2011 Fiscal Year Research-status Report
都市に生きるサマの民族誌――生業と信仰をめぐる選択の過程
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23510302
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
青山 和佳 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (90334218)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 東南アジア / フィリピン / サマ・バジャウ / 都市 / 経済と文化 |
Research Abstract |
初年度である平成23年度は、上記の概念的および分析的枠組を検討し、研究の方向性及びその独自性を確認するため、専門家から助言を受け、文献サーベイを行った。具体的には、1960年代~70年代にサマについて先駆的な人類学的研究を行った2人の研究者、NimmoとSatherの文献を読み直し、60年代にサマを含むスールー海域の民族集団について研究をリードしたフィリピンのアテネオ・デ・マニラ大学の社会学・人類学研究者と議論した。その結果、本研究の意義として、都市貧困層の生活について経済的側面と文化的側面の相互作用を見るという、いわば経済学と人類学を架橋する理論的貢献のほかに、海域世界を離脱したサマが都市において他民族集団に吸収されることなくサブ文化を形成している点を初めて実証する点で東南アジアの海民研究に対する貢献が期待できること、また、フィリピン地域研究としては、天然資源や文化資源が可視化でき、法律的保護や文化復興運動の対象となっているような「先住民」に対し、保護すべき、あるいは市場化可能な資源がないと外部者にみなされているがゆえに、たんに「貧困者」として扱われているような、見えにくい、周縁化されたマイノリティの生活の文化の側面に光をあてることで、フィリピン社会に対する理解を深めることが期待できると確認された。以上の結果をまとめ、次年度以降の研究につなげるため、調査地のサマの生業基盤が多様化しており、従来の村落研究のように均一集団として社会組織を考えるのとは別の方向の検討が必要であることを示すために一次資料分析による英語論文を1本まとめ(次年度刊行予定)、海外での発表準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記した通り、初年度(平成23年度)において、マニラでAteneo de Manila UniversityのDr. Wilfred F. Arceを訪問し、その助言のもとで文献調査を行い、サマ研究の最新の動向を把握した。また、この際、同大学のフィリピン文化研究所でほかのフィリピン研究者複数とも議論し、研究のもつ独自性を確認した。日本国内でも、東洋大学の長津一史准教授と学会発表及び研究会発表を共に行い、さらに京都大学東南アジア研究所の清水展教授からも研究指導を受け、研究の方向性の深化を図った。これらに基づき、年度内には英語論文1本を書き上げ、学術誌『白山人類学』に投稿、査読を通過した(印刷・公刊は来年度予定)。一方、文献サーベイに時間をかけた分、マクロデータの収集が遅れたが、これは交付期間を通じて挽回していくことが十分可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請書に記した通り、2年目は、過去の調査結果に基づいて調査地を代表する5つの家族の現地調査を行う。調査内容は、初年度の文献サーベイの結果に基づいて、若干修正し、具体的には、これらの家族の社会関係と資源獲得及び分配をみながら、都市における生活の再編を、生業、宗教、政治の3場面において、(1)過去に収集したデータの再確認、(2)最新のデータの捕捉を行う。交付申請書では5つの家族について同時並行的に調査することを想定していたが、データセットの特殊性から、1家族ごとに行うこととし、本年度は1~2家族を目標とする。併せてマクロデータの収集に努めたい。国内外の専門家との議論を本年度も行い、英語での執筆を図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
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