2012 Fiscal Year Research-status Report
服飾流行における模倣論構築のための社会・文化史的研究
Project/Area Number |
23500875
|
Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
徳井 淑子 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (80172146)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小山 直子 お茶の水女子大学, 生活科学部, 非常勤講師 (00194639)
新實 五穂 お茶の水女子大学, 生活科学部, 非常勤講師 (80447573)
角田 奈歩 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 研究院研究員 (10623209)
|
Keywords | 流行 / 模倣 / 異文化接触 / 改良服 / 異性装 / 小売業 |
Research Abstract |
模倣という行為を服飾流行および服飾様式の変容の要因として位置付け、西洋中世・近世・近代および日本近代の事象分析により、地域・時代による流行と模倣のメカニズムの特質を明らかにした。 代表者・徳井は、ヨーロッパ中世・近世の服飾文様の成立と伝播の経緯、および近現代におけるデザイン・ソースと諸芸術との相関について分析し、文学的典拠・祝祭・宮廷間交流・出版・メディア等の相互作用として、それぞれの事象の模倣の特質を明らかにした。 分担者・小山は、近代日本の模倣の概念分析のために、明治期の服装史研究における衣服形態の分析に注視した。古代服装史研究は、右衽・丸領・上下二部式に筒袖という形態に進化の評価を与え、唐風服飾を金字塔のように位置づけたものが多い。これらの研究は西洋服という新規の形態に、既験の唐風の衣服形態を重ねるという方便を風俗改良論者に提供した。衣服形態の模倣の源の想定には政治的表象の操作が絡んでいたことが明らかとなった。 分担者・新實は、フランス近代の異性装における模倣の構造を、文学作品の服飾描写から解明することを試み、ジョルジュ・サンドの作品における異性装の表象分析の成果を共著として刊行した。また法令や警察・裁判記録の分析を通して、体制側がいかなるレベルでパリ市民に性の変容と異性への模倣を禁じたかについて調査を継続した。 分担者・角田は、単著1冊により18~19世紀の服飾流行の商業的展開について公表した。また基盤研究S「ユーラシアの近代と新しい世界史叙述」と本科研費共催の国際ワークショップ「古着が開く世界:模倣と創造が生むファッション」に主催者側として参加、古着という形で服飾流行が模倣されトップダウンしていく構造を明らかにし、18~19世紀パリの服飾品流通構造と江戸~明治期日本の古着市場や現代アフリカの古着輸入の構造に共通点があることを指摘した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分担者・代表者ともに個別事象に関する史料分析を深化させ、また分析の過程で新たな視野を得て模倣論構築の基礎研究が展開された。研究成果は、単著として2件、共著として2件が公表された他、関連の学会・研究会、国際会議において口頭発表3件がなされ、一定の進展をみた。 代表者・徳井は、中世・近世の服飾文様の流行について、文学趣味や祝祭を通した宮廷間交流、エンブレム・ブック等の出版による流布の経緯を明らかにし、著作として公表、この領域における調査をほぼ終了した。 分担者・小山の研究は、近代の服装史研究における衣服形態の分析に注視した模倣概念の解明にあり、模倣を衣服形態と表象の二つの局面で捉えることで、解明の糸口を見出すことができた。公表は準備中だが、順調に進展していると自己評価したい。 分担者・新實は、ジョルジュ・サンドの作品による文学史料を中心とした近代フランス異性装研究の成果を公表した他、法令や裁判記録等の史料分析に研究の視野を広げ、展開を試みた。 分担者・角田は、フランス近世・近代における流行現象について服飾品の流通という商業的側面で分析、単著として公表した他、古着の流通に関して東西・新旧比較の新たな視点を得た。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成23・24年度にわたり代表者・分担者は、西洋中世・近世・近代および日本近代の服飾事象に関し史料分析とフィールドワークにより、模倣行為に視点を置いた服飾文化論を展開させてきた。最終年度の25年度は、事象分析の深化とともに、模倣論構築に向けて成果の比較・総合化をはかる。なお分担者・新實と角田の参画は研究協力者として続行され、新たに分担者・内村が西洋近世・近代の事象分析を行い、成果の総合化に新事例を追加する。 代表者・徳井は、これまでの分析によって明らかになった服飾様式を生み出す要因、すなわち政治表象、異文化接触や復古趣味、芸術思潮との相関、世代や性の越境等の社会現象、流通・商業的展開などを比較検討し、服飾流行における模倣論の構築を試みる。 分担者・小山は、今日的な流行概念で抽出した事象をこれまで分析の対象としてきたが、今後は慣習化された式服のような衣服形態に着目し、日本近世・近代において検証する。検証によって「流行の果てに遺される慣習」を再現的に把握し、それによって模倣論の構築を試みる。 分担者・内村は、フランス17~18世紀の宮廷作法が、作法書を媒介としてどのように貴族男子に伝授され、それが微妙な階級の差異を示しながら宮廷社会の秩序を生み出していたのかを、身体表象から考察する。フランス近世宮廷社会における流行現象の分析は模倣論構築に欠かせない。 協力者・新實は、フランス近代の異性装に関する成果をふまえ、各種の法令や警察令の相関関係の分析を通して体制側がどのようにジェンダー規範の確立を試みたかを明らかにし、服飾を媒介にした性の越境を模倣行為として論じる。 協力者・角田は、近世・近代フランスの服飾産業と服飾流行の模倣・伝播について商業的な面から分析を続ける。モード商の活動に関する帳簿分析、1820年代までの商業年鑑データのデジタル化、および古着関連の史料収集と分析を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
最終年度に当たり、特に研究成果の発表のために、国内外旅費、学会参加費、翻訳校閲謝金、学会誌等の論文掲載費、研究報告書作成費、郵送費、資料作成文具費等に使用する。 事例研究の分析継続の必要もあり、研究補助謝金の他、西洋・日本の服飾史・文化史・風俗史・商業史・美術史・文学・演劇などの関連図書の購入、および国内外の図書館を通して文献・図像史料の複写費として使用する。 研究総括を行う必要から、代表者・分担者・協力者の研究会議費として使用する。
|