2011 Fiscal Year Research-status Report
肢体不自由児・者のズボンの着脱動作解析と自立を助ける修正衣服の開発
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23500909
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
雙田 珠己 熊本大学, 教育学部, 教授 (00457582)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
干川 隆 熊本大学, 教育学部, 教授 (90221564)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 肢体不自由児・者 / 着脱動作 / ズボン / 生理的負担 / 修正衣服 |
Research Abstract |
1.健常者のズボン着脱における生理的負担の測定 女子大学生16名を対象に、標準的なゆとり量のズボン(試験着A)と、ゆとり量を減らしたズボン(試験着B)を製作し、着脱困難さと着脱時の生理的負担の関係を明らかにする目的で着用テストを行った。測定項目は、心拍数、血圧、加速度、着脱時間、唾液中のアミラーゼである。解析は着衣動作を対象に、心拍変動スペクトル解析を用いて行った。その結果、以下の2点が明らかになった。(1)試験着Aと試験着Bの着衣動作を比較すると、試験着Bは着衣中のHR平均値が104.1bpmと高く、合成加速度と着衣所要時間の値は、試験着Aよりも有意に大きかった。すなわち、ゆとり量が少ない試験着Bの着衣動作は、試験着Aよりも体動が大きく、時間が長くかかり、心拍数の増加が認められた。(2)試験着Aは、着衣後2分まで副交感神経活動が優位な状態にあり、着衣後4分からHRの増加がみられた。それに対し、試験着Bは、着衣後4分まで交感神経の減少がみられず、交感神経と副交感神経の混在が示唆された。着衣困難さに関する生理的負担の測定値と、着脱のしやすさに関する官能検査の結果はよく一致しており、着衣困難性の評価に心拍変動を指標とする有効性が確認された。健常者のズボン着脱時における生理的負担の数値は、肢体不自由者の着脱困難さを考察する際に、基礎データとして活用できる。2.障害別の着脱動作分析の特徴把握と障害の状態に応じた修正衣服の製作 23年度は、着脱が自立し、知的障害のない肢体不自由児・者の選定に時間を要した。共同研究者が主催する動作法の研究会出席者を中心に、現在3名の脳性マヒ患者とその家族に協力を依頼している。なお、着脱動作分析は、表面筋電計測システムを用いて行う予定であったが、麻痺のある被験者のデータ採取に適さないことから、着脱動作のビデオ解析に実験計画を変更した(詳細は後掲)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.健常者のズボン着脱における生理的負担の測定 平成24年3月の時点で実験は全て終了しており、現在データ処理を行っている。平成24年6月に学会での口頭発表、8月までに投稿論文を執筆する予定である。平成23年度は着衣動作を中心に分析を行っており、脱衣動作についてはまだデータ分析が終了していない。今後は脱衣動作についても、同様の解析を実施する予定である。2.障害別の着脱動作分析の特徴把握と障害の状態に応じた修正衣服の製作 着脱動作の解析は、当初筋電測定を中心に行う予定であったが、予備実験の結果、障害の状態によっては、筋力が非常に弱いため筋電測定が難しく、しかも不随意運動をノイズとしてとらえやすいことがわかった。また、購入予定の機種は、心拍計と筋電計が一体であるため想定していた以上に重く、被験者の胸部に携帯させる本実験方法では、被験者への負担が大きいことが懸念された。そのため、実験方法をビデオによる動作解析に変更し、動作解析ソフト一式を購入した。来年度から予定しているビデオ解析に必要なカメラ、ノート型パソコンの準備も全て整い、実験環境の整備は完了した。今後は撮影技術、動作解析ソフトによる解析方法の検討を中心に、実験方法を組み立てていきたい。 被験者選定については、共同研究者の協力を得て被験者の確保に努めているが、着脱が自立し、知的障害をもたない条件を満たす被験者を探すのは、非常に困難であった。着脱実験を予定しているため、被験者は近隣在住の女性に限られる。現在3名に協力を依頼し交渉中であるが、他に2名の協力が得られるよう、HP等の活用も視野に入れながら継続して協力者を探す予定である。対象者が決まり次第、身体サイズを測定し、着脱動作の観察を開始する。
