2012 Fiscal Year Research-status Report
3個以上のマグマ溜りによる大規模火砕噴火に関する岩石学的研究
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23510220
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
石崎 泰男 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (20272891)
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Keywords | 火山噴火 / マグマ溜り |
Research Abstract |
3つ以上の主・副マグマ溜りから構成される複数マグマ溜りによる大規模火砕噴火の事例である男体火山末期噴火(約1.7万年前)と沼沢火山の沼沢湖噴火(約5千年前)を研究対象とし、24年度には、複数マグマ溜りの形成及び消滅のタイミングと、主マグマ溜まり内部の岩石学的構造の解明を目的とした研究を行い、各噴火のマグマ溜りについて次の成果を得た。 1、男体火山末期噴火では二つの主デイサイト質マグマ溜りが噴火した。ソレアイト系列のデイサイト質主マグマ溜りは、末期噴火後には噴火しておらず、末期噴火後に消滅したと考えられる。一方、カルクアルカリ系列のデイサイト質主マグマ溜りは、その後も結晶化を進行させながら存続し、1.4万年前と1.2万年前に噴火したことが明らかになった。また、ソレアイト系列のデイサイト質主マグマ溜りには、噴火前に2回玄武岩質マグマが注入したことが明らかになった。これらの玄武岩質マグマは、全岩及び鉱物組成が異なり、玄武岩質マグマを供給した副マグマ溜りも複数存在すると考えられる。最初の玄武岩質マグマの注入により、マグマ溜り底部に安山岩質の混合マグマ層が形成され、2回目の玄武岩質マグマの注入が末期噴火開始のトリガーになったと考えられる。 2、沼沢火山の活動初期(約7万年前)から最新の沼沢湖噴火(約5千年前)までの噴出物について全岩組成を分析した結果、噴火時期に対応した3つの組成変化トレンドが検出できた。このことから,約6.5万年間にわたる活動期間に、少なくとも3つの珪長質主マグマ溜りが活動したが明らかである。各噴火期の噴出物にはマグマ混合の証拠が見られることから、珪長質主マグマ溜りの他に、主マグマ溜りに苦鉄質マグマを供給した副マグマ溜りが存在したようである。全岩組成の解析から2種以上の苦鉄質マグマの存在(すなわち、2つ以上の副マグマ溜りの存在)が検出できたのは沼沢湖噴火のみである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
試料の採取、採取試料の全岩主成分及び微量成分の定量、粒度及び構成物組成分析が24年度に完了し、それらのデータをもとに詳細なマグマ成因論的解析を進めている。現在、週1~2のペースでEPMAによる斑晶鉱物及び石基ガラスの組成分析が進められている。男体火山末期噴火前半のソレアイト系列の主・副マグマ溜りと沼沢湖噴火の複数マグマ溜りの物理状態(温度、粘性、圧力等)に関するデータが集積されてきたため、具体的なマグマ溜り像が明らかになりつつある。沼沢湖噴火に先行する噴火期の噴出物についても、鉱物化学分析が順調に進んでおり、沼沢湖噴火に至るまでのマグマ供給系の変遷が明らかになりつつある。特に沼沢火山においては、沼沢湖噴火の噴出物だけではなく、先行する噴火期の噴出物の全岩組成及び鉱物組成分析もほぼ完了に近づいている。約6.5万年間の活動期間の間に、3回珪長質主マグマ溜りが形成されたことが24年度に解明できたことは、大規模火砕噴火に至るまでの地下のマグマ供給系の進化を解明する上で重要な成果である。 以上により、予定していた同位体組成の分析が未実施であるものの、噴火の主体となっている主マグマ溜りの内部構造が順調に解明されてきたこと、複数マグマ溜りの形成のタイミングや寿命が明らかになるなどの重要な成果が得られてきたことから、本研究はおおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
男体火山末期噴火については、噴火前半に噴出したソレアイト系列の主・副マグマ溜りの岩石学的性質がほぼ解明された。一方、噴火後半のカルクアルカリ系列の主・副マグマ溜りについては、全岩組成分析は完了したものの、マグマ溜りの物理状態の手掛かりとなる鉱物・石基ガラス組成分析が未完であるため、25年度前半はこの分析を重点的に進めていく予定である。 また未実施の同位体組成分析を25年度夏季に行い、研究対象とした2つの大規模火砕噴火で噴出した各種マグマの成因と成因関係を明らかにする。特に、沼沢火山では、活動期間に3回珪長質主マグマ溜りが形成されており、それぞれの主マグマ溜りに貯蔵されていた流紋岩~デイサイト質マグマの成因関係を同位体組成分析から明らかにする。 現時点までに論文という形での成果公表ができなかったため、25年度には得られた成果をすみやかに印刷公表する。男体火山末期活動については、複数マグマ溜りの消滅のタイミングに言及した「男体火山の最近17000年間の噴火史」、男体火山末期活動前半に活動したソレアイト系列のデイサイト質主マグマ溜りの内部構造を考察した「構成物組成及び本質物の全岩組成から見た男体今市テフラを形成したプリニー式噴火の推移とマグマ供給系」を「火山」誌に投稿するための準備を進めている。沼沢火山についても、沼沢湖噴火に至るまでのマグマ溜りの形成・消滅史に主眼を置いた論文の執筆に現在取り掛かっている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は若干の繰越金が生じたもののほぼ計画通り予算を執行したが、平成24年度には約70万円を次年度に繰り越すこととなった。このような多額の繰越金が生じたのは、放射性炭素年代測定(測定は外注)のために採取した試料の中に分析に適しないものあり、測定数が予定より少なくなったこと、年度内に論文の投稿ができずに投稿料・英文校閲費を中心に消費が抑えられたためである。この未使用分は平成25年度に繰り越し、以下のような形で使用する.物品費は、当初の計画通り主に室内分析用の消耗品の購入に使用するが、一部のEPMA用標準試料が使用過多により劣化したため、その更新にも費用の一部を充てる。旅費については、成果報告のための学会参加、男体火山での年代測定用試料採取(調査補助者の旅費も含む)、他研究機関での分析のための旅費などに使用する。謝金は、男体火山での試料採取の補助及びEPMA及びXRF分析の実験補助の謝金として使用する予定である。その他の経費については、秋に予定している追加での全岩組成分析の前にガラスビード作成用白金るつぼの改鋳(外注)が必要であり,その他に追加での放射性炭素年代測定(3~4試料)、研究成果を公表論文として科学雑誌に投稿するにあたっての英文校閲料と投稿料(カラー印刷費を含む)などの費用として各約20万円(計約60万円)を用いる。
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Research Products
(5 results)