2011 Fiscal Year Research-status Report
哺乳類精子の真空乾燥及び室温保存法の開発:究極の長期室温保存法を目指して
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23510299
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
多田 昇弘 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50338315)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 精子 / 哺乳類 / マウス / 真空乾燥 / 室温保存 / 長期保存 / 顕微授精(ICSI) / 資源保存 |
Research Abstract |
室温保存したマウス精子は、凍結保存及び凍結乾燥に比べ、液体窒素や低温下で保存する必要がなく、輸送する際も特別な保存容器や温度調節も不要であり、容易に輸送が可能である。そこで、我々は、新規なマウス精子の室温保存法を開発するため、トレハロース(Tr.)、緑茶由来ポリフェノール(エピカテキン:EC)及びアスコルビン酸(Asc.)を含む保存液でマウス精子を乾燥させた後、1週間室温保存した精子の受精能及び胚盤胞への発生能を確認した。また、室温保存精子の形態的な正常性を確認するために、電子顕微鏡を用いた超微形態学的解析、免疫形態学的解析及び精子クロマチンの構造解析を行った。 Tris-EGTAを基本液として、Tr.,EC及びAsc.を種々の濃度で含む4種類の保存液で精子を乾燥・保存した後、これらの保存精子を用いて顕微授精し、受精能を確認したところ、4種類の保存液間では差は認められなかったが、胚盤胞への発生能は、1.0M Tr.,100microM EC及びAsc.を含む保存液で最も良好であった。室温保存した精子の超微形態学的及び免疫形態学的解析では、4種類の保存液の間での微細構造に差は認められず、いずれも精子頭部細胞膜が欠損していることがわかった。一方、精子クロマチンの構造解析(SCSA)では、いずれも精子クロマチンのダメージは少なかった。更に、Tr.+EC+Asc./Tris-EGTAを含む保存液で乾燥後、半年間室温保存した精子を顕微授精し、得られた受精卵を移植したところ、正常な産仔が得られた。これらのことから、精子は、乾燥、室温保存あるいは復水の過程で、精子頭部の細胞膜は破壊されるが、精子クロマチン構造は正常に保持されており、受精能及び発生能も有していることが明らかになった。また、半年間の室温保存でも精子は、受精後、正常な産仔に発生し得ることが初めて示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究では、マウス精子の室温保存に有効な保存液を決定すると共に、保存精子の形態解析を行い、ほぼ正常性を維持していることを明らかにした。また、半年間の室温保存でも、精子は、正常な産仔になることを明らかにした。従って、ほぼ予定通り実施し、結果を出すことができた。なお、おおむね順調に研究を遂行することができたため、使用するマウス及び消耗品の消費を減らすことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、引き続き室温保存精子の障害に関する解析(SYBR14/PI染色、コメットアッセイ)を行うと共に最適な保存容器(カルチャープレート、マイクロチューブ等)の検討を行う。また、精子の乾燥法として常圧下での自然乾燥及び真空乾燥時における乾燥速度を確認した後、これらの方法で乾燥したマウス精子について、室温保存後の受精能及び発生能を確認する。なお、乾燥マウス精子を常圧下及び真空下で室温保存した場合の精子の受精能などに与える影響についても検討する。また、C57BL/6J, BALB/cなどの近交系マウス及び遺伝子改変マウスの精子を用いて、室温保存した後、顕微授精を行い、受精能及び発生能における系統差を明らかにする。更に、1年以上室温保存した精子の受精能及び発生能を確認すると共に移植による産仔作出も試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
解析用キット(SYBR14/PI染色、コメットアッセイ等)、各種保存容器(カルチャープレート、マイクロチュ-ブ、2-Dチューブ等)などの消耗品を購入する費用が必要である。また、実験が増加するため、各種の培養液、保存液関連の試薬類(トレハロース、アスコルビン酸、カテキン、Tris-EGTA等)及びマウス(B6D2F1, C57BL/6J, BALB/c等)等の購入が増加する。これらの費用の増加分は、今年度の余剰研究費を充てる予定である。
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