2011 Fiscal Year Research-status Report
日本語プログラミング言語による科学リテラシー獲得を目指した情報教育の実践的研究
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23501036
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Research Institution | Hijiyama University |
Principal Investigator |
山田 耕太郎 比治山大学, 現代文化学部, 准教授 (20353120)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 日本語プログラミング / 情報教育 / 科学リテラシー / なでしこ |
Research Abstract |
日本語プログラミング言語「なでしこ」を使い,数値計算プログラムと力学のシミュレーションプログラムを作成した。数値計算プログラムは三角関数やネイピア数をベキ乗展開して求めるものであるが,厳密な値と比較し,単精度の範囲で正確に計算されていることを確認した。これらのプログラムは単なる確認用ではなく,コンピュータによる数値計算の限界を知り(情報教育),結果の適用範囲を正しく判断する(科学リテラシー)ための教材として使うことができる。数値計算した結果はグラフ化して見えるようにすることが教育的である。そのため,数値計算プログラムに計算結果をグラフ表示するルーチンも記述していたが,座標系の変更や3次元プロットなどの細かい表示に対応する必要があると判断し,フリーウェアのgnuplotを導入した。gnuplotはコマンドラインで利用できるため,なでしこプログラムから起動して容易にグラフの描画を行えるようになった。力学のシミュレーションプログラムとして,バネや振り子の単振動,自由落下,Weylの玉突き,質点系など,基本的な力学の問題を対象とし,その運動をアニメーション表示するものを作成した。また,これらのプログラムをWeb上でもシミュレーションできるよう,なでしこが使えるWebアプリケーション開発環境「葵」をサーバに導入した。しかし葵を使ったシミュレーションによって詳細な動作検証を行った結果,教育ツールとしての利用はかなり限定されたものになることが明らかとなった。そのため,葵を介さずになでしことWeb環境を直接連携させた教材の開発に切り替えて研究を進めている。これらの成果については,広島県物理教育研究推進会主催の「明日から使える理科教材ワークショップ(VIII)―第16回物理教育研究会―」にて「情報教育で力学も学ぶ」というタイトルで出展し公表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではWebアプリケーションを利用するためのサーバが必要であるが,セキュリティ上の観点からサーバをリプレースした際に,開発環境の「葵」が最新OS環境下で動作しなくなった。原因は葵が使うデータベース管理システムSQLiteのバージョンが古いためで,旧バージョンのSQLiteをインストールすることで対応できたが,セキュリティの低下を招く危険性が大きくなった。更に葵の動作を詳細に検証した結果,動作速度や表示の面で力学のシミュレーションを行う教育ツールとしての利用が困難であることが明らかとなった。また葵によるWebアプリケーションはFlashコンテンツとして動作するため,PC環境下だけでなく,Flashコンテンツの再生が可能なスマートフォンやタブレット端末などのモバイル環境下での学習教材として利用することも想定していたが,2011年11月にアドビシステム社からモバイルブラウザー向けFlash Playerのサポート打ち切りが発表され,Flashコンテンツの動作を前提とした計画を変更するに至った。しかしこれからの教育現場を考えた場合,モバイルでも利用できる教材は想定しておくべきと考える。そのため,葵を介さずになでしこの機能拡張によってWebを利用する方法を検討し,教材の試作を重ねているところである。以上のように,葵の利用について当初の研究計画を変更せざるを得ない状況になったため,達成度は「やや遅れている」という自己評価をした。しかし,なでしこでWebの利用を行わない教材の作成はおおむね順調に進行しており,日本語プログラミング言語を使った教育によって科学リテラシーの涵養を目指すという目的通りに研究が進んでいる。従って,平成24年度はこれらの教材を使った授業実践を計画しているが,葵を利用しなくても大勢に影響は生じない。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの達成度のところで述べた通り,葵を使ったWebアプリケーション教材の作成や授業実践は計画を変更して,Webを利用しない教材での授業実践を行い,その教育効果の検証を行う。そしてこの検証結果に基づき,どのようなWebアプリケーションが効果的な教材となり得るのかを調査する。Webアプリケーションの教材開発には葵に代わる開発環境が必要であるが,日本語プログラムで開発可能な他の環境は現在のところ見当たらない。そのため既存の言語を使い,モバイル端末の機種依存性を排し,導入が容易な環境で開発が行えることを条件としてWebアプリケーションの開発を行い,なでしこのネットワーク通信機能を使ってWebと連携する方式で教材試作を行っている。現在はJavaScript (HTML5)やJava,PHPなどを開発言語として教材作成を行っているが,今後は教材の動作確認を行いながら,なでしことの統合的な開発環境の整備を行う。なお,なでしこのネットワーク通信機能については,メール送受信やサーバとのファイルのやり取りがなでしこプログラムでできることを情報教育の授業の中でも取り扱っているため,本研究での授業実践はなでしこの通信機能の発展的な利用としての位置付けで授業展開を行い,教育効果の評価を行う方針である。センサーを使ったフィジカルコンピューティングを教材の一つとする研究計画について,現在はセンサーをなでしこから制御するプログラムの開発を行っているところであり,完成プログラムはダウンロードで誰でも利用できるようにする予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額として232,054円を繰越すこととなった。当初の計画では,葵を使ったプログラミング教育のテキストを作成する予定であったが,葵を教育ツールとして利用するメリットが小さいことが明らかとなりテキスト作成を見送ったため,約150,000円が未使用となった。また,学会・研究会参加が近隣のみであったため,旅費支出で約50,000円が未使用となった。これと謝金の30,000円の未使用分との合計で約230,000円の繰越しが生じた。ただし,謝金については,年度末に研究協力者の短期雇用を行い,支払が次年度となったことで生じた残額であるため,支出が決まっている。次年度は授業実践とその効果の分析が中心となるため,当初の計画ではテキストが作成済となる予定であった。しかし計画の変更に伴い,テキストの内容にも変更が生じることになったため,次年度に新たな内容でテキストの作成を行う。従って繰越額のうち150,000円はテキスト作成費に充てるものとする。旅費の繰越分についても,次年度は関東や東北方面の学会に参加予定のため,次年度の旅費と合わせて使用する。研究計画に変更が生じたものの,その影響は物品等の変更ではなく,研究方法の修正やフリーソフトウェアの利用で対応できるため,研究費の変更は伴わない。よって次年度は交付予定額の900,000円(直接経費)を増減せずに研究を推進する。
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Research Products
(1 results)