2012 Fiscal Year Research-status Report
獣肉中の寄生虫による健康被害:新規寄生虫毒素性食中毒の解析
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23500998
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
鎌田 洋一 国立医薬品食品衛生研究所, 衛生微生物部, 室長 (20152837)
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Keywords | 食中毒 / 寄生虫 / 住肉胞子虫 / 毒素 / Sarcocystis fayeri / 下痢 |
Research Abstract |
平成23年度において、馬刺し食中毒の原因である住肉胞子虫Sarcocystis fayeriから、毒性をもつ15KDaタンパク質を精製、アミノ酸解析し、その結果に基づいて遺伝子を分離した。本年度は、組換え15KDaタンパク質を調製する方法を確立した。同組換えタンパク質の下痢誘発性を調べたところ、組換え15KDaタンパク質は実験動物に下痢を誘発した。繊維芽細胞、腎由来細胞、あるいは腸管粘膜上皮系の培養細胞を、組換え15KDaタンパク質で処理したが、細胞死を誘導しないことが明らかになった。本結果から、住肉胞子虫の毒性は、毒性タンパク質が細胞死を誘導して発揮するのでなく、細胞を刺激し、細胞から、下痢につながる何らかのシグナル因子の誘発させる毒性メカニズムが考えられた。 馬肉の住肉胞子虫寄生を生前に検知することは、馬肉の安全性や食品としての流通性に利便性を与える。住肉胞子虫寄生及び非寄生馬の血清中における、抗住肉胞子虫抗体価を予備的に検討した。抗原にはS. fayeriシスト抽出タンパク質を用い、抗体価測定にELISA法を使用した。馬体の23か所において、S. fayeriのシストが検出されたかった非寄生馬の一部に、IgGクラスの抗シスト抗体が検出された。一方、肉中にシストが検出されたウマにおいては、IgGクラスの抗体価の上昇がみられた。この結果は、抗体価の上昇が確認された場合には、寄生を示すバイオマーカーになりえる可能性を示してはいる。しかしながら、非寄生馬で見られたIgG抗体の上昇は、現在はS.fayeriの寄生はないが過去に寄生を受けていたため抗体の記憶があったのか、交差性のある抗原に感作されていたのか、非特異的な反応かが不明である。検査頭数が少なく、次年度の検討とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は第2年次で、第1年次に単離した15KDa毒性タンパク質遺伝子の情報に基づき組換えタンパク質を調製することができた。S. fayeriのシストから抽出した15KDaタンパク質に、ウサギ腸管毒性を認めている。本年度に調整した組換え15KDaタンパク質の腸管毒性を検討したところ、ウサギ腸管ループ試験で陽性を示した。本結果は、単離した遺伝子が、馬刺し食中毒の原因物質をコードしていることを証明しているとともに、今後の研究に組換えタンパク質を使用できることを示している。毒性タンパク質に関する研究は、予定通りの達成度となっている。 計画に従い、住肉胞子虫感染のバイオマーカーを探査する予備実験を行った。採取しやすい血清を材料とし、住肉胞子虫への抗体の有無を検討したところ、寄生馬には、S. fayeriシストタンパク質に対するIgGクラスの抗体価上昇がみられた。一方、非寄生馬においてもIgG抗体の上昇があり、抗体価の上昇が一義的に寄生を示すとは理解できない状況を示した。寄生のバイオマーカー探査については予定通りの進行をしていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終の第3年次は、組換え15KDaタンパク質を用いて、細胞レベルでの、症状発現機構を明らかにする。腸管粘膜を構成する細胞、とくに免疫系の細胞を同タンパク質処理し、mRNAおよびタンパク質レベルで発現してくるシグナルを探査する。同タンパク質で処理された細胞からmRNAを抽出し、各種インターロイキンやシグナル伝達因子の発現をRT-PCR法で検知する。また、培養液中に放出されるインターロイキンや伝達因子を、抗体を用いてのELISA法で検知する。毒素タンパク質の刺激で誘導される因子にTumor Necrosis Factorや一酸化窒素を予想している。毒性タンパク質の作用点が明らかになることで、馬刺し食中毒の作用機構の全体像が明らかとなり、寄生虫毒素性食中毒の学問的概念が確立する。 引き続き、S. fayeri寄生および非寄生馬の血中抗体価を調査する。本年度は調査頭数を増やすとともに、IgMクラスの抗シスト抗体も調査する予定としている。また、血中抗体以外のバイオマーカーとして、寄生によって未同定タンパク質が誘導されていないかという見地から、過剰タンパク質を除外した、寄生馬血清中のタンパク質を網羅的に検討する。具体的には、過剰タンパク質除去血清蛋白質群にトリプシンを加えて消化し、生じたペプチドのアミノ酸配列をデータベース中で検索し、同定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
冷却遠心分離機を購入する。マイクロチューブ用の遠心分離機で、各種の実験に利用する。
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Research Products
(5 results)