2011 Fiscal Year Research-status Report
服飾流行における模倣論構築のための社会・文化史的研究
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23500875
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
徳井 淑子 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (80172146)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小山 直子 お茶の水女子大学, 生活科学部, 講師 (00194639)
新實 五穂 お茶の水女子大学, 生活科学部, 講師 (80447573)
角田 奈歩 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 研究院研究員 (10623209)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 流行 / 模倣 / 異文化接触 / 改良服 / 異性装 / 小売業 |
Research Abstract |
模倣という行為を服飾流行および服飾様式の変容の要因として意義を認める本研究において、西洋中世~近代および日本近代の事象に関し以下の分析を行い、地域・時代による流行と模倣のメカニズムの特質を明らかにした。 代表者・徳井は、ヨーロッパ中世から近世に服飾文様として使用された個人的紋章(ドゥヴィーズ)の成立と伝播の経緯を、宮廷間の交流と出版物による流布の両面において分析し、文学趣味という知的教養の上に成り立つ模倣現象であったことを示した。 分担者・小山は、日本近代の男女差ある礼服規範の形成過程をたどり、その発端たる流行の模倣行為を史料で跡づけた。一般女性は男性の場合と違い、法的規定は存在しないが、その中にあって女性の白襟紋付は、行幸啓を伴う集会への参加資格者への服装心得に記載される等、公的性格が年々踏襲された。特に黒の白襟紋付にあっては、地域共同体の中で指導者たる表象として確立し、表象的模倣を通じて流行し、国民的礼服として黙認された段階を経て、慣習化したことが明らかとなった。 分担者・新實は、近代フランスの刑法や警察令における服飾に関する条項を詳細に分析し、服装を介しての性および職業、身分の模倣行為に対する体制側の抑圧や抑止の仕組みを明らかにした。またこれまでほとんど調査されてこなかった、パリ警察が所蔵する19~20世紀の異性装についての行政書類や新聞記事などを検討することにより、警察令の変遷や女性の異性装の動機を明確にした。 分担者・角田は、18~19世紀の服飾流行の商業的展開の分析として、服飾品店舗が集中していたパサージュの実地検証を、パリ、ロンドン、アムステルダム、ハーグにて行い、小売りの場においてもパリを手本にヨーロッパ各都市で模倣が行われたことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分担者・代表者ともに史料分析とフィールドワークにより一定の進展をみた。特に分担者は、研究成果を積極的に関連の学会誌等に発表、また学会・研究会における口頭発表も行った。 代表者・徳井による中世の服飾文様の伝播・流行については、涙文とそれに派生した文様および類似の意想をもった植物文様に限られたものの、文様の成立、文学的典拠、文学を通した宮廷間交流、祝祭における演出技法など多様な要因の相互作用が明らかになり、また近世以降のエンブレムへの展開のなかにも位置付けることができ、一定の進展があった。 分担者・小山の研究目的は、日本近代の服飾文化に生じた男女に差のある模倣の特性を明らかにすることであったが、流行から慣習への連動の解明に繋がる具体的切り口も見出せたことから、おおむね順調に進展したものと自己評価したい。 分担者・新實は、パリ警察が所蔵する史料の一部をデジタル化した状態で無償提供されたため、資料収集の面で研究計画に若干の変更が生じたものの、これらの史料を分析することに重きを置き、法令をはじめ警察記録や裁判記録に表れた性による模倣の構造およびジェンダー規範について実証的な調査を進展させることができた。 分担者・角田は、平成23年11月からの途中参加となったため、当初の研究計画には加わっておらず、それに基づく達成度は量れないが、論文や学会報告などによる研究成果の公表、史料収集・フィールドワークによる実地調査などは問題なく進展した。具体的には、19世紀のモード商に関する史料を収集し、さらに19世紀前半の商業年鑑のデータ化に着手し、当時のパリの商業的トポグラフィを描く準備を進めた他、ヨーロッパ各都市のパサージュ等を実地検分し、商業的な面から見た都市のあり方と服飾流行の伝播・模倣に関して分析の手がかりを得た。
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Strategy for Future Research Activity |
服飾流行における模倣論構築のための基礎資料として、分担者・代表者ともに、それぞれの時代と地域における個別事象の分析を深化させ、また分析事例の拡大をはかる。 代表者・徳井は、フランス近現代を視野に入れ、異文化接触が新たな服飾様式を生む現象、また歴史上の服飾形態が復古する懐古趣味、世代や性の越境など、新たなファッションを生む模倣行為を時代精神との関係において分析を行う。 分担者・小山は、明治期に成立した服飾史研究書を対象に分析軸を再検証する。日本の古代服装史研究の多くは唐の流行の模倣を尺度にした時代様式区分が採られてきた。一方に日本独自の服飾様式が創出されていた事象も殊更に指摘される。模倣に対する肯定/否定が都合良くスイッチされながら、服飾形態の分析が進められてきた研究現場を明らかにし、服飾流行における模倣の概念の解明をめざす。 分担者・新實は、確固とした性別二元論に根差した近代フランス社会において、公的な抑圧や抑止の中で生じた異性装についての調査を引き続き継続する一方で、当時の文学作品の中でとりわけ豊かに展開する異性装の描写および両性具有や第三の性の表象などを分析することにより、性による領域の越境・侵犯・変容がいかなる精神性や心性に基づいているかを明らかにする。 分担者・角田は、引き続き近世~近代フランスの服飾産業と服飾流行の模倣・伝播について商業的な面から分析を行う。皇帝ナポレオン夫妻御用達だったモード商ルロワの帳簿を分析し、アンシャン・レジーム期の同種の職業との比較を行う他、19世紀前半のパリ市内における服飾品店舗の分布を明らかにするため、この時期の商業年鑑のデータのデジタル化をさらに進め、分析の基礎を作る予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額(804,391円)が生じたのは、分担者1名が海外での一次史料収集を予定していたものの実行できなかったことが理由の一つである。また10月より研究分担者1名の新たな参加があり、分担者が3名に増員したこと、および次年度に予定している代表者の海外旅費としての使用を考えたため、次年度研究費に繰り越す必要があった。 したがって次年度に、今年度果たせなかった分担者1名と代表者が、海外での資料収集の旅費として使用する。また国内資料調査費、および研究成果の公表等のために国内学会・研究会に参加・出席の旅費として使用する。 引き続き史的事象の分析を行うために、主に文書・図像史料の収集に研究費を使用する。分担者の研究対象によって分析は多領域に及ぶため、服飾と周辺の歴史・文学・美術・風俗などの領域における研究書・論文の収集が必要である。書物の購入と論文および一次史料の複写費として使う。 その他、成果発表のための投稿料、その際の外国語への翻訳あるいは翻訳校閲のための費用、図像史料の電子化作業のための費用、また資料整理のための謝金として研究費を使用する。
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Research Products
(7 results)