2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23500316
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Research Institution | Osaka Electro-Communication University |
Principal Investigator |
小沢 一雅 大阪電気通信大学, 情報通信工学部, 客員研究員 (40076823)
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Keywords | 前方後円墳 / 邪馬台国 / 考古学 / 歴史情報学 / 数理 / コンピュータ |
Research Abstract |
当該年度は本研究2年度目にあたり、研究計画の実践に向けて前年度(平成23年度)において検討・策定した主要項目の実施手順を順次実行する段階に入った。ただし、前年度からの継続課題となっている、魏志倭人伝および記紀(古事記と日本書紀)に現れる地名の現代地図上の位置同定に関する研究は、地名に関する客観的な同定法が短期間では容易にみいだし得ないとの結論に至ったため、とりあえず着手優先度を最後尾とすることとした。この理由は、伝統的な地名言語学における膨大な知見を総点検する必要性のあることや、仮にそうしたとしても客観性を維持しつつ有効な位置同定を導く手法の導出が現時点ではかなり困難であろうとの判断に至ったからである。 一方、本研究の主軸である前方後円墳の研究では、前年度に試行した箸墓古墳の墳丘体積の求積作業を契機として、邪馬台国問題と密接なかかわりをもつ箸墓古墳筆頭の最古級前方後円墳の体積分布に着眼した研究に注力することになった。この研究は、近年「複雑系」の解析で注目されている巾(べき)乗則の視点からの分析とそれにもとづく現象の理解という手法を最古級前方後円墳に適用する試みである。すなわち、Mark Buchanan が説く、歴史における変動の根源には巾乗則がみられる(原著名 "Ubiquity",日本語訳『歴史はべき乗則で動く』)という新知見を、邪馬台国出現と前方後円墳出現という本研究の主題に応用して従前にはなかった新たな角度から問題の解決にあたろうという方法である。本年度実施した具体的な作業は、①最古級前方後円墳(全国23基)の墳丘体積の巾乗則分析、②魏志倭人伝記載の30ヶ国の人口(戸数)の巾乗則分析、および③古代国家人口の変動シミュレーションである。それぞれについて示唆に富む結果が得られており、すでに当該年度中に中間報告として公開シンポジウムで発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、日本古代を代表するモニュメントである前方後円墳と、魏志倭人伝にしるされる邪馬台国がいかなる関連性をもつかを情報学的な方法によって探究し、いわゆる邪馬台国論争の学術的な進展に資する新たな知見の開拓を目的としている。当該年度までに得られた成果を集約すると、①最古級前方後円墳(全国23基)の体積分布がほぼ完全な巾乗則にしたがうことが明らかとなった。このことから、これら最古級前方後円墳が築造された時代には、畿内を中心とする広域支配がほぼ完全な階層構造(ヒエラルキー)をなしていたという推論が導かれる。一方、②魏志倭人伝に現れる倭の30ヶ国の人口(戸数)分布状況は対照的であって、巾乗則にまったくしたがっていないことが判明した。つまり、古代における「勢力」の強さの指標と考えられる人口分布からすれば、そこにヒエラルキーは存在しないといわざるをえない。 前方後円墳の築造に最大限投入できる労働力(=動員人数)の上限は、それを築造しようとする勢力の支配人口に比例するという仮説にしたがえば、墳丘体積と人口との間に密接な比例関係を想定できる。これまでに得られた上記①と②の成果は、最古級前方後円墳と邪馬台国が同時代であるとする、昨今広く喧伝されている見解の否定につながる重要な意味をもつ可能性がある。ただし、いまの段階で断定的な結論を述べることは早計であって、こうした推論の是非は、最終年度(平成25年度)において慎重に検討すべき課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
前記【現在までの達成度】の文中において触れたが、最古級前方後円墳の墳丘体積と魏志倭人伝に現れる30ヶ国の人口(戸数)についての巾乗則分析をデータ点検を含めさらに厳密に反復・試行し、これまでの推論の妥当性を検証する。この結果として、もし、最古級前方後円墳と邪馬台国が同時代ではない、とするさきの暫定的推論に妥当性ありという判断が固まれば、当然、邪馬台国時代→最古級前方後円墳時代という時間的順序と時間間隔を想定せざるを得なくなる。この場合、時間間隔を何年間とみるべきなのか、その推定値(推定年数)を導くことができれば本研究の成果として望ましいことはいうまでもない。これは難問ではあるが、取り組むべき価値はあると考えている。推定年数を求める手段として、シミュレーション研究の導入を想定している。 すなわち、前記【研究実績の概要】の文中で触れた古代人口の変動シミュレーションをこうした推定年数を導く手段として活用する方法を工夫し、実際に試行したいと考えている。要約的にいえば、①古代の国々が初期段階でほぼ均一な人口分布ではじまったとする。世代(シミュレーションにおける単位ステップ)の進行にともない、まず、②魏志倭人伝30ヶ国の人口分布の段階に到達し、さらに、③最古級前方後円墳時代の人口分布(=墳丘体積分布=巾乗則分布)にいたる段階までの、変動シミュレーションを実現することである。これが実現できれば問題の推定年数は、②から③にいたる世代数をもとにして導くことができるはずである。今後の方策として、こうした意味でのシミュレーション研究の試行を想定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究に推進に必要な基本設備類は、前年度と同様、すでに従前の科研費等によって十分に整っている。次年度(平成25年度;最終年度)、必要となる研究費の主たる使途は、出張旅費と謝金である。若干の消耗品等購入のため、少額の物品費も想定している。 出張旅費は、各地に遺存する前方後円墳の実地検分・調査、および論文発表あるいは情報収集を目的とした学会・研究集会等への出席等に使用する。謝金は、研究推進に必要なデータのパソコンへの入力作業等の補助にあたる補助員に支払うアルバイト費として使用するほか、必要な場合、専門家を招いて教示・コメントを得るときの謝礼として使用する。物品費については、パソコン関連の消耗品、および電子データ等の購入に使用する。
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