2012 Fiscal Year Research-status Report
物体の持ち上げ時に知覚される重さに関する基礎的研究-慣性力情報の処理機構-
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23500336
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Research Institution | Tezukayama University |
Principal Investigator |
川合 悟 帝塚山大学, 心理学部, 教授 (90177634)
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Keywords | 重さ知覚 / 慣性力 / 知覚機構 / 長さ / 電動アクチュエーター / 力‐振動特性 |
Research Abstract |
平成24年度は、平成23年度に引き続き、研究データの妥当性、信頼性および精度を高めるための実験条件および実験環境の整備のための予備実験を繰り返した。すなわち、(1)持ち上げ実験装置(Lifting Simulator:LS、平成24年度)の試作と改良、(2)振動刺激発生装置(現有)の刺激強度・刺激部位の決定(平成25年度)である。LSについては、当初予定の一軸方向(上下)から二軸方向(上下・左右:平成 23年度)へ、平成24年度にはさらに三軸方向(上下、左右、前後)が検出できるよう小型センサー(テック技販社製、京都)に変更し、LSで物体を持ち上げた際にすべての方向に対する振動・力特性が検出できるように改良した。その一方で、LSでの物体挙上が、第三者より人間の持ち上げ運動を正確に反映していないとの指摘を受けた。そのため、人間の物体持ち上げで生じる肘関節周りのわずかな(3~5度)屈曲回転およびそれに呼応して生じる手首関節周りのわずかな補償運動(これにより物体の出発地点と到達地点とは垂直が保たれる)が単純な垂直方向だった運動に付加された。結果的に、LSにより挙上された物体には、持ち上げ時に前後方向の外力が加わっていることが明らかになった。次に、(2)振動発生装置の刺激強度と刺激部位を決定するために、平成23年度に引き続き、成人(15名)を対象として、物体挙上時に知覚される物体の重さと振動の刺激強度および刺激部位との関係を調べた。その結果、拇指および示指での物体精密把握時において物体を把握するための力を産生する主働筋(長拇指屈筋、深指屈筋などの屈筋群)への刺激よりも、拮抗筋(指示伸筋、長拇指伸筋、総指伸筋などの伸筋群)への振動刺激の方が、EMG信号や重さの感覚に対して大きな影響が生じることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「やや遅れている」とした理由は、より妥当性、信頼性を高めるための実験統制・実験環境の整備に時間を費やしたことによる。その背景は、各年次の実験がそれぞれ独立しているものではなく、相互に関連し合うためである。すなわち、研究1(平成23年度)の持ち上げ刺激が、研究2(平成24年度)のLSの刺激として用いられ、それは研究3(平成25年度)の実験にも用いられるからである。平成24年度には(1)LS製作(研究2)のための予備実験、(2)慣性力および重さの情報処理機構解明(研究3)のための予備実験が実施された。(1) については、申請当初、持ち上げ装置から記録する振動・力特性は、垂直方向(上下方向)のみを想定していたが、精密把握では左右・前後の振動・力特性を考慮すべきデータを得たため振動・力特性を3次元で取得するための工夫を重ねた。その一方で、持ち上げ装置が、人間の持ち上げ運動を反映していないとの指摘を受けたため、肘関節で生じる回転運動および手首関節で生じる回転運動を反映するように大幅に改良した。従って、遅れの大部分はLSの改良で生じた。(2)については、被験者に、どの手指筋群に、どの程度の振動刺激を与えると、大多数の被験者の固有受容器への適刺激となり得るか、その刺激強度と刺激部位の同定をするための予備実験を行った。これについても、手、指に関連する主働筋および拮抗筋が多数存在したため、予備データの取得とデータ処理に予想以上の時間を要したことも遅れの原因となった。以上のように、本研究の連続する研究のもっとも重要な、持ち上げ装置の製作および重さの情報処理に関する末梢系指標の選択によって平成24年度の研究については遅れが出たと考えている
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度および24年度の予備実験により、本研究の主テーマである「物体持ち上げ時に生じる慣性力を重さとして知覚しているか」がより明白に視覚化できるようになった。 平成25年度はまとめの年であり、予備実験の結果に基づき、まず、十字型直交プレートの慣性力刺激装置(平成23年度:研究1)を用いて、健常成人被験者(20名)を用いて、「慣性力と知覚される重さの順位づけ実験」を実施する。すなわち、アイマスクの被験者は、ワイヤーを介して、錘の操作により重心を変化された2つの十字型直交プレートを持ち上げ、重さを比較する。そして、知覚される重さと錘の重心距離との関係に関する詳細なデータを収集する。次に、改良(平成24度)型のLSを用いて、研究1から得られた刺激(質量、重心、距離と知覚される重さとの関係)をLSで持ち上げ、その際にLS把握部分周辺で発生する、振動・力の3次元的な特性を記録し、人間が知覚する重さと、その重さを生じる物体の手先部分で生じるであろう振動・力特性との関係を明らかにする。最後に、そのような振動・力特性を、重さ感覚に変換している情報処理経路を、振動刺激装置を用いて同定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の方針に示すように、平成24年度の予備実験の結果に基づき、本実験に使用する十字型直交プレートの慣性力刺激装置を製作する(300千円)。また、LSによる持ち上げ運動時に、机面から物体が持ち上げられる状況をモニターするために、さらに3軸センサーを1台(400千円)準備する。当初計画では、「位置センサー」による振動特性の検討を予定していたが(160×3千円)、複数の予備実験結果から、振動特性は、「力センサー」の方が、より精度が高く微細な変化を見出すことができ、また、2次元ではなく、「3次元」での検出が必要であることが明らかになったためである。
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