2012 Fiscal Year Research-status Report
社会的行動の評価による揮発性有機化合物の発達神経毒性とそのバイオマーカーの開発
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23510084
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
上野 晋 産業医科大学, 産業生態科学研究所, 教授 (00279324)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
笛田 由紀子 産業医科大学, 産業保健学部, 講師 (10132482)
吉田 安宏 産業医科大学, 医学部, 准教授 (10309958)
石田尾 徹 産業医科大学, 産業保健学部, 講師 (90212901)
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Keywords | 有機溶剤 / 1-ブロモプロパン / 胎生期曝露 / 神経行動 / 飼育環境 / 海馬神経回路 / オープンフィールド試験 / カイニン酸 |
Research Abstract |
本年度はまず曝露モデル動物におけるバイオマーカーの探索の一環として、マイクロダイアリシス法を用いた脳内有機溶剤濃度のリアルタイムでの測定方法の開発に着手した。まず透析用の再生セルロース透析膜プローブ(以下プローブ)の挿入位置を決定するために、曝露物質には1-ブロモプロパン(以下1BP)を用いて、成獣Wistarラットに濃度3000 ppm・6時間の単回曝露を行った後、大脳・小脳・海馬を採取し直ちに自作の密閉式ホモジナイザーを用いて1-BPを抽出し脳内濃度分布を調べた。その結果、各部位における1BP濃度に差が認められなかったので、これまで神経毒性を報告してきた海馬を挿入部位とした。さらにこのプローブの灌流液中にDMSOを濃度1%となるように添加することによって1BPの回収率が改善することも見出したので、現在これらの条件の下、1BPの海馬内濃度をリアルタイムで測定するとともに、曝露後の脳組織を回収して遺伝子発現の変化をDNAマイクロアレイにより検討する予定である。 一方、昨年度に引き続き1BP胎生期曝露モデルラット(濃度700ppm)の行動学的表現型について検討した。以前に生後14日齢の海馬におけるAMPA型グルタミン酸受容体GluR1遺伝子の発現量が胎生期曝露群では増加していたことから、この受容体作用薬であるカイニン酸を投与して誘発される自発行動について検討したところ、低用量カイニン酸で誘発されるwet-dog shakeについて、胎生期曝露群ではその発現率が減少していた。また離乳後に対照群および胎生期曝露群をそれぞれ個別飼育と集団飼育(3匹/ケージ)とに分け、5週齢にてオープンフィールド試験を行ったが、昨年度までとは異なり今回は個別飼育と集団飼育、さらには対照群と胎生期曝露群とで行動量に有意差が認められなかったので、再現性を確認する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
離乳後の飼育環境の違いによる神経行動に対する影響について、昨年度得られた結果と本年度得られた結果とでは一部異なるものであった。そのため再現性を確認することが必要となり、現在、あらたな胎生期曝露モデルを作成中である。社会的行動についての評価は、この再現性を確認した後に行う予定としている。 バイオマーカー探索については、脳内濃度との相関を確認する必要が考えられたことから、リアルタイムでの脳内濃度の測定法を開発・検討するという、予定していなかった課題について検討することになった。そのため具体的なバイオマーカーの探索についてはいまだ有用なデータが得られていない。しかしながら本年度の実験から測定方法が概ね確立できているので、次年度はリアルタイムの脳内濃度との相関と併せてバイオマーカーとなる遺伝子・タンパク質の候補について検討することが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も胎生期曝露モデル動物の作製とその神経行動について、一般的な活動量から社会的行動の評価まで行う。とりわけ飼育環境については集団飼育(3匹/ケージ)を基本とした胎生期曝露モデルを作成することにして、再現性の確認をしつつ神経行動について評価する。 バイオマーカー探索については、1-ブロモプロパン急性曝露モデルを作成して、その脳内濃度についてリアルタイムで測定するとともに曝露終了後に脳組織を採取し、遺伝子発現については、GABA-A受容体やニコチン性アセチルコリン受容体の構成サブユニット遺伝子ような具体的なものだけでなく、DNAマイクロアレイによる網羅的な解析も視野に入れて検討することを考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度分から約136,000円が次年度への繰越金となった。これは今年度からバイオマーカー探索の一環として有機溶剤の脳内濃度測定のためのシステムを立ち上げ始めたことで、行動試験と併せて当初予定していたラットの購入数が最終的には少なくなったこと、消耗品についても現有しているものなどを用いることによってこれも予定より低額に抑えられたことによるものである。次年度には特にDNAマイクロアレイによる遺伝子解析など新たに計画している実験があることから、これに必要な費用を計上する必要も生じてきたので繰越金とした。次年度の計画としては ①胎生期曝露動物の社会的行動の評価 本年度までに具体的な社会的行動の評価についての有用なデータが得られていないので、計画よりも多くの実験動物を使用することが想定される。また社会的行動の評価をラットで行う可能性もあり、ラット用の社会的行動評価用ケージを購入するための費用を計上する必要があると考えている。 ②バイオマーカーの探索 バイオマーカーの探索については急性曝露モデルラットを用いて、マイクロダイアリシス法を用いた曝露物質の脳内濃度のリアルタイム測定と併せて脳内の遺伝子発現の変化を検討する。そのためマイクロダイアリシス用のプローブの購入のための費用、ならびにDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現プロファイルの解析のための費用を計上する必要があると考えている。
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