綿密な連絡をとっている。
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Research Products
(17 results)