2012 Fiscal Year Research-status Report
都市に生きるサマの民族誌――生業と信仰をめぐる選択の過程
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23510302
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
青山 和佳 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (90334218)
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Keywords | 東南アジア / フィリピン / サマ・バジャウ / 都市 |
Research Abstract |
本研究では、フィリピンのミンダナオ島ダバオ市の文化的少数者であるサマ・バジャウ社会を事例に、貧困者は画一的に捉えられるべき救済対象者ではなく、価値観や文化に従った主体的選択により行動しているという基本仮説を立て、客観的指標、参与観察及びライフ・ストーリーによる民族誌の作成で検証する。これにより、経済生活と価値観の相互関係を動態的に検討するための方法論及びそれを具体的に示すデータセットを提供する。 2年目の平成24年度は、過去の調査結果に基づいて調査地を代表する5つの家族の社会関係と資源獲得及び分配をみながら、都市における生活の再編を、生業、宗教、政治の3場面において、(1)過去に収集したデータの再確認、(2)最新のデータの捕捉を開始した。交付申請書では5つの家族について同時並行的に調査することを想定していたが、データセットの特殊性から、昨年度末の時点で1家族ごとに行う方法に変更した。ただし、調査地住み込みで調査しているため、ほかの家族についても随時、情報を収集中である。 併せてマクロデータの収集を開始し、主にフィリピンの国家統計局(National Statistic Office)で人口センサスや国土地理院(National Mapping and Resource Information Authority)で、サマ語人口の動態や析出地及び居住地の地理情報に関わる資料を収集した。 研究成果は、"Social Inequality among Sama-Bajau Migrants in Urban Settlements"という題目の英語論文で公刊した。2012年8月13日にはフィリピンのアテネオ・デ・マニラ大学フィリピン文化研究所で公開講義を行った。その折にスルー研究先駆者Gerry Lixhon先生の出席を得たことで、2013年度米国での報告準備につながった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの達成度はおおむね順調に進展している。しかし交付申請書に付した内容に照らすと、平成24年度の目標と平成25年度の目標がややオーバーラップした形で進行している。 平成24年度の目標で達成できなかったことは、1960年代にスールー諸島の海サマ人の陸上生活への移行について社会組織に注目しながら先駆的研究を行ったH. アルロ・ニモ博士をサンフランシスコに訪ね、調査について助言を受けることである。これができなかったのは、研究代表者本人が2013年8月末に入院手術をしたことと、同時にニモ博士を紹介してくださったアテネオ・デ・マニラ大学のリクソン先生が9月に急逝されたためである。このため、ニモ博士の訪問は平成25年の6月末~7月初旬の日程で再調整した。なお、ニモ博士には会えていないものの、ニモ博士を指導したリクソン先生より思いがけずご指導いただけたことは交付書にも記載していない、予想外の幸運であったといえよう。 逆に、上記による予定の変更を埋め合わせるために、平成25年度の目標でありながら、平成24年度に開始することとなったのは、家族史調査の実施である。具体的には3月に2週間ほどの住み込み調査を実施した。この折に、5つの家族のうち、所得水準の最も高いグループにとくに過去の調査のフィードバックや最新情報のアップデートを図った。同時に、5家族全てについて、口承文芸(創成神話/紀元神話)があるかどうかききとり調査を行った。 このように、予期せぬ出来事から当初の予定どおり目標を必ずしも達成できたわけではないが、全体の研究計画からみればおおむね順調に進展しているといえる。また、ニモ博士への訪問が次年度となったことは、ある程度のフィールドワークを行った段階での中間報告となることを意味し、むしろ好ましいと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目の目標は、おおきくわけてふたつある。 ひとつは、現地調査、すなわち、ひきつづき家族史調査の実施することである。具体的には2つの作業を行う。(1)調査地で特定化した5家族に対し、ライフ・ストーリーを収集する。1家族につき、親、子、孫の3世代の6名、延べ30名を予定している。1999年に収集したライフ・ストーリーを改めてフィードバックし、出来る限り当事者の語りを引き出す。当該家族や個人にとっての重大な出来事を特定化する。(2)個々人間、家族と家族の間でライフ・ヒストリーのクロス照合を行い、共通する「重要な出来事」を特定化する。 もうひとつは、とくに国外の研究者に研究成果を英語で伝え、議論し、本研究の概念的及び理論的分析枠組を鍛えることである。具体的には2つのプランがある。(1)ひきつづき、アテネオ・デ・マニラ大学フィリピン文化研究所で公開講義を少なくとも1回行う、(2)米国にHarry Nimmo博士とClifford Sather博士を訪問し、研究についての助言をいただく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
70529円は平成25年4月末支払分である。 交付申請書通り、 直接経費50万円につき、物品費5万円、旅費35万円、人件費・謝金10万円での使用を検討している。旅費は主に、サマに関する先行研究者2名を米国に訪問し、研究報告及び助言を受けるため、及び、フィリピンでの報告及び現地調査に使う予定である。
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