2011 Fiscal Year Research-status Report
長期家計記録による家計動態と家族経済史の実証的研究
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23500874
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
重川 純子 埼玉大学, 教育学部, 教授 (80302503)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 英子 宇都宮短期大学, 人間福祉学科, 教授 (70352573)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 家計簿 / 長期家計 / 家計動態 / 事例調査 |
Research Abstract |
本研究の目的は、1950年代から約半世紀にわたり記帳された2つの長期記録家計簿を資料に、家計の動態および高度経済成長期以降の生活の変容を、明らかにすることである。平成23年度は、分析対象資料(長期記帳家計簿)の複写・整理を行い、家計簿の記帳方法(収入、支出内容の記帳状況、記帳者による費目区分・項目)確認を行った。そのうちの1つの家計を取り上げ、主に年計データ(年平均1ヵ月当たりの家計費に換算)を用いて、子の成長や住宅購入、退職などの家族環境の変化と高度経済成長や石油危機、バブル景気などの社会環境の変化が家計運営に与える影響を分析した。結果の概要は以下の通りである。高度経済成長期には収入が順調に伸び、石油危機後も人材確保法制定の影響もあり実質収入額はそれ以前の水準を維持している。夫退職後しばらくは収入が夫の公的年金のみとなり大きく減少したが、後に妻の年金と夫の追加的な年金が加わり比較的高水準の年金を得ている。支出も収入の伸びや子の成長とともに増加している。住宅関係の高額支出が3度あり、いずれもその前年には支出を抑制している。昭和49年には翌年の高額支出への備えに加え、物価高騰により実質支出は大きく減少した。夫退職後は、次男独立も影響し、衣食住などの必需的支出が減少し、選択的支出が増加した。住宅購入資金の多くは預貯金と株売却により賄われている。親の宅地内に居住し、家賃相当分を含め積極的な貯蓄活動を行い、住宅購入という大型支出に対応している。収入減少や高額支出への対応方法として、食料費以外の支出の抑制や積極的な貯蓄活動が行われていた。収入増加と子の成長が重なり、支出の増加にも対応しやすかったと考えられる。住宅購入は石油危機後やバブル経済期であったが、総じて社会環境の変化を追い風に、記帳者の生活への価値観に基づく将来を見通した家計運営が本家計を支えていたことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、先行研究・調査の整理と分析対象資料の整理を予定していた。先行研究・調査の整理は継続中であるが、分析対象資料の複写を終え、分析に着手している。1つの家計について、年計データを用いてライフサイクルや経済・社会環境の変化と家計動態の変動の関係を明らかにしており、概ね順調に研究が進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、引き続き家計簿データの整理・入力を行うとともに、入力完了分について家族周期の移行による家計動態の分析、および生活様式の変化の分析を行う。本研究課題の分析対象の2世帯の世帯主の職業は公立学校教員と団体職員であり、給与水準は平均的な勤労者家計と考えられる。それぞれ、2人の子どもを育てている。予定されるイベントである子どもの教育や老後の生活に対する支出と貯蓄等による準備、予期しなかったイベントの発生状況とその支出額、家計の対応がどのようになされていたのかを明らかにする。また、家計調査の平均値データにより、分析対象世帯の世帯主年齢相当のコーホートの疑似生涯家計データを作成し、本研究分析対象家計の相対的位置を確認する。分析にあたっては、家計簿記載内容に関する制度・社会経済的背景事項の調査の他、分析対象家計の関係者からのヒアリングを実施する。ほぼ同時期に同じような家族周期をたどる2つの家計の類似点・相違点を分析する予定である。また、本研究課題開始後に詳細データの利用を許可された専業農家の家計簿(昭和52年から平成4年)の月別データ等の分析を行い、収入変動への家計管理の具体的対応を家計データで明らかにし、これらを総括し今後の生活設計方法の検討に資することを目指す。本研究の分析対象期間である高度経済成長期以降の50年間で生活は大きく変化してきた。本研究では、年間収支のみでなく、月別の支出にも注目し、生活様式の変動と共通性の分析を行う予定である。また、家計簿に記録される購入物品・購入頻度により、生活の変化の様子を跡づける。家計簿記帳初期のものには「配給」の記載も見られる。購入物品は、このような社会経済の制度の他、新商品の供給、家計管理者の価値観を反映している。特に、食生活と耐久消費財の普及を中心に生活様式の変容過程を明らかにする予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、引き続き家計簿データの入力を行うとともに、入力完了分について家族周期の移行による家計動態の分析を行う。特に、分析未着手の2つめの家計簿の費目の調整を行い、家計動態の分析を実施する予定である。家計調査の平均値データにより、分析対象世帯の世帯主年齢相当のコーホートの疑似生涯家計データを作成し、本研究分析対象家計の相対的位置を確認する。また、本課題研究開始後に日々記録された家計簿データの利用を認めていただいた専業農家家計の分析を実施する予定である。農家は自然条件等により収入変動が大きく、雇用者家計以上に意識的な家計管理が行われていると考えられる。月別データや日々記録データを用い、収入の安定性・不安定性の実態を捉えるとともに、支出から家計管理上の対応を分析する予定である。本研究課題のもう1つのテーマである生活様式の変化の分析に着手し、当初予定している食生活と耐久消費財の普及、買い物行動の捕捉について、日々記録データからの抽出方法の検討を行う予定である。
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Research Products
(2 results)