2011 Fiscal Year Research-status Report
フラーレン様構造を持った機能スイッチング型ペプチド立体の創製
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23510131
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田村 厚夫 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90273797)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ナノ構造 / ペプチド / ナノチューブ |
Research Abstract |
ペプチド分子集合体の人工デザイン研究を1)構造面および2)機能面の両面から展開した。これは、フラーレン様のナノ構造の骨格となる分子設計を行うとともに、この構造体を機能化し有用な機能性ペプチド集合体とすることを目指したものである。1)ペプチドナノ構造の2次元および3次元展開オリジナル技術であるペプチドナノチューブは、環内部に機能性のアミノ酸を配して特異的に物質を結合する能力を有するものであり、本年度特許取得に至った(特許第4915986号)。これは、環状ペプチドを用いるものであるが、基本的には直径2nm程度で1次元的に延びた構造を取る。本年度は、これをもとにして2次元の網目状にし、さらに積層することで3次元とすること、αヘリックス構造基本単位を三角形として組み合わせることで、初めからフラーレン様のサッカーボール型の3次元球体にすることなどを目指した。この結果、目標とする構造に近いものを獲得し、CD(円二色性)やNMR(核磁気共鳴)などの分光法、AFM(原子間力顕微鏡)による形態観測、DLS(動的光散乱)や超遠心による集合状態の解析等詳しい構造解析を行った。2)金属イオン結合能を持ったペプチド分子およびナノチューブのデザインペプチド分子としてレアメタル等の金属イオンへの結合機能の獲得を目指した。基本構造はαヘリックス構造から成り、より高い結合能で銅イオンとパラジウムイオンの双方、およびパラジウムのみ選択的に結合するペプチドの設計に成功した。この成果を産業界利用すべく、紙に吸着させ機能紙として利用できるかどうか実験を行った。この結果、パラジウムを高効率で吸着する機能紙となったことを証明し、特許出願(特願2012-47585)にも至った。このように、金属イオンを選択的に結合させる技術の獲得に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
構造面では、集合させるフラーレン様構造を取るものの設計に成功した。ただし、その形態観測で実験的困難があり、現在様々な手法での観測を組み合わせて行っているところである。 機能面では、金属イオンの結合に新たな展開があった。この他、薬物などの結合に挑んでいるが定量的なデータを得る手前である。 総じて、構造、機能の両面で順調に進んでいるが、実験的に解決すべき問題も多少残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
構造転移に基づくスイッチング制御を目指して機能化を果たす。具体的には、水素イオン結合(pH)で誘起される構造変化や構造形成、金属、蛍光物質、およびタンパク質への特異的結合能を付与することを行う。このために、pHで荷電状態が変化するアミノ酸(His, Asp, Gluを利用)を複数配置し、中性溶液中では正電荷を持つアミノ酸(LysまたはArg)との静電的引力によってフラーレン様構造を保持するが、酸性では静電相互作用の反発により可逆的に壊れる分子を設計する。 次に結合部位の立体構造を保持させたタンパク質分子をデザインすることで、金属との結合を起こす結合型機能を織り込んだものへ発展させる。この際、自然界で金属結合するタンパク質では、His, Cys, Glu, Aspの4種類の側鎖が相互作用していることが知られている。そこで、決定した立体構造をもとに、空間的に最適配置で金属と相互作用するようにこれらのアミノ酸側鎖を導入する。また、芳香族環を有する蛍光物質を取り込むために、ケージ構造内部の疎水性と芳香族アミノ酸(Trp, Tyr, Phe)の配置を工夫する。蛍光物質は検出が容易であり、また薬剤と構造が比較的近いものも多いため、ドラッグデリバリーなどへの適用化を確認することが可能となる。さらに、小型のタンパク質を取り込めるように、内径と形状を制御する。 続いて、1つの分子ではなく集合体とすることで、構造安定性、協同性、および多種多様な相互作用を導入する。中央の空隙に上記金属結合性のアミノ酸を導入すべく、近隣のアミノ酸の大きさや疎水性を考慮して設計する。また、αヘリックスは構造形成のフォールディング速度が速いため、高速高感度の構造スイッチングが可能となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在の研究室の研究設備(ペプチド合成機、HPLC、MALDI-TOF型質量分析器、熱測定器、円二色性分光器、AFM等)および学内共同利用施設(NMR、電子顕微鏡等)の設備を利用する。現在の研究環境としては、モノ作り(タンパク質の生合成および化学合成)、精製(順相および逆相クロマトグラフィー)、溶液中での構造解析 (CDによる二次構造解析および多核多次元測定を750MHz NMRで行うことによる三次構造決定)、形態観測は完備している。本年度は設計したペプチドを次々と合成精製し、その構造と物性を物理化学的手法で観測するため、材料の試薬と精製観測用の器具を消耗品として多く計上した。また、成果が出始めているので国内学会発表を行うための旅費を計上した。
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