2011 Fiscal Year Research-status Report
タンパク質SUMO化を標的としたケミカルバイオロジー研究
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23510288
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
伊藤 昭博 独立行政法人理化学研究所, 吉田化学遺伝学研究室, 専任研究員 (40391859)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | SUMO / がん / ケミカルバイオロジー |
Research Abstract |
タンパク質SUMO化は様々な生命現象に関与しているだけでなく、その異常は癌などの疾患の原因になることが示唆されており、タンパク質SUMOを制御する化合物は、SUMO化の細胞内機能の解明に役立つだけでなく、抗がん剤として機能する可能性がある。本研究では、細胞のがん化におけるタンパク質SUMO化の役割を、ケミカルバイオロジー的手法を用いて明らかにすることを目的とし、平成23年度は以下の4点について研究を推進した。1. SUMO E2阻害剤としてのspectomycin B1の同定。過去のスクリーニングによって天然物であるspectomycin B1が、SUMO E2阻害剤であることを示唆する結果を得た。そこでspectomycin B1固定化ビーズを用いてpull downアッセイを行ったところ、E2と直接結合することを見出した。さらに、E2-SUMO中間体形成を選択的に阻害したことから、spectomycin B1はSUMO E2阻害として機能すると結論づけた。加えて、spectomycin B1の生合成に着手した。2. RanBP2 (E3) 阻害剤の同定。Sp100を用いたRanBP2依存的なin vitro SUMO化アッセイ系を構築し、以前のスクリーニングにより得られたRanBP2阻害剤候補化合物について検討したところ、複数の化合物がRanBP2に対して阻害活性を有していることが示唆された。3. 新規SUMO化阻害剤の探索。理化学研究所天然物化合物ライブラリー(NPDepo)および植物抽出物ライブラリーから、あるいはインシリコスクリーニングを実施し、SUMO化阻害活性を有する複数のヒットサンプルを得ることに成功した。4. 脱SUMO化酵素SENP阻害剤の探索。NPDepoが保有する約18,000の化合物ライブラリーからSENP1阻害を探索し、複数のヒット化合物を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、SUMO化を制御する化合物を探索・同定し、それらを用いて特に細胞のがん化におけるタンパク質のSUMO化を明らかにすることである。本研究目的を達成するためには、特異的で強い阻害剤の同定が重要となる。そこで初年度である平成23年度の研究計画では、既に得ているタンパク質SUMO化阻害剤の作用機序の解明および、新たなタンパク質SUMO化および脱SUMO化阻害剤の同定に主に焦点を当てた。現在までに天然物であるspectomycin B1の標的がSUMO E2酵素であることを見出し、さらにspectomycin B1をベースにしたより強力なE2阻害剤の開発に向けて、spectomycin B1の生合成に着手した。SUMO E3であるRanBP2については、評価可能なin vitroアッセイ系を構築し、複数の化合物についてRanBP2阻害活性を有することを確認することが出来た。さらに、理化学研究所が保有する天然物化合物ライブラリー(NPDepo)に新たに加わった約5,000の化合物および植物抽出物ライブラリーからスクリーニングを、SUMO E1およびE2を標的としたインシリコスクリーニングを行い、新規構造を有する複数のSUMO化阻害剤の獲得に成功した。タンパク質脱SUMO酵素SENP1については、NPDepo所有の約1万8千化合物に対して一次スクリーニングが終了し、複数のヒット化合物を得ることが出来た。このようにして、当初予定していた目標については、概ね達成することが出来たと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞のがん化におけるタンパク質SUMO化の役割を、ケミカルバイオロジー的手法を用いて明らかにすることを目的とし、引き続き以下の研究を推進する。1. SUMO E2阻害剤spectomycin B1の抗がん活性。前年度の結果から、spectomycin B1はSUMO E2阻害剤として機能することが明らかとなった。興味深いことに、SUMO E2はエストロゲン依存的な乳がん細胞の増殖に重要なことが示唆されていることから、ホルモン依存的な乳がん細胞の増殖に対するspectomycin B1の効果を検討し、SUMO E2を標的としたホルモン依存的な乳がん細胞治療法の確立を目指す。さらにspectomycin B1をベースにしたより強力なE2阻害剤の開発に向けて、前年度に引き続きspectomycin B1の生合成を行う。2. 新規SUMO化阻害剤の開発。前年度、NPDepoからin situ SUMO化アッセイによって得られた新規構造を有するヒット化合物について、IC50値の算出、標的の同定等を行う。インシリコスクリーニングによって得られたヒット化合物について、化合物の最適化を進め、より強い阻害活性を有する化合物の取得を目指す。SUMO化阻害活性を有する植物抽出物については、活性成分の単離精製を試みる。これら一連の研究により、より強いSUMO化阻害剤の獲得を目指す。3. タンパク質脱SUMO化酵素SENP阻害剤の開発。前年度一次スクリーニングより得られたヒット化合物について、ウエスタンブロット法等を用いた2次評価、IC50値の算出、サブタイプ選択性等を検討し、選択的で強いSENP1阻害剤の獲得を目指す。加えて、SENP2阻害剤探索を実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
直接経費1,300,000円のうち、物品費に1,190,000円、旅費に100,000円、その他に10,000円を使用予定。内訳および使途目的は以下の通り。物品費(1,190,000円):ミクロ天びん(360,990円);mg単位の化合物を測るのに必要。インシリコ選択化合物(400,000円)、抗体類(100,000円)、細胞培養関連器材(50,000円)、その他一般試薬(279,010円)。旅費(100,000円):本課題の成果を国内学会に発表。その他(10,000円):学会参加費等。
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