2011 Fiscal Year Research-status Report
被爆者病理標本における残留放射能の検出と内部被曝の分子病態解明
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23510064
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
七條 和子 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (90136656)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 正洋 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (50284683)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 線量測定・評価 / 原爆被爆者 / プルトニウム / アルファ線 / ゲノム不安定性 / グリッドチェンバー 検出器 |
Research Abstract |
本研究の目的は、人体内残留放射能の病理学的研究を行うことである。長崎大学原研施設にて、長崎原爆被爆者病理標本の残留放射能を検出し、放射線が人体に及ぼす内部被曝の影響を分子病理学的に解明する。原爆被爆者における放射線障害は外部被曝線量によって厳密に評価されている。しかしながら、外部被曝のみの範疇で入市被爆者における染色体異常(蒲田他、2006)などの報告を説明することは不可能であり、内部被曝の人体に及ぼす重要性が示唆される。原爆投下後66年たった今、高齢化する被爆者救済の社会的世論を踏まえ、この領域の人体病理学的研究を急務と考え、原爆被爆者について新たな突破口としての研究を行い科学的証拠を提唱したい。 長崎の原子爆弾はプルトニウム爆弾である。核分裂によって核分裂生成物とならなかった量的に少ない燃え残りのプルトニウムが放射性降下物(フォールアウト)として、大気圏あるいは地上を汚染した。その壊変時にはアルファ粒子が放射される。米国変換資料の中から、長崎原爆被爆者として被爆距離1km以内の急性被爆症例7症例、内部被曝例としてトロトラスト症例1症例、対照として国立長崎医療センター病理解剖例4症例、九州大学病理解剖例3症例を用いて、骨、骨髄、肺、肝臓、腎臓などの病理標本についてオートグラフ法を行った。得られたアルファ粒子飛跡を基に放射性核種の局在と病理所見について検討した。結果1.アルファ粒子飛跡の長さを計測し、乳剤内におけるエネルギーと飛程の関係により、Zeiglarの方法に基いた放射線核種の同定をした。2.放射線検出器による放射線核種の同定については現在進行中である。3.in vitroでの正確なBIODOSIMETRY(生物学的線量評価)の必要性に伴い、ゲノム不安定性のマーカーであるp53関連たんぱく53BP1に着目した免疫組織化学では、被爆者標本について高発現が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.オートラジオラフ法によるアルファ粒子の飛跡長を基にした較正標準曲線を得るために、環境サンプル及び標準放射線源についてアルファ放射体の核種の同定を検討した。長崎土壌(239,240Puを含む1979年に採取された長崎市西山地区のもの)、210Po、241Am、243Amサンプルは、オートラジオグラフ法による乳剤におけるアルファ粒子のエネルギーとアルファ飛跡長の関係曲線にフィットした。長崎土壌のアルファ粒子の飛跡長は長崎原爆被爆者のパラフィン標本のものと一致した。以上より、長崎における原爆被爆者の標本におけるアルファ放射体の核種はオートラジオグラフ法により239,240Puとして同定された。購入したアルファグリッドチェンバー検出器を用いたアルファ線量測定については、トロトラスト被曝病理標本での測定は可能であった。2.長崎急性原爆被爆者標本についてゲノム不安定性マーカーである53BP1蛋白発現について、内部被爆例としてトロトラスト症1症例、長崎原爆被爆者として急性被爆症例7症例、非被爆者として2症例を用いて、肝臓および脾臓標本を用検討した。トロトラスト症例標本ではトロトラスト顆粒周辺の肝細胞、胆管上皮細胞、脾細胞に53BP1のフォーカス形成が認められ、単位面積当たりの陽性細胞数は高値を示した。原爆被爆者肝臓標本では、被爆距離0.5km、被爆後生存日数が短く、屋外被爆であった症例で53BP1発現は高値を示した。3.カスパーゼに依存しない細胞死の一つである細胞質の分解系オートファージと放射線障害について検討した。内部被爆例であるトロトラスト症標本では顆粒周辺の肝細胞に53BP1のフォーカス形成が認められ、オートファージのマーカー蛋白LC3が発現した。実験的外部被曝であるX線8Gy全身照射後のラット肝、腎、肺標本でも、53BP1、LC3の発現、オートファージ電顕像が確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
1.オートラジオグラフ法についてはすでに確立済みであったので、アルファ粒子飛跡長の画像解析による放射線核種の同定は順調である。今回購入したアルファグリッドチェンバー検出器を用いたアルファ線量測定については、トロトラスト症肝標本を用いた測定は可能であった。これは、1) 内部被曝線量が高線量であること、2) アルファ放射体であるトロトラスト顆粒は顕微鏡下でも観察され、さらに、組織内局在が認められるので測定容易であることが考えられた。同様に長崎原爆被爆者標本についてアルファ線量測定を試みたが現在のところ不可能である。原因として、1)内部被曝線量がかなり低線量であること、2)明らかな放射体の標本内局在が認められないこと等が予想された。今後の推進方策として、測定標本の大きさ、形状、アルファグリッドチェンバー内の混合ガス分圧の状態等を創意工夫し、さらに標本の抽出、選択について再検討することが必要である。2.内部被爆例として用いたトロトラスト症標本については、顆粒周辺の肝細胞に認められたゲノム不安定性を示す53BP1のフォーカス形成とオートファージについて症例数を増やして研究を推進する。さらに、発がんとの関係を探るためにstem cellについての検討も行いたい。一方、実験的外部被曝として用いたX線8Gy全身照射後のラット肝、腎、肺、さらに、心標本についても、53BP1、LC3蛋白の発現、オートファージ電顕像を確認し、放射線障害の分子病態を検討する。また、一般染色であるH&E染色、あるいは電顕について「放射線障害の超微細病態像」を経時的に観察する。即ち、内部被曝と外部被曝の差異が病態生理学的に標本上で認められば、今後の内部被曝の分子病態を検討する上で非常に有益だと考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.プルトニウム測定装置;アルファグリッドチェンバー検出装置を稼働させるための混合ガス(アルゴンーメタン)を購入する。2.アルファ粒子の飛跡オートラジオグラフィーを行うための乳剤を購入する。3.現像液、定着液、電顕用試薬、免疫組織化学用試薬等の薬品を購入する。
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Research Products
(19 results)
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[Journal Article] Summary of pathologic projects on atomic bomb disease medicine research2012
Author(s)
Nakashima M, Miura S, Shichijo K,Matsuyama M, Kurashige T, Matsuda K,Mussazhanova Z, Kondo H, Suzuki K,Tsukasaki K, Yoshiura K, Naruke Y, Ito M, Sekine I
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Journal Title
A New Challenge of Radiation Health Risk Management, Nakashima M, Takamuea N, Suzuki K, Yamashita S. (Eds)
Volume: 0
Pages: 137-144
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[Presentation] Summary of pathologic projects on atomic bomb disease medicine research2011
Author(s)
Nakashima M, Miura S, Shichijo K,Matsuyama M, Kurashige T, Matsuda K,Mussazhanova Z, Kondo H, Suzuki K,Tsukasaki K, Yoshiura K, Naruke Y, Ito M, Sekine I
Organizer
The 6th International Symposium of Nagasaki University Global COE Program "Global Strategic Center for Radiation Health Risk Control"
Place of Presentation
Nagasaki
Year and Date
2011.10.20-22
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