2013 Fiscal Year Research-status Report
新規情報学的手法によるインフルエンザを含む人獣共通感染症ウイルスゲノム配列の解析
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23500371
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Research Institution | Nagahama Institute of Bio-Science and Technology |
Principal Investigator |
池村 淑道 長浜バイオ大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (50025475)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 貴志 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (30390628)
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Keywords | インフルエンザウイルス / 人獣共通感染症 / 連続塩基組成 / 流行リスク評価 / 宿主依存性 / SOM / バイオインフォマティクス |
Research Abstract |
インフルエンザウイルスは人獣共通感染症ウイルスの1種であり、明確な宿主特異性が見られる。稀に起きるトリ由来株のヒトへの宿主を換えた感染が報告されており、ヒトでの大流行が常に危惧されている。インフルエンザウイルスの宿主特異性に関する分子機構の解明を目的として、約12,000株のA型及びB型のインフルエンザウイルスゲノムを対象とした連続塩基組成に基づいたBLSOM解析を行った。 流行している宿主ごとの明確な分離が見られ、連続塩基組成が宿主ごとに明確に異なっていることがみられた。直接にトリから、あるいはブタを経由してヒト集団へ侵入したインフルエンザウイルス株に注目すると、ヒトでの流行を繰り返す過程で、連続塩基組成が方向性のある変化をしていることが見られた。ヒト細胞内での能率的な増殖や宿主の抗ウイルス機構からの回避に関係すると考えられる。 上記の知見を基に、トリ由来株のヒト集団での流行のリスク評価法の開発を行った。過去に起きた流行の初期のヒト由来株に共通して見られる連続塩基類に注目し、それらの特異的な連続塩基モチーフ類がヒトで流行に有利となる連続塩基と予想した。これらの連続塩基モチーフ類の多くを備えているトリ由来株を、ヒト集団内で流行するリスクの高い株として推定し、その推定株を発表した (Iwasaki et al., Novel bioinformatics strategies for prediction of directional sequence changes in influenza virus genomes and for surveillance of potentially hazardous strains. BMC Infect Dis. 13, 2013)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ヒト集団内のみで流行しているB型株は、季節性ヒトA型株よりも以前からヒト集団内で流行していることが知られているので、B型株のゲノム配列中には、インフルエンザウイルスがヒト宿主に適応するために重要な変異が蓄積していると推測される。B型株の連続塩基組成とヒト由来のA型株の連続塩基組成を比較した所、流行初期の株よりも後の年代に分離された株のほうが、連続塩基組成がB型株と似ていることが見られた。以前から我々のグループが提唱した宿主依存に係る変化の方向性(Iwasaki et al., DNA res, 18, 2011)を支持する結果であり、研究の目的の一つを達成する結果であった(Iwasaki et al. BMC Infect Dis. 13, 2013)。 インフルエンザウイルスを中心とするウイルスの情報解析の主要な目的の一つは、ゲノム配列の変化の方向性を推定する方法を開発し、合わせて将来的にヒトでの流行の危険の高い株を推定することにあるが、その目的の方法を確立でき(Iwasaki et al., Novel bioinformatics method to analyze more than 10,000 influenza virus strains easily at once: Batch-Learning Self Organizing Map (BLSOM), Advance in Viral Genome Research. 2013)、トリ由来株が、ヒト集団内での流行を開始するリスクの具体的な評価を行い、論文発表を行った(Iwasaki et al. BMC Infect Dis. 13, 2013)。研究の主要目的が達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
インフルエンザウイルスは毎年のように流行を繰り返しており、我々が予想した方向性のある変化が、新規に得られた配列で検証できるとともに、予測精度を更に向上させるための情報としても役立つ。新年度に報告されるインフルエンザウイルスのBLSOM解析を行い、既に発表している論文において予測した変化の方向性の検証を行う。情報学的手法の有用性を実験家や医学研究者に理解してもらうために重要な方策となる。 この方針の研究に加えて、治療薬の開発に役立つ基盤知見を得るための研究も行う。インフルエンザウイルスに限らず、ウイルスは自身の増殖には多くの宿主由来の因子 (tRNAやヌクレオチドプールなど) を必要としており、ウイルスは宿主に適応するために、宿主と似た特徴を持つ傾向が想定される。ウイルスの宿主適応メカニズムをより詳細に調べるために、BLSOMを用いてウイルスと宿主ゲノムの連続塩基組成 (genome signature) の詳細な比較を行う必要がある。ウイルスが宿主細胞内で宿主由来の因子 (タンパク質など)を利用する場合は、それらの因子に認識される配列モチーフが必要となる。インフルエンザウイルスはゲノムがRNAで構成されているので、宿主ゲノムだけでなく、tRNA、mRNA、non-coding RNA、rRNAなどの様々な宿主のRNA類の機能モチーフとの特徴抽出を行い、どの宿主RNAと関連しているかを調べることも重要と考えられる。BLSOM解析により、コドン使用頻度やRNAの連続塩基モチーフなどが宿主適応に関連しているかを調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年12月より2014年の1月にかけて、中国においてインフルエンザウイルスH7亜型のトリからヒトへの感染が報じられた。この亜型はヒトでの流行が起こっておらず、ヒトはこの亜型に免疫を持っておらず、流行を起こせば多大な被害をもたらす可能性がある。2013年に我々が発表したBMC Infect Dis. (Abe et al.)でも着目していたトリ亜型株である。この株がヒトで流行した際には、この論文で予想した変化の方向性を検証する。 流行に至らなかった際には、インフルエンザウイルスの宿主依存性の機構解明のために、宿主RNA類の連続塩基配列のBLSOM解析を行い、ウイルスRNAが宿主タンパク質と結合するために必要とする結合モチーフの候補を明らかにして、治療薬の開発に役立つ情報を得る。 技術的な開発は完了しているので、次年度は成果の公開に必要な諸経費が中心となる。
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Research Products
(8 results)