2012 Fiscal Year Research-status Report
哺乳類精子の真空乾燥及び室温保存法の開発:究極の長期室温保存法を目指して
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23510299
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
多田 昇弘 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50338315)
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Keywords | 精子 / 哺乳類 / マウス / 真空乾燥 / 室温保存 / 長期保存 / 顕微授精(ICSI) / 資源保存 |
Research Abstract |
マウス精子を室温保存できれば、凍結保存に比べ、保存スペースが少なくて済み、液体窒素を補充する必要もない。また、停電時も保存可能であり、輸送も容易である。本研究では、マウス精子の最適な室温保存法を開発するために、トレハロース(Tr)、緑茶由来ポリフェノール(エピカテキン:EC)及びアスコルビン酸(Asc)を含むTris-EGTA緩衝液(TE)を保存液として種々の条件下でマウス精子の室温保存を行った。まず、1.5mlマイクロチューブ内及びスライドグラス上にて真空乾燥させた後、真空のデシケーター内にて1週間室温保存した。また、一部のマイクロチューブは、1年以上室温保存した。保存後、復水した精子は、顕微授精(ICSI)にて未受精卵に顕微注入された後、受精能及び胚盤胞までの発生能を確認した。また、1年以上室温保存した精子について、ICSI後に得られた受精卵を卵管移植し、産仔の作出を試みた。 マイクロチューブで保存した場合の胚盤胞への発生率は、1M Tr+100μM EC+Asc/TE, 1M Tr/TE, 100μM EC+Asc/TE及びTEで各々30%, 34%, 15%及び10%であった。また、スライドグラス上で保存した場合では、各々26%, 21%, 0.5%及び0%であった。これらの結果より、Trの室温保存における有効性が示された。なお、ICSI後の受精率及び2-細胞期への発生率は、各保存液及び保存容器による差は認められなかったことから、精子頭部に存在する卵子活性化因子は、各保存液での乾燥・保存でも変性することなく、精子頭部に存在することが示唆された。一方、1M Tr+EC+Asc/TE液にてマイクロチューブ内で長期室温保存(446日)した精子で、ICSI後、移植したところ正常な産仔が得られた。このことから、Trを含む保存液での長期室温保存の可能性が初めて示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウス精子の最適な室温保存法を開発するために、種々の保存液についてマイクロチューブ及びスライドグラスを用いて真空乾燥させた精子で、顕微授精(ICSI)を行い、受精能及び発生能を確認した。その結果、トレハロースを含む保存液がマウス精子の室温保存に有効であることを明らかにすることができた。また、マイクロチューブでの室温保存が、スライドグラスでの保存より有効であることもわかった。更に、トレハロースを含む保存液にてマイクロチューブ内で1年以上(446日)室温保存したマウス精子を用いて、ICSI後、正常な産仔が得られたことは、画期的であり、マウス精子の真空乾燥後の室温保存では、成功例がなく、世界最長である。このような状況から、研究は概ね順調に進んでいるが、平成24年度に実施予定であった、各種の近交系マウス精子の室温保存については、進捗がやや遅れており、ICSI後の受精能及び発生能を比較検討しているが、現在、実施中であり、得られたデータを集計中である。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、各種近交系マウスの精子について室温保存を行い、ICSIにより保存精子の受精能及び発生能における系統差を確認する。また、室温保存精子を用いてICSIした場合、胚盤胞への発生能が低下する原因を明らかにするために、保存精子の酸化ストレスによるDNA損傷の程度を確認する。測定方法としては、以前、コメットアッセイを行ったが、個々の精子のDNA損傷が確認できなかったので、8-ヒドロキシデオグアノシンを用いた測定を行い、間接的に保存精子の活性酸素のレベルを評価する。また、合わせて、各種保存液の抗酸化作用を明らかにするために、過酸化脂質を測定する。更に、保存容器の検討を進め、マイクロチューブのみならず、2-Dチューブを用いた室温保存の有効性を明らかにする。このような検討により、有効な室温保存法を見出した後、他の動物種(ラット、ブタ)の精子で同法による室温保存を試みると共に、マウス精子を用いて、更に、長期間の室温保存(2年以上)を行った後、産仔作出を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
マウス、ラット等の動物代及びマイクロチューブ、2-Dチューブ(含2-Dチューブ用ラック)、チップ、培養液、緩衝液(Tris-EGTA)、トレハロース、カテキン、アスコルビン酸、α-ヘモリジン、顕微授精(ICSI)で用いるガラス管、オイルなどの消耗品を購入する。また、抗酸化の測定(8-ヒドロキシデオグアノシン、過酸化脂質)は、外部委託により実施する。 得られた研究成果は、日本実験動物学会及び日本繁殖生物学会に発表するが、その旅費に充てる。
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