2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23500153
|
Research Institution | The Open University of Japan |
Principal Investigator |
黒須 正明 放送大学, ICT活用・遠隔教育センター, 教授 (30283328)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | ユーザエクスペリエンス / ユーザビリティ / GOB / POB / SOB |
Research Abstract |
ユーザビリティやユーザエクスペリエンス(UX)の研究領域では、それらの概念をどのように測定し評価するかが大きな課題となっている。2011年度の研究では、まず、UXに関連した概念整理を行った。ユーザビリティは人工物の品質特性の一つであり、UXはその人工物を利用した結果である。したがって、ユーザビリティとUXは根本的に位置づけが異なり、ユーザビリティなどの品質特性を独立変数とすれば、UXは従属変数に相当すると考えられた。またその間には、人工物を利用する人間の行動が入っているため、人間行動について、目標達成を重視するGOB(Goal Oriented Behavior)、目標は存在するが、その達成よりは途中経過を重視するPOB(Process Oriented Behavior)、目標が特に存在せず、特定の状態を維持することを重視するSOB(State Oriented Behavior)という概念を区別することにした。 次いで、これら3種類の行動を念頭においてUXを評価用語によって表現させた。すなわち、心地よさ、楽しさ、うれしさ、快適さ、幸福感、満足感という用語を取り上げ、ある程度の状況を含んだ単文で経験を表現し、それぞれの用語がどの程度状況の表現として適しているかを評価させた。それらは、「小汚い店でラーメンを食べてみたら予想外においしかった時」(GOBに相当)、「難易度を上げたゲームをしている時」(POBに相当)、「寝心地のいいベッドに横になっている時」(SOBに相当)、などの10個である。 その結果、GOBに対しては満足感が、POBに対しては楽しさが、SOBに対しては心地よさがそれぞれ最も適した評価用語であるという結果になった。 この結果は多少試行的なものではあったが、結果はかなり明瞭なものであり、2012年度にその内容を発展的に検討することとした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2011年度中にINTERACT2011という国際会議に参加し、UXの評価法という講習会に参加した。そこでは、質問紙法(AttrakDiff)、形容詞評価法(Look and Feel Tool)、フィールドワーク的手法(経験サンプリング法、前日再構成法、iScale、UXエキスパート評価)、心理生理学的評価法、画像を利用した手法(FaceReader, PrEmo)、3次元物体を利用した手法(身体感覚的評価具)などが紹介された。また、AllAboutUXというサイトには81種類ものUX評価法が紹介されている。これらのことから、UX評価法が現時点でのUXやユーザビリティの関係者の焦点になっていることが分かる。 しかし、これらの手法はいずれも経験という概念をきちんと定義しておらず、何らかの形で日常生活における印象評価を行っているものも少なくない。その点、GOB, POB, SOBという形で人工物を利用した人間行動を区別し、その上で評価を行おうとした2011年度の研究アプローチは、既存の評価法とは全く異なっている。また、そうした区別を行った上で評価を行うことにより、より肌理の細かい評価と妥当性の高い評価が行えるようになると考えられる。その意味で、まだ評価法としての第一歩を踏み出した段階ではあるが、これを進めてゆくことで、従来にない新しく、また妥当性の高い評価法を開発できる可能性がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
2011年度に行った手法では、GOB, POB, SOBという人間行動の区分を行ったものの、その評価に関しては、少数の語彙しか用いておらず、また状況を含んだ経験記述も10個と少数であった。そこで、2012年度では、まず語彙と経験記述を増加させた形で、本研究のアプローチを本格的に展開する。 また、2011年度のアプローチが語彙という言語的表現に頼っていたのに対し、経験はなかなか言語的に表現しにくい場合があることから、前述の身体感覚的評価具、すなわち、プラスチックで作った複数の立体を提示して、その中から自分の気持ちにあったものを選択させるという手法を発展させ、プラスチック粘土を用いて、自分の気持ちを形にさせるというプロダクション法を考案し、2011年度中に試行してみた。その結果になかなか興味深いものがあったため、こうした非言語的なアプローチについても検討を行う。 さらに、感性工学によって知られている感性という概念がUXと深い関係にあると考えられることから、感性工学的な評価手法との関連性についても検討を行う。現在、感性工学では言語的手法と生理学的な手法が主にとられているものの、感性という概念定義がまだ不明瞭な状態であり、感情との区別も曖昧である。それに対し、自分の感情を人工物に投影し、あたかもその品質特性のように見なしたものが感性であるという自説にもとづいて、一種の品質評価手法としてUX評価を考えることに意味があると考えている。 さらに、中国の研究者と議論をしていて、UXの文化的差異についても検討する必要性を感じた。そこで、大連と広州の大学教員と連携して、文化差比較の研究も行いたいと考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前述した4つの研究方向について、まず1の2011年度の研究の発展的調査に関しては、経験を言語的に記述したもの(日記法やその応用)を採集し、そこから評価対象とすべき経験記述を抽出することを考えている。したがって、経験記述をしてくれるインフォーマントへの謝金が必要になる。また2の非言語的アプローチについては、消耗品でプラスチック粘土などを購入し、実験的な研究を行う。ここでもインフォーマントへの謝金が必要になる。3の感性工学との関係では、5月にKEERという感性工学関連の国際会議が台湾であるため、そこで2011年度の結果を発表し、同時に現時点の感性工学の最新動向を把握する。そのために海外渡航費が必要となる。また4の中国の研究者との共同研究についても、海外渡航費が必要となる。さらに2011年度には大量のデータが入手できるため、そのデータ整理をしてくれる補助員を雇用し、その謝金を出す必要もある。 このように、大きな物品の購入は予定していないが、消耗品、謝金、海外渡航費を中心にして研究費を使用する計画である。
|
Research Products
(5 results)