2012 Fiscal Year Research-status Report
環境化学物質の脳発達への影響~グリアとニューロンにおける多角的解析
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23510072
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
岩崎 俊晴 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80375576)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鯉淵 典之 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80234681)
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Keywords | 甲状腺ホルモン / 脳発達 / 環境化学物質 / Purkinje細胞 / アストロサイト |
Research Abstract |
(1) 小脳初代培養細胞を用いたPurkinje細胞樹状突起進展に対する影響: (a) Purkinje細胞特異的変異甲状腺ホルモン(TH)受容体(TR)beta1を発現するマウス(Mf-1)を用いた解析では,野生型で認められたTH依存性の樹状突起進展はhomoでは抑制された。TH標的遺伝子のmRNA発現と合わせて検討して今までの結果と一致した結果を得た。(b) 野生型ラットを用いた解析では, 4-NP(nonylphenol)で樹状突起の進展が認められ, PFOSでは抑制されていた。PFOAでは影響なかった。これらの環境化学物質の転写への影響は4-NPは活性化,PFOS, PFOAでは影響はなかった。 (2) rat小脳初代培養細胞を用いた顆粒細胞に対する影響: PBDFによる影響を解析したところ,用量依存性に抑制されることが分かった。BDNFによる神経突起進展はT3とは異なることが示唆された。 (3) アストロサイトへの影響:(a) actin polymerizationの解析: LPSはG-actinの割合を増加させ(actin depolymerization; AdeP),T4では逆の現象が起きた(actin polymerization; AP)。(b) 脱ヨウ素化酵素(deiodinase2;D2) 活性の解析: LPSはD2活性を活性化し,T4は抑制することが分かった。(c) MAPK inhibiorを用いた解析では,AdeP, D2ともにLPSの反応がp38 MAPK inhibitorにより抑制された。 (4) Brain-derived repression molecule (B-ReM)の解析:野生型Wister rat小脳を用いて半定量的RT-PCR法及び免疫組織化学,Western blot法を用いて生後の発現を日齢を追って解析している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
小脳初代培養細胞を用いたPurkinje細胞樹状突起の進展に対する影響では、当初予定になかったPFOS(perfluorooctanesulfonate), PFOA(perfluorooctanoic acid)に対する影響を解析し,今まで報告した機序とは異なる機序で脳発達を抑制している可能性があることが分かった。Mf-1を用いた解析では,繁殖を継続した結果,(震災の影響もあるかもしれないが)子供の数が少なくなることが起こったため,バッククロスをかけ,ラインを安定化しているため,進行がやや遅れている。ほぼバッククロスは終了しており,全体の進行に問題ないと考えている。アストロサイトに関する系は時間があれば,環境化学物質の影響まで解析する予定である。LPSに関する系ではさらに詳細な機序まで解析したいと考えている。この系とは異なるが,ラットにLPSを投与した系では,酸化ストレスマーカーである3nitrotyrosine(3NT)が上昇することが分かった。LPSにより初代培養Purkinje細胞樹状突起の進展が抑制されることが分かったが,D2活性に対する影響は一時的なものと考えられた。顆粒細胞に関する系は,BDNFとT3で神経突起の進展パターンが変わる機序として,顆粒細胞中のmRNA発現の解析を試みたが,試料が少なく予想した結果が得られなかった。現在論文を準備中である。B-ReMに関するChIPアッセイは予備実験を行い,予想した結果が得られた。今後は試料数を増していく予定である。一部の実験で時間と予算の関係で実施しえなかったものも存在したが、概ね、計画通りに進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 小脳初代培養細胞を用いたPurkinje細胞樹状突起の進展に対する影響:Mf-1の試料数を増やしていく予定。今後は,TH標的遺伝子のmRAN発現に対する影響を解析していくことに重点を置いて解析していく予定である。できれば,電気生理学的解析や,発現解析で変化の大きかった遺伝子のエピジェネティック解析,顆粒細胞に対する影響も行いたいと考えている。Mf-1は小脳Purkinje細胞特異的に表現型が出るはずであるが,他の脳部位,例えば顆粒細胞系や黒質・線条体系などへの影響も解析し,影響がないことを確認する。黒質・線条体系の解析は行動解析(open field, 24時間locomotor activity解析)で確認していく予定である。当研究室に他の甲状腺ホルモン低下モデル動物を繁殖・機能解析しているのでそれらの結果も合わせて,比較検討していく予定である。これら甲状腺機能低下動物の環境化学物質に対する影響は,脆弱個体への環境化学物質の影響という意味で,興味深い対象であるので,できたら解析したいと考えている。 (2) PFOSがTRを介する転写には影響を及ばさず,脳発達にPurkinje 細胞樹状突起の進展を抑制する機序を解明したいと考えている。現在までのところ,D2 mRNA発現には影響がないことが分かっている。今後はD2活性に対する影響を解析したいと考えている。 (3) B-ReMの解析:他の系の進行を見ながらになってしまうが,in vitro ChIPアッセイに加え,in vivo ChIPアッセイも計画している。ヒストンアセチル化から検討する予定であるが,他のエピジェネティック機序も影響していないか,確認する必要があると考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)Mf-1マウスの解析:Mf-1の解析を最優先に計画している。まず,小脳におけるTH感受性遺伝子発現の解析を行う。できたら,リアルタイムRT-PCR法で解析したいが,予算の都合で半定量的RT-PCRになるかもしれない。次に, できたらエピジェネティック解析を行いたい。TH標的遺伝子のプロモーター領域を解析する予定であるが,例えばBDNFの遺伝子発現パターンは複雑であり,甲状腺ホルモンのみが制御しているわけではない。できたらin vivo ChIPアッセイなども検討したいと考えている。行動解析については専用の行動解析室があり,費用は動物飼育費用の他,少ない予算で実施可能である。動物舎が改修,短期移転となるため,Mf-1の系に関してはバッククロス後,凍結受精卵,凍結精子等で種の保存を行う予定である。これに伴い,動物の維持費は減少する予定。 (2)PFOSの脳発達に対する影響:PFOSのPurkinje細胞樹状突起進展抑制機序を解析するため,D2活性を解析する予定である。アイソトープ他を購入する予定。できたら行動解析と合わせて解析したいと考えている。 (3)B-Remの解析:B-ReMの機能ドメインの解析及びエピジェネティック解析を行う予定である。発達期小脳におけるmRNA発現,免疫組織化学,ウエスタンブロットの試料数を増やして解析を行う予定。 (4)その他:顆粒細胞系,アストロサイト系の実験のため,細胞培養関連,アッセイ関連の予算を計上する予定である。 (5)成果報告:昨年度から投稿を準備しているが,今年度も引き続き投稿準備のための英文校正,投稿費用,別刷の費用を計上する予定である。成果発表のため,国内学会に参加する予定である。
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