2011 Fiscal Year Research-status Report
3個以上のマグマ溜りによる大規模火砕噴火に関する岩石学的研究
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23510220
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
石崎 泰男 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (20272891)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 火山噴火 / マグマ溜り |
Research Abstract |
本研究は、3つ以上の主・副マグマ溜りからなる複数マグマ溜りによる大規模火砕噴火の事例である男体火山末期噴火(約15000年前)と沼沢火山の沼沢湖噴火(紀元前3400年)を研究対象としている。計画初年度には複数マグマ溜りの形成過程解明を目的とし、系統的試料採取、粒度及び構成物組成の分析、全岩組成の定量を行い、以下の成果を得た.1、初年度の調査で確立した噴出物層序とレスクロノメトリー及び既存の炭素14年代から、男体火山末期噴火前後の噴火年代が、末期噴火の約300年前、末期噴火後には現在から約13000年前、約11000年前、約8000年前、約7000年前であることが明らかになった。2、末期噴火を起こした2つのデイサイト質主マグマ溜り中のマグマとその直前の噴火のマグマの全岩組成解析から、これらのマグマの間に親子関係が無いことが明らかになった。このことから,末期噴火の2つのデイサイト質主マグマ溜りは300年以下という短期間で形成された可能性が高くなった。また、構成物組成分析から、2つの主マグマ溜り中に存在したデイサイト質マグマの容積がそれぞれ1立方キロメータ―以上、0.2立方キロメータ―以上と推定された。3、末期噴火後の噴出物の全岩組成解析から、末期噴火を起こした2つのデイサイト質主マグマ溜りの一つは末期噴火後には一度も噴火していないのに対し、もう一つの主マグマ溜りは苦鉄質マグマの注入が引き金となり約7000年前まで繰返し噴火したことが明らかになった。4、沼沢湖噴火以前の噴出物の全岩及び斑晶鉱物の化学分析により、これら噴出物は何れも、デイサイト質と安山岩質の2端成分マグマの混合によって形成されたことが明らかになった。沼沢火山では、3つ以上の端成分マグマが噴火したのは沼沢湖噴火のみであり、この噴火の主・副計3つのマグマ溜りは最長で15000年間で形成されたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度には試料の系統的な採取、採取試料の全岩主成分及び微量成分の定量、粒度及び構成物組成分析が完了し、予定していた研究計画はほぼ順調に行われている。これらのデータをもとに、本研究の目的である男体火山末期噴火と沼沢火山の沼沢湖噴火を起こした複数マグマ溜りの形成過程解明及び複数マグマ溜り内に存在したマグマ間の成因関係解明について成果が上がりつつある。 平成24年度前半に予定していたEPMAの立上げ作業を23年度中に前倒しで完了させ、試験測定を行い良好なデータが得られることが分かったため、現在本格的に斑晶鉱物及び石基ガラスの組成分析を進めている。 一方で初年度に予定していた同位体組成の分析と炭素14年代測定(外部委託)が未実施である。これはEPMAの立上げ作業に予想以上に時間がかかったためである。しかしながら24年度前半に予定していたEPMAの立上げ作業が23年度中に完了したこと、24年度に実施予定であったEPMAによる鉱物・ガラス組成分析も23年度中に開始できたことから、初年度に実施できなかった同位体組成分析と炭素14年代測定を24年度に実施する時間的な余裕は十分にある。以上のことから、本研究はおおむね順調に進んでいると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
1、平成24年度に予定していたEPMAの立上げ作業が23年度中に完了したため、24年度以降は鉱物化学分析を中心とした研究を行い、主・副マグマ溜りに存在した各端成分マグマの温度-圧力条件などをもとにマグマ供給系の変遷と各マグマ間の混合から噴火までの時間を明らかにする。2、所属講座に新たに移管されるXRFの立上げ作業を24年度前半に完了させ、特に男体火山末期噴火前後の噴出物と沼沢湖噴火以前の噴出物の全岩組成データについて量的な充実を図る。3、EPMAの立ち上げ作業のため、初年度に予定していた同位体組成の分析が行えなかったが、この分析を24年度夏~秋に行い、研究対象とした2つの大規模火砕噴火で噴出した各端成分マグマの成因及び成因関係を明らかにする。4、平成23年秋の日本火山学会において、長年男体火山の地質を研究している中村洋一教授(宇都宮大学)から年代測定に適した炭化木の産出地をご教示いただいた。24年度にはこれらの炭化木を採取し、年代測定を行うことで、末期噴火及びその前後の噴火史の精密化をさらに進める。5、23年度には論文という形での成果公表ができなかったため、24年度には得られた成果をすみやかに印刷公表していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費各内訳における残額は5万~13万円であり、特に謝金等経費の残額が多かった。これは当初の予定していた野外調査が日程の都合上短期間で終了せざるをえず、想定していた野外調査補助の謝金が浮いたためである。24年度には、他大学における同位体組成分析や所属講座に新たに移管されることになったXRFの立上げ作業の補助等、複数の大学院生に長期にわたって実験補助を依頼することになるため、23年度謝金等残額は24年度謝金等経費と併せて大学院生への実験補助謝金として使用したい。 初年度には「その他」経費を、当初は予定していなかった自動ポイントカウンターの修理(23年度秋故障)とガラスビード作成用白金るつぼの改鋳(初年度の全岩組成分析終了後に痛みが目立つようになった)に使用した。なお、後者については納品が4月になったため実支出額の累計額には表れていない。岩石学的研究に必須のこれらの分析機器・物品の故障等は今後の研究遂行に影響するために、当初予定していた年代測定の経費をこれらの修理に回した。なお24年度には、中村洋一教授(宇都宮大学)のアドヴァイスにより年代測定に適した試料を多く採取できる予定なので、23年度の「その他」残額と24年度の「その他」経費を併せて年代測定費と英文校閲料に使用する。 旅費についても、24年度秋に、当初予定していなかった日本火山学会と日本地質学会において本研究に関連した講演を計画しており、23年度旅費残額はこれらの学会の旅費に使う。 物品費は7万円残額があるが、当初計上していなかったEPMA用スタンダードのメンテナンスに必要な消耗品(2012年4月10日に物品請求したため、実支出額の累計額には表れていない)が約7万かかり、この費用で物品費の残額はほぼなくなった。24年度物品費は、当初の予定通りに、消費量が多い樹脂と融剤、消耗品である篩とガラス器具等の購入に使用する。
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Research Products
(1 results)