2012 Fiscal Year Research-status Report
被爆者病理標本における残留放射能の検出と内部被曝の分子病態解明
Project/Area Number |
23510064
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
七條 和子 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (90136656)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 正洋 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (50284683)
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Keywords | 線量測定・評価 / 原爆被爆者 / プルトニウム / アルファ線 / ゲノム不安定性 / グリッドチェンバー検出器 |
Research Abstract |
本研究の目的は、人体内残留放射能の病理学的研究を行うことである。長崎原爆被爆者の体内残留放射能を検出し、放射線が人体に及ぼす内部被曝の影響を病理学的に検討する。1945年に亡くなられた長崎原爆急性被爆症例ではオートラジオグラフィー法による検討で、肺、腎、骨等のパラフィン標本について長崎原子爆弾の核種である239Puから放出される特有のアルファ粒子飛跡パターンが認められることを報告した。これは、原爆被爆者における初めての内部被曝の証拠となった。今年度は、1)長崎急性原爆被爆者病理標本で認められたアルファ放射体の核種同定を行うこと、2)放射線ゲノム不安定性に関わる分子病理学的側面から、内部被曝の病理学的指標として、DNA二重鎖切断部位に集積して核内フォーカスを形成するp53 binding protein 1 (53BP1) の発現について検討した。結果1)1979年に長崎西山から採取された土壌サンプル、210Po. 241Am, 243Amのアルファ放射体標準品を用いたオートラジオグラフィー法による飛跡の解析で、各々の核種はアルファ粒子のエネルギーと飛跡の長さの関係を成立させた。得られた飛跡の長さは長崎土壌サンプルでは長崎急性原爆被爆者病理標本と一致した。トロトラスト症患者症例(アルファ放射体である二酸化トリウムを含む血管造影剤で内部被曝)標本において、購入したアルファグリッドチャンバーで線量が測定された。2)トロトラスト症患者症例の肝臓標本を用いて53BP1の免疫染色を行った。結果、標本内に局在するトロトラスト顆粒(アルファ放射体)周辺の肝細胞に53BP1の核内フォーカス形成が認められた。53BP1の核内異常フォーカス形成が内部被曝の影響として考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1)今回、購入したアルファグリッドチェンバー検出器を用いて、トロトラスト内部被曝症例の肝臓病理標本ではアルファ線量測定は可能であった。しかし、長崎急性原爆被爆者症例では、未だ検出不可能である。フリッシュグリッドチャンバー検出器を付したアルファ分光システムは、最も感度の高いアルファ検出器(2πステラジアン)であり、自動電空制御測定サイクルを有し、分解能は35 keV ( Pu-239)である。バックグラウンド:< 1 カウント/時 (4 - 6 MeV)と記載されている。今までに得られている原爆被爆者のデーターでは、8日間測定で、Pu-239と思われる5.306MeVでは約13カウントであった。バックグラウンドは3~5カウントで高いので今後検討の余地がある。検出感度の限界かもしれない。 2)放射線ゲノム不安定性を評価するための内部被曝の病理学的指標として、DNA二重鎖切断部位に集積して核内フォーカスを形成する53BP1の免疫染色を検討した。トロトラスト内部被曝症例では、標本内に局在するトロトラスト顆粒周辺の肝細胞に53BP1の異常核内フォーカスの形成が認められ、顆粒の存在しない肝細胞ではほとんど認められなかった。一方、長崎急性原爆被爆者症例では肝標本などで53BP1の核内発現細胞数の増加は認められた。原爆被爆者症例における53BP1核内フォーカス形成の解析は遅れている。また、遠距離被爆者、入市被爆者については病理標本の抽出が不完全で症例を収集中である。
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Strategy for Future Research Activity |
1)アルファグリッドチェンバー検出器を用いたアルファ線量測定については、①測定する標本の抽出、選択を検討する。即ち、大きい標本、形状、オートラジオグラフィー法で放射能のActivityが高値を示したものなどを狙って測定する。②アルファグリッドチェンバー内のガス分圧の状態、測定時間などを創意工夫する。現在までに、トロトラスト症例標本では1日間、被爆者症例腎臓、肝臓標本では8日間の測定を行った。被爆者標本では、6日間測定が至適であった。 2)内部被曝の分子病態を評価する指標として、免疫染色法による53BP1の核内フォーカス形成の解析を解析している。トロトラスト症例については、53BP1の局在や核内フォーカスのカウントについて評価可能な染色結果を得た。一方、長崎急性原爆被爆者症例では、クリアな評価結果が得られていない。数を増やす。さらに、遠距離被爆者、入市被爆者についても病理標本の抽出を完全に行ない、症例収集を再検討する。免疫染色による核内フォーカスの発現を鮮明にするために新しく薄切して研究を推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1)長崎原爆被爆者病理標本内のアルファ放射線量微量測定用のアルファグリッドチェンバー検出装置を稼働させるためにアルゴンガスを購入する。 2)長崎原爆被爆者病理標本における飛跡オートラジオグラフィーを行うための乳剤を購入する。 3)オートラジオグラフィー用現像液、定着液、電顕用試薬、免疫組織化学用試薬等の薬品を購入する。
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Research Products
(17 results)