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Strategy for Future Research Activity |
既に述べたように、着脱動作解析の実験方法を変更したことに伴い、平成23年度購入予定であった表面筋電測定システム(Intercross-410 一式)を、心拍計(アクティブトレーサー AC-301A)とマルチ移動・動作分析システム(IC pro-2DdAF一式)の購入に変更した。平成23年度に発生した残額は、この差額によるものである。平成24年度は着脱動作解析に本格的に取り組むため作業効率改善を図り、グラフィックボードを搭載したメモリ容量の大きいパソコンの導入を予定している。平成23年度の未使用額は、平成24年度の予算と合わせて実験環境の整備に充当する予定である。 肢体不自由児・者に関する調査、着用テストは、被服学の専門家である筆者、肢体不自由児の教育を専門とする研究分担者、リハビリ医療の専門家である研究協力者によって行う。研究対象者の選定には時間を要するため、平成23~24年を研究対象期間とする。被験者は、着脱が自立し、知的障害のない肢体不自由児・者8名程度とし、そのうち脳性マヒ児・者を3名以上とする。まず、着脱動作の特徴を把握するため、被験者の着脱動作を観察し、障害の状態を調べる。必要に応じて残存機能の検査を行い、障害のレベルを把握する。その結果に基づき、障害の種類・状態別に、着脱動作の特徴を分類する。次に、被験者自身と被験者の家族(または介助者)の意見を参考に、理学療法士、肢体不自由の動作法を専門とする研究分担者と協議しながら修正方法を検討する。修正衣服は既製ズボンを基に修正を加える方法で製作する。修正衣服は、着脱の様子を観察しながら微調整を行い、最終的に着用テスト用の試験着として用いる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.障害別の着脱動作分析の特徴把握と障害の状態に応じた修正衣服の製作: 事例数を増やしながら、平成24年度も継続して行う。2.着用テストによる修正効果の確認: 肢体不自由児・者が既製服を着用するときの困難さと、修正を加えたことによる効果を、生理的負担の測定によって明らかにする。被験者は修正衣服の製作対象者5名を予定しており、そのうち脳性マヒ児・者は3名以上とする。被験者は理学療法士から修正衣服に適した着脱動作の指導を受け、1か月以上修正ズボンを日常生活で使用し、十分慣れた状態でテストを行う。着用テストは、被験者が既製のズボンと修正ズボンを同一条件で着脱し、着脱動作の違いをビデオ解析、生理的負担と官能評価によって比較する方法で行う。ビデオ解析では、上肢、下肢の動きの数値化を図る。生理的負担の測定項目は、心拍数、血圧、加速度、着脱時間、唾液中のアミラーゼである。解析方法は、心拍変動スペクトル解析を用いて、交感神経と副交感神経のバランスから緊張状態を求める。また、加速度から体の動きと消費カロリーを求め、着脱時の生理的負担の指標とする。さらに、着脱動作と心拍変動を連動させ、修正によって着脱時の生理的負担が有意に減少した場合を、修正効果と判断する。3.要支援の被験者を対象とした着脱動作の解析-予備実験-: 本研究の目的は、自立を支援するズボンの修正方法を開発することであるため、被験者の条件は着脱が自立していることである。しかし、実際には重度の脳性まひ患者が多く、着脱の問題は介助者の立場からも取り組む必要がある。23年度に心拍計を購入したことにより、現在研究室では2台の心拍計を所有している。被験者と介助者の双方が心拍計を装着することが可能になったことから、ズボン着脱時の生理的負担を着用者と介助者の立場から分析することを計画している。24年度は予備実験を行い、実験方法の検討を行う。
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Research Products
(4 results)