2012 Fiscal Year Research-status Report
無文字社会の伝承染織技術の保存と学校における教育課程最適化プログラムの開発
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23500892
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
下田 敦子 大妻女子大学, 人間生活文化研究所, 助手 (60322434)
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Keywords | 生活文化 / 無文字社会の伝承技術 / 教育課程 / 指導プログラム |
Research Abstract |
独自の文字を持たないタイ北部山地民(カレン)は口伝と身体技術の模倣により染織技術を伝承してきた。本研究では、項目反応理論を用いて、染織技術を易しいものから順番に(その最適な年齢において)習得していく「タイ文字による指導モジュール」を開発し、現地の学校において有効性を検証する。これにより、タイ語教育を受けているカレン若年世代(児童生徒)が、学校教育において染織技術を文字によっても習得できるように一般化を図る。 今年度は、昨年度に試案作成した基本的な指導モジュールが教育現場において実施可能であるかを検証するために、タイ政府による普通科教育の学校(チェンマイ県ドーイサケット郡M中学校)において、一定の条件を保持しつつ実習授業を行った。 実施期間は第1期が5月から10月、第2期が11月から翌年の3月であった。いずれの期間においても、毎週木曜日、外部講師のカレン女性R氏が学校に赴き、中学女子生徒14人を対象として、指導モジュールに基づく実習授業を実施した。生徒らはカレンの染織技術の習得に取り組んだ経験は無く初心者であった。 第1期における15回の実習授業を通じて、指導モジュールの問題点を発見しそれを改善し、指導モジュールを修正した。その内容は、生徒一人当たりの作業空間、地機織り作業に適した照度と床の材質、個人の身長に合わせた機の設置の高さ、等であった。また、単元ごとの時間配分に関しても不適切な箇所があったのでこれを改善し修正した。修正した指導モジュールを用いて第二期を開始したが、その後、特に修正箇所は見出されず、目標としていた「肩掛けバッグの製作」は、全生徒が決められた時間内に完成することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初に年間の研究計画を現地協力者らと確認して、これを基に研究を遂行した。今年度は、昨年度に試案作成した指導モジュールが教育現場において実施可能であるかを検証するために、マニュアルを用いた染織技術教育の実習授業を、タイ王国チェンマイ県ドーイサケット郡M学校において試行した。学校の選定にあたっては、候補に挙げられた学校が数校あったが、学校側の協力体制を考慮してM学校とした。M学校は、正課時のカリキュラムとして本実習授業を導入してくれたので、毎時間、実習授業の質を一定に保つことができた。また、学校側から女性教員2名を毎時間、実習授業に派遣してくれたので、本研究の活動を支える協力体制がより強固なものになった。本研究は、従来、カレン社会の村々において女性親族を通じて伝承されてきた染織技術を、マニュアル等を用いて制度化された学校教育の中で伝承していこうとするこれ迄にない新たな試みであるので、活動の主体となる学校からの協力が何よりも重要である。今年度は、M学校の教員らの理解と協力という下支えにより、研究計画の目標をおおむね達成させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、タイ文字による指導モジュールを開発し、タイ語教育を受けているカレンの若年世代(児童生徒)が、学校教育において染織技術を文字によっても習得できるように一般化を図ることが目的である。 平成24年度までに、タイ政府の普通科教育の学校において試行することができているので、今後は、この開発した基本的な枠組みを、類似した染織技術を伝承しているタイ北部のメオ社会、アカ社会における学校においても活用し、タイ語教育を受けているメオやアカの若年世代が活用できるかどうかの検証を行う。学校の選定にあたっては、現地NGO、教育省、キリスト教会関係者の協力を要請する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今後は、開発した指導モジュールを、類似した染織技術を伝承しているタイ北部のメオ社会、アカ社会における学校において活用し、一般化できるかどうかの検証を行う。そのために、以下の経費が必要である。 指導者(専門知識を持ち技術に熟達したカレン女性)への謝金、検証のための実習授業の実施のための現地コーディネーターへの謝金、実習室の備品費、材料費、日本側研究者の現地への渡航費である。
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