2011 Fiscal Year Research-status Report
エネルギー政策提案に資する安全な水素社会構築のための軽元素水素貯蔵材料開発
Project/Area Number |
23510196
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
片桐 昌彦 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (40354154)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 誠一 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (60354362)
浦島 邦子 文部科学省科学技術政策研究所, その他部局等, その他 (30371008)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 水素貯蔵材料 / アルミニウム / 陽極酸化法 / 計算機シミュレーション / 分子動力学法 / 第一原理法 / 酸化物金属界面 / 水素 |
Research Abstract |
水素は環境問題を解決し得る有効な燃料である。しかし水素の体積当たりのエネルギー密度は小さく、安価で軽い材料に高密度で貯蔵する方法を開発することが望まれている。アルミニウム水素化物 AlH3 は高い重量密度(10.1 wt% )と体積密度 (148 kg/m3) を持つ有望な水素貯蔵材料である。近年、AlH3 を高温高圧下で直接合成する手法がJAEA(斎藤氏)で開発された。この方法は水素化を直接行える利点がある一方、水素化がアルミニウム表面で止まってしまう問題がある。我々のゴールは、この問題をシミュレーションからのアイデアで解決し、Al全体を貯蔵材料として有効利用することである。α-AlH3におけるHの拡散を計算した結果、H拡散は観察されなかった。実験的にもAlH3生成後、Hは殆ど拡散しない。またAlH3のフォノン計算からも、AlH3構造の安定性が確認された。Al表面近傍でAlH3が生成した場合、AlH3の安定性によりHの拡散が阻害されるため、Al内部まで水素化されないことが考えられる。そこでAlを内部まで水素化するためには、AlH3が生成する前にHをより内部まで拡散させ、内部で核生成および核成長を起こさせることが重要と考えた。そのためには、Al中でのHの拡散を増大させることが必要である。そこで、HとAlとの相互作用を変化させ、Hの拡散を増大させる指針を提案した。我々は、陽極酸化により厚いAlOx酸化膜でコーティングすることを提案した。通常の酸化膜と比べて厚い酸化膜の存在によりHの結合が変化し、Hの拡散増大によりAl内部まで水素化し、水素貯蔵量が増大すると考えた。NIMS(加藤氏)で陽極酸化により試料を作成し、JAEA(斎藤氏)で水素化実験を行った。その結果、より厚い酸化膜で覆われたAlの方が内部まで水素化され、水素貯蔵量が増大した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
安価な軽元素を水素貯蔵材料として利用することは重要である。我々は、アルミニウムを貯蔵材料として利用する可能性について検討した。従来は、酸化物の存在は水素化にとって邪魔者と考えられていたが、これを逆に利用し、貯蔵量増大に結びつく指針を提案した。我々は、陽極酸化による厚い酸化膜でアルミニウムを覆うことを提案した。厚い酸化膜でアルミニウムを覆うことによりアルミニウム中の水素の結合が変化し、水素の拡散が増大すると考えた。水素の拡散が増大すれば、より内部で核生成と核成長を起こすと期待される。このアイデアを基に、NIMSで試料を作成し、JAEAで水素化実験を行った。その結果、より厚い酸化膜で覆った試料は、より内部まで水素化された。水素貯蔵量を向上させるための指針として、厚い陽極酸化膜でコーティングすることが有効であることが判明した。酸化膜は、これまで水素化にとって邪魔者とされてきた。本研究において、この酸化膜を積極的に利用する道筋を提案できた。
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Strategy for Future Research Activity |
最近の実験によると、約15分間陽極酸化を行った試料が最も効率よく水素化され、最適な陽極酸化条件が存在することが示唆されている。この結果は、最適な膜厚が存在することを意味する。つまり、膜厚と水素の拡散との関係を詳細に調べることが重要である。更に、水素化物生成のメカニズムを核生成・成長の観点から動力学的に考察する必要がある。そのためには、量子力学計算精度の向上は元より、分子動力学法による動力学解析が必要となる。また、アルミ中の水素の拡散挙動を調べる一方、水素の侵入経路の検討も重要と考える。陽極酸化による特有の構造として、酸化物中のナノホールの存在が挙げられる。Al表面の酸化物は一般に水素化を阻害するが、このナノホールが水素拡散パスになり得ると期待している。このナノホールの配列・直径・深さは、実験条件で制御することができる。そこで、ナノホールの形状と水素化物のでき方の相関について検討を行う。また、現時点では高温・高圧下で水素化実験を行っているので、ナノホールが破壊されている可能性がある。破壊されてしまえば、水素拡散パスとして利用できないので、水素に対して親和性のあるPtなどの金属で充填し、ナノホールの構造を補強することを検討する。これにより、水素貯蔵量の更なる増大を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
計算機環境の拡充を行い、より高精度な計算を行う。また、政策提案に資するために、国際会議の出席および有識者との情報交換を行うために研究費を使用する。
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Research Products
(2 results)