2012 Fiscal Year Research-status Report
肢体不自由児・者のズボンの着脱動作解析と自立を助ける修正衣服の開発
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23500909
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
雙田 珠己 熊本大学, 教育学部, 教授 (00457582)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
干川 隆 熊本大学, 教育学部, 教授 (90221564)
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Keywords | 肢体不自由児・者 / 着脱動作 / ズボン / 生理的負担 / 修正衣服 |
Research Abstract |
1.健常者のズボン着脱における生理的負担の測定: 標準的なゆとり量のズボンと、ゆとり量が少なく足が通しにくいズボンを製作し、ズボンの着衣動作の違いが心拍数、血圧、加速度、着脱時間、唾液中アミラーゼに与える影響を分析した。被験者は健常な女子大学生16名であった。その結果、ゆとり量が少ない試験着の着衣動作は、体動が大きく、着衣時間が長く、着衣中の心拍数と着衣後の血圧が有意に増加した。また、着衣後に安静姿勢を保持し自律神経の変動を観察すると、いずれの試験着も迷走神経支配となり、着衣後2~4分で副交感神経は増加し、心拍数の減少に寄与していた。しかし、ゆとり量が少ない試験着は交感神経の減少が少なく、着衣後1分では心拍数の変化に副交感神経と交感神経の影響がみられた。なお、この結果は日本繊維製品消費科学会で報告した。 2.障害別の着脱動作分析の特徴把握と障害の状態に応じた修正衣服の製作: 脳性マヒの事例については、3名を対象に平成23年度から観察を開始してきたが、1名は条件を満たさなかったため、2名に協力を依頼し承諾を得た。2名については試験着の製作を行い、着脱時および日常生活での着用時の様子を観察し、修正個所の検討を重ねている。その他、脊椎損傷の被験者1名と二分脊椎の被験者1名について、ズボン着脱時の問題点を確認し、着脱動作の観察と修正個所の検討を行った。なお、研究分担者は、姿勢と日常生活動作におよぼす動作法の効果について論文を発表した。 3.着用テストによる修正効果の確認: 脳性マヒの被験者1名については、修正個所が決定しパターンの製作が完了した。すでに心拍変動の測定、動作解析ソフトを用いた予備実験を行っているが、実験方法については検討中である。また、脊椎損傷の被験者についても予備実験を行い、実験環境の整備と実験方法を検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.健常者のズボン着衣動作における生理的負担の測定: 日本繊維製品消費科学会(平成24年6月)での口頭発表終了後、新たに分析を加え投稿準備中である。脱衣動作に関するデータ分析は全て終了し、ほぼ予定通りに進行している。 2.障害別着脱動作分析の特徴把握と障害の状態に応じた修正衣服の製作: 被験者選定については、共同研究者の協力を得て被験者の確保に努めているが、着脱が自立しかつ知的障害をもたない条件を満たす被験者を探すのは、非常に困難であった。脳性マヒの被験者については、23年度より観察を行っていた3名中1名が条件を満たさなかったため、補充が必要となった。その他の症例については、脊椎損傷と二分脊椎の被験者を対象に着脱動作の特徴を分析し、修正衣服を製作した。被験者の確保は、個人的な紹介や施設への依頼、HP等の活用によって行っているが、新しい方法も検討していきたい。また、衣服製作は、研究代表者、研究協力者、雇用者の3名で行っているが、製作が間に合わないことも多かった。製作補助者の確保も検討する必要がある。 3. 実験方法の検討: 脳性マヒの被験者1名と脊椎損傷の被験者1名について、心拍変動の測定と着衣動作の解析を行った。脳性マヒの事例では、心拍変動の測定に問題はなかったが、動作解析は難しく、多大な時間を要することがわかった。解析の効率を上げるため、肘や膝など着衣によって隠れてしまう部分にはLED球を装着したが、これに関する新たな予備実験が必要となった。学内の電気技術者の協力を得て対処しているが、実験条件の確定が難しく予定より遅れが生じている。脊椎損傷の被験者については、心拍変動が健常者の場合と著しく異なった。自律神経が十分働かないことは予想されていたが、データの読み方には専門家の視点が必要である。研究体制を強化する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
1.肢体不自由児・者に関する調査、着用テストは、被服学の専門家である筆者、肢体不自由児の教育を専門とする研究分担者、リハビリ医療の専門家である研究協力者によって行っているが、研究対象者の選定に時間がかかるため、調査期間を延長し次年度も継続して行う。被験者は、着脱が自立し知的障害のない肢体不自由児・者8名程度とし、着脱動作の特徴を把握し、必要に応じて残存機能の検査を行い、障害のレベルを把握する。次に、被験者自身と被験者の家族(または介助者)の意見を参考に、理学療法士、肢体不自由の動作法を専門とする研究分担者と協議しながら修正方法を検討する。 2.着用テストは、被験者が標準のズボンと修正ズボンを同一条件で着脱し、着脱動作の違いをビデオ解析、生理的負担の測定(心拍数、血圧、加速度、着脱時間、唾液中のアミラーゼ)と官能評価によって比較する方法で行う。ビデオ解析では、上肢、下肢の動きを数値化することを目指す。さらに、着脱動作と心拍変動を連動させ分析を行う。 3.留め具についての確認実験は、膝下開口部のファスナーの長さと、片手で留められるフックの検討を予定していたが、今回の被験者には装具使用者が少ないこと、指先のマヒの重い人が多かったことから、計画は見直しが必要となった。それに代わるものとして、座位で過ごす人に適したズボンのパターン製作を行う。車椅子で生活する人が要求するズボンのデザインは、障害の種類を超えた共通の修正ポイントがあると考えられる。たとえば、指にマヒのある人が弱い力でズボンを引き上げるためには、腰部のゆとり量、前ファスナーの位置と長さ、前・後股上のデザインを工夫する必要が認められた。今後はこれらの知見をパターン製作に反映させることを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.障害別の着脱動作分析の特徴把握と障害の状態に応じた修正衣服の製作: 事例数を増やしながら、平成25年度も継続して行う。調査費用として、被験者への謝金と調査員の雇用費用、調査に必要な機材の運搬費が必要である。また、修正衣服製作に関する費用として、生地や付属品代、製作者の雇用費用が必要である。 2.着用テストによる修正効果の確認: 肢体不自由児・者が既製服を着用するときの困難さと、修正を加えたことによる効果を、生理的負担の測定によって明らかにする。現在、血圧は現有する血圧計を使用し着衣前・後の安静状態で測定しているが、動作中の血圧を精度よく測定できる機器があれば購入し、測定値を分析に加える予定である。着用テストの被験者は8名程度である。被験者の残存機能を測定するための検査費用と、被験者への謝金の支払いを予定している。また、実験補助とデータ解析の補助者を雇用する予定である。 3.座位で過ごす人に適したズボンのパターン製作: 製作に使用する生地や付属品が必要である。また、パターン製作は、研究代表者・研究協力者に加え、製作補助者が必要である。 4.その他: 論文発表に関わる印刷費用、データ処理に必要な統計ソフト、処理能力の高いパソコンの購入など。
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Research Products
(4 results)