2012 Fiscal Year Research-status Report
FUMIEテストを用いた生命尊重意識変化に及ぼす動物飼育・解剖教育の影響評価
Project/Area Number |
23501010
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
坂口 雅彦 信州大学, 教育学部, 准教授 (30221998)
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Keywords | 理科教育 / 生物教育 / 動物解剖 / FUMIEテスト / 外来生物 / 動物愛護 / 生命尊重 / ウシガエル |
Research Abstract |
実際に動物と触れ合ったり,動物を解剖し体内を観察した経験を持つ子供が年々減少している。生命についてより深く知り,生命の尊厳について明確な意識を持った子供を育むのは理科教育の大きな目標の1つである。本研究では動物飼育・動物解剖を体験することによる子供達の生命に対する意識変化の有無を調査することを目的としている。 呼吸・消化・排出・循環は小学校及び中学校理科で学習する内容である。理科ではできるだけ自然の事象に触れさせることが基本であるが,学習指導要領目標に「生物愛護」「生命尊重」とあるためか,実際の動物解剖体験が減少してきている。そこで,ウシガエルの実際の解剖体験によって,中学校生徒の生命尊重意識が変化するか質問紙調査とFUMIEテストという心理テストを,解剖体験前後で行い,変化の有無を23年度調査研究した。24年度は統制群として従来通り動物解剖を体験しない生徒の調査を行い,実験群と比較して分析した。 その結果,1)授業の印象への自由記述欄への回答記入者数が実験群の方が圧倒的に多く,解剖体験への感動が記されていたのに対し,統制群ではほとんど記入が見られず,授業の印象があまりない,2)内臓に対するイメージは実験群でも統制群でも授業前後で変化しないが,心臓に対するイメージは実験群で授業後良くなるのに対し,統制群では悪くなる,3)生命尊重意識が授業後実験群で高まったのに対し,統制群では変化はない,4)FUMIEテストでは,心臓,命に対する好嫌度は実験群統制群ともに授業前後で変化は見いだせないことがわかった。 また,遺伝研究では有名だが,嫌なイメージを持たれているキイロショウジョウバエの飼育と,研究で役立っていることを知ってもらうことで生命尊重意識変化が起こるかどうかの調査協力校依頼を24年度行い,信州理科教育研究会のご協力のおかげで25年度遺伝の単元で調査を実施できる見込みを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の遂行には小中学校の教員・校長・児童生徒のご両親の研究へのご理解が必要である。しかし,学校現場は多忙で研究を受け入れる余裕がない事に加え,心理テストへの抵抗は根強く,なかなか本研究に協力していただける学校が見つからず,当初は大変苦労した。,やっとご協力いただけた学校でも,全生徒に同じ教育を施すことが重要という教育方針があり,実験群のデータのみ23年度取得できただけで,統制群と比較分析することが今年度やっと可能となった。その結果,実際の解剖体験は生徒に感動を与え,生命尊重意識が高まることが示唆された。FUMIEテストは,キーワード「感謝」に対してはIAS値が正であり(好ましいと無意識に感じており),「失明」に対しては負の値である(嫌だと無意識に感じている)ことを確かめているが,授業前後で「心臓」「命」をキーワードとしての変化を観測できなかったものの,いずれもIASは正の値であり(好ましいと無意識に感じており),実際の動物解剖が生徒に無意識下で悪い影響を及ぼしている可能性は観測されなかった。 本研究のもう1つの課題である動物飼育の生命尊重意識変化に及ぼす影響評価はさらに遅れていたが,信州理研のご協力により,ショウジョウバエの飼育体験を中学校の遺伝の単元で行っていただけることになった。従って,平成25年度に実施できる見通しとなり,おおむね順調に進展していると評価できるレベルにまで回復できた。
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Strategy for Future Research Activity |
中学校遺伝の単元は3年生(25年度7月)に実施が予定されており,その準備を行っている段階である。すでにキイロショウジョウバエの飼育関係の器具を協力校に持ち込み,打ち合わせている。具体的にはebony(第3染色体上の遺伝子で体表が炭のように黒く見える劣性変異)のハエと,野生型(腹部背側体表が黄色と黒の縞模様である)のハエを交配した飼育ビンを2クラス計80名に各自配布し,その雑種第1代の卵,幼虫,蛹,成虫への変化を観察させるとともに,それらがすべて野生型と同様の体表を示すこと(優性の法則)を観察させるべく準備をしている。他2クラス80名には統制群として通常授業を行うことで了解いただいている。またキイロショウジョウバエが遺伝,発生神経科学を含む生物学研究で役立っていることを説明するための基礎的なデータを取得する予定である。この飼育前後での調査結果を最終年度秋からまとめる予定である
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度末において,キイロショウジョウバエの飼育をする授業を行ってもらえる可能性がある協力者を長野県外にも得られる可能性があった。そこで旅費分として留保していたが,結局協力は得られないことになった。そこで,この留保分57450円を平成25年請求(済)額と合算し,以下のような使用計画を立てている。 ハエの実際の飼育に必要な飼育ビンと栓などの器具,餌,実体顕微鏡などの機器,そして,ハエが遺伝に加え,神経科学の分野でも役立っていることを示すためのデータを取得するための生理実験用器具や試薬などの購入費用に,25年度当初研究費を使用する予定である。また,データ整理のための費用や,成果発表のための学会出張費,成果報告書冊子印刷費用としての使用も計画している。
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