2012 Fiscal Year Research-status Report
臨床へのフィードバックを目指した濃厚栄養剤の半固形化とその物性評価
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23500659
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
淺香 隆 東海大学, 工学部, 教授 (50266376)
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Keywords | 濃厚栄養剤 / 半固形化 / トロミ調整剤 / 増粘剤 / 粘度 / ずり速度 / テクスチャー / LST |
Research Abstract |
平成24年度は、前年度の研究結果をもとに市販の濃厚栄養剤へ増粘剤(トロミ剤)を添加して調製した半固形化栄養剤の物性評価を行った。 まず予備試験として、熱量の異なる(1kcal/mLおよび2kcal/mL)8種類の濃厚栄養剤と10種類のトロミ剤を組み合わせて栄養剤を半固形化し、物性測定を行った。これらの測定結果を層別し、同一熱量(1kcal/mL)の濃厚栄養剤3種類、トロミ剤6種類に限定して研究を進めた。さらに、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会が提示した「とろみの3段階 嚥下調整食学会基準案2012」に準拠して粘度測定とLST(Line Spread Test)を実施した。この結果、濃厚栄養剤と増粘剤(トロミ剤)との組み合せにより、やはり粘度やテクスチャー指標のような物性値は大きく変化することを確認した。さらに、この傾向は特定の濃厚栄養剤とトロミ剤との組み合せで生じ、その原因は濃厚栄養剤とトロミ剤に含まれる増粘多糖類とミネラルやタンパク等との相互作用や化学反応が原因であることを第73回応用物理学会学術講演会にて研究代表者が報告した。 一方、医師や管理栄養士などの医療関係者がトロミ剤で半固形化した濃厚栄養剤の「トロミの付き方や目安」を患者や介護者へ伝える際に『市販の液状・半固形状食品を例示すれば理解しやすいのではないか?』と考え、市販の種々の半固形状食品と濃度の異なるトロミ水溶液を用い、前述した学会基準案に準拠して物性評価を行った。 結果として、市販の半固形状食品をはじめトロミ水溶液でもトロミ剤の種類や濃度によっては学会基準案で定義された粘度とLST値の範囲外となり、基準案に適合しない場合があることを第16回日本病態栄養学会年次学術集会にて研究協力者である山﨑ひろみ(東海大学大学院工学研究科工業化学専攻大学院生)が報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度当初の研究達成目標として、平成23年度の研究結果をさらに発展させ、『①濃厚栄養剤や増粘・凝固剤の種類をさらに増して半固形化栄養剤を自己調製』して、『②これらの組み合わせや濃度、温度(室温:20℃,冷蔵:10℃,加温:45℃)やずり速度をパラメータ』として、昨年度構築した「半固形化濃厚栄養剤の物性評価システム」を利用して、粘度のようなレオロジー特性、かたさ・付着性・凝集性のようなテクスチャーに与える影響を明らかにすることを計画した。 これら目標のうち、①については達成できた。しかし、②については「ずり速度と粘度との関係」のみしか評価できなかった。さらに、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会より提示された「とろみの3段階 嚥下調整食学会基準案2012」は本研究課題の目標である『患者や介護者をはじめ、医師や管理栄養士など医療従事者が濃厚栄養剤を半固形化する際や市販の半固形化栄養剤を選択する際の客観的な指針を与える』ことに関連した内容であるため、敢えて本基準案に準拠して種々の試験を実施し妥当性を検討した。なお、本結果は前述したとおりであり、学会発表へと結びついた。 なお、可能であれば「医学部付属大磯病院栄養科にて調製した半固形化栄養剤のテクスチャー試験をリハビリテーション科で行う」ことも企図していたが、物品費で購入して製作した「テクスチャー簡易試験機」の解析ソフトウェアに疑義が発覚し、係る問題を解決するために研究代表者と装置メーカー開発部との間でソフトウェア開発・指導を行っていた結果、医学部付属大磯病院での試験は行えなかった。なお、修正版ソフトウェアは平成25年度上旬には修正・完成予定である。 以上の理由ならびに自己点検結果から、本年度の研究計画は目標の約2/3を達成できたため、「区分(2)おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度までは、主にそしゃく・えん下機能の障害が少なく、嚥下が可能な患者を対象とした半固形化栄養剤の調製とその物性に関する研究を進めてきた。 最終年度である平成25年度は、そしゃく・えん下機能に障害を有し、PEGのような経管栄養補給を受ける患者への提供を対象とした半固形化栄養剤の物性評価に主眼を置き、研究を進める。具体的には、市販の数種類の半固形化栄養剤について、保存時(10℃)、提供時(20℃)、そして体内導入時(45℃)の温度をパラメータとして、これら半固形化栄養剤の物性(粘度やテクスチャー)を測定する。また、半固形化栄養剤を自己調製することを想定し、市販品の物性に合致するような濃厚栄養剤とトロミ剤との組み合せ・自己調製条件を探索する。 合田(香川大)によれば、PEGにおける半固形化栄養材の短時間注入法では20000mPa・s(B型粘度計,6rpm)以上の粘度が有効であるとされている。しかし、粘度はずり速度に応じて変化すること、また栄養剤の半固形化にはトロミ剤(増粘多糖類)よりも凝固剤(寒天など)のほうが調製しやすいが、この場合には離水が生じやすい。半固形化栄養剤で離水が生じると、胃食道逆流や誤嚥の要因にもなる。そこで、物性(粘度やテクスチャー)測定・評価の他、可能であれば離水量の調査や人工胃液をはじめアミラーゼやペプシン等の酵素による影響についても調査したい。 さらに患者や介護者をはじめ、医師や管理栄養士など医療従事者が濃厚栄養剤を半固形化する際や市販の半固形化栄養剤を選択する際の客観的な指針となるよう、半固形化栄養剤と共に「半固形」状態をイメージできる市販の半固形態食品の物性解析結果を取りまとめ、論文等で成果を公表する。なお、可能であればデータベースの構築ならびにインターネットのホームページを通じて情報提供・発信し、臨床へフィードバックする予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度予算では、自動縦型スタンドとデジタルハンディフォースゲージ、計測制御ソフトウェア(いずれも物品費で購入)を組み合わせた「①テクスチャー簡易試験機」と、「②自転・公転ミキサー」の購入、ならびに③研究協力者(大学院生)の実験補助やデータ整理に対する謝金を計上していた。しかし、本研究の進捗に呼応して所属先の予算措置により「②自転・公転ミキサー」が導入されたため、当該機器の年度予算計上分の研究費は平成25年度へ送ることとなった。 そこで、平成25年度は温度制御が必要な物性測定機器の需要がさらに増すことが予想されるため、物品費にて「精密温度制御型加熱冷却サーキュレーター」を購入する予定である。 さらに、研究協力者(東海大学工学部医用生体工学科教授 菊川 久夫)の実験室(医学部付属病院)において半固形化治療食の物性評価も可能となるならば、本年度に製作した「テクスチャー簡易試験機」をさらに一式、導入することも考えている。 加えて、研究の推進に必要となる試薬や部品類をはじめ、研究成果発表に係る旅費ならびに学術論文投稿に係る費用、研究協力者(社会人)への実験補助やデータ整理に対する謝金を計上する。
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