2011 Fiscal Year Research-status Report
ファストプランツを共通生物教材とする小・中・高での一貫学習プログラムの創設
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23501003
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Research Institution | Miyagi University of Education |
Principal Investigator |
石澤 公明 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (10125495)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ファストプランツ / 有性生殖 / 自家不和合性 / 遺伝子発現 / 根 / 成長 / 肥料 / 水耕栽培 |
Research Abstract |
ファストプランツ(FP)を共通の生物教材として,小学校から大学まで「生殖と遺伝」及び「発生と成長」を共通の課題として据え,これらの課題を各教育段階で深化させることを目指す学習プログラムの開発を行った。 「生殖と遺伝」に関する課題では,FPで見られる自家不和合性の度合いを,他家受粉及び自家受粉による種子の形成率の違いから明らかにした。自家不和合性を取り扱うことで,受粉と受精の違いを認識できる優れた教材となることが示せた。また,柱頭での花粉の発芽と,花柱内を伸長した花粉管が子房で胚珠に到達するまでをアニリンブルーの蛍光染色により可視化することが出来るようになった。更に,コットンブルー染色を使用することで,光学顕微鏡による観察がある程度まで可能であることを示すことが出来た。一方,自家不和合性に関わる自己と非自己の識別の機構に関与することが知られているSCR遺伝子のホモログが,FPにもあることをゲノムDNAを使ったPCRにより確認した。現在,その遺伝子発現時期について,検討を加えている。これら一連の実験により,ファストプランツが「生殖と遺伝」に関する学習教材として優れていることを示すことが出来た。 「発生と成長」について,主に根の成長を利用した実験と,肥料と植物の成長に関する解析を行った。先ず,教育現場でも簡単に根の成長に対する金属イオンの効果を解析することができるような水耕栽培法を開発した。この培養系を使い,植物が微量栄養素として要求するCu+の効果を解析した。その結果,0.001mMCu+では根の伸長促進効果が現れるが,0.01mMCu+では阻害効果が見られることが明らかとなった。一方,クレハ培養土を用いて,FPが種子形成にいたるまでの生育に必要な無機栄養量を調査した。その結果,FPの生育には最適な培養土量が存在することを明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「生殖と遺伝」に関する教材開発の研究は,当初目論んだ目標のうち,ファストプランツ(FP)の自家不和合性に関する研究は,遺伝子の発現及びその調節に関する部分を残しほぼ達成できた。しかし,FPとチョウチョとの関係については,狭い空間の中で,チョウチョがFPに訪花するよう誘導する事が大変難しいことが分かった。小学校の教室で,FPとチョウチョを使って植物と昆虫との関係を学習することができれば,極めて優れた教育教材となると考えられるが,それをどのように実現するかは今後の大きな課題として残された。 「発生と成長」に関しては,重金属類の害作用に関する研究に焦点を当てたため,植物の生育に必要な微量元素Ca, Mg, B, Fe, Mn, Cu, Mo等の欠乏症に関する基礎データの収集と,それらに関する学習プログラムの開発には着手できなかった。しかし,一個体が必要な無機栄養量に関して,過剰になっても不足しても植物の生育に大きな影響を与えることを示す実験を新たに作れる可能性が開けた。この実験結果から,当初考えなかった大変面白い学習プログラムを作れる見通しが得られたことは,大きな成果であった。 当初計画した突然変異体の作出については,全く手を付けられなかったので,平成24年度以降の持ち越すこととなった。 学校現場での実践に向けては,卒業生や本学の附属校園の先生方は現在まで何らかの繋がりを持っている現職の先生方に,幾つかの学習プログラムの提案をしたが,未だ実践には至っていない。学校での実践は,平成24年度以降の大きな課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画初年度に立てた目的である,小学校教育から大学まで繋がる生物教育に,ファストプランツ(FP)を共通の生物教材として使用して,新学習指導要領の目標にある「発達に応じて,子どもたちが知的好奇心や探求心をもって,目的意識を持った観察・実験を行う」ことにより,「科学的な概念を使用して考えたり説明したりする学習活動,探求的な学習活動を充実する」ことを実現することを実現するために,次のような方策を本年の目標にしいたい。 1.研究課題としては,「植物の有性生殖と遺伝」と「植物の成長と発育」の2つがある。この課題で,平成23年度にやれなかった課題,また,基礎データは得られたが学習プログラムとして完成出来なかった課題の研究を引き続き行う。 2.小学校での条件制御,中学校での有機物と無機物の区別,更に高校での独立栄養生物と従属栄養生物の違い等の学習プログラムを完成させる。そして学校現場での実践を目指し,現職の先生方に協力頂ける環境を整備する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
教材開発の基礎実験としては,次の8つの研究課題に取り組む予定である。1)栽培設備のない教室での四季を通じ安定した栽培方法の確立する。2)小学校,中学校,高校での受粉,植物栄養に関する授業実践を行い,その評価から問題点を整理して,これを改善する。3)中学校,高校での受粉と受精に関する理科教材の開発,特に画像のコンテンツ化を図る。4)花粉管をアニリンブルーで蛍光染色し,落射蛍光顕微鏡(小助川卒論,2008)又は共焦点レーザー顕微鏡で捉えた画像から学習教材を作成する。5)花粉発芽に関わる柱頭との相互作用に関する研究を継続する。6)植物栄養に関わる研究で,植物の無機イオン吸収並びに植物体内での移動(器官間での)に関する基礎的解析を行い,高校乃至は大学レベルの学習教材としての可能性を追求する。 7)自家不和合性に関わる遺伝子群について,それらの遺伝子の単離を進め,それらの遺伝子群の発現と自家不和合性との関連を追及することで,高校向けの学習教材としての可能性を探る。8)種子をethylmethane sulfonate(EMS)処理或いは中性子線処理して,生殖,発育,成長に関連した突然変異体の作出を試み,中学,高校での遺伝に関連する教材としての利用を探る。 つぎに,学校実践については,教職大学院の現職の先生方や本学附属小,中学校の先生方, 宮城県教員研修センターの先生方,また私の研究室を卒業して教員として活躍している先生方に協力をお願し,小,中,高それぞれ少なくとも1校で教育実践することを目指したい。
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Research Products
(1 results)