2011 Fiscal Year Research-status Report
ミクロネシア信託統治の始原期に関する研究―委任統治からの移行と植民地社会の再編
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23510330
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
今泉 裕美子 法政大学, 国際文化学部, 教授 (30266275)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | ミクロネシア / 植民地社会 / 信託統治 / 委任統治 / 復興 |
Research Abstract |
(1)国内の史料館における史・資料収集…外務省、軍関係の史・資料をインターネットによるデジタル史料を含めて調査し、手元にある史・資料との比較、分析を進めた。また古書店や個人を通じて、貴重資料を購入もしくは複写した。(2)聴取り調査…沖縄と本土で実施した。沖縄では南洋群島帰還者会の沖縄及び北マリアナ諸島での慰霊・交流行事、総会、役員会、サイパン会総会、サイパン高等女学校・パラオ高等女学校・サイパン実業、パラオ中学の同窓生を中心に取材した。本土では、南洋興発(株)関係者による南興会、サイパン高等女学校同窓会と個人を中心に取材した。(3)海外調査…パラオ諸島とヤップ島で実施を予定したが、日程と費用から後者のみとし、ヤップ州の歴史保存課スタッフ、および地元ガイドさんの協力を得て、歴史保存課収集の史・資料や研究状況を確認、報告者の史・資料及び情報を提供した。またヤップ人、あるいは戦前期ヤップに居住し戦後再移住した日本人から聴取りを行い、当時の地図も作成した。報告者は日本の南洋群島研究の第一人者である矢内原忠雄の研究の方法、資料を研究してきたが、同氏がヤップ島に重点を置いたことに鑑み、1930年代前半に行われた同氏の収集資料や分析を再検討して現地調査に臨み、その成果を論文化した。ヤップからの帰路では、グアム島でチャモロの戦時をサイパン島との関連で調査した。 以上の調査に基づき、戦時および米軍占領下の社会、諸民族集団の生活や相互関係、動員、移動、帰還について、史・資料を整理、分析し、聴取りから史料の諸事実を確認すると同時に、史料にない貴重な情報を得た。以上の成果は、日本における日本の植民地研究者、文化人類学者との研究交流を通じて検討した。実支出では、在沖縄サイパン実業同窓生が本研究に協力し一同に会する機会を得たこと、及びヤップ・グアム調査費用が予定より嵩んだこと等から、支出配分で旅費、物品費を増額した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
史・資料調査では、そもそも本研究テーマに関する先行研究やそこに使用された特に公文書は僅少であることから困難は予想されていたが、今年度の作業を通じて、史料の偏在の特徴もさらに明らかになった。従って新史料の発掘には予想以上に時間を費やさざるを得なかった。加えて、聴き取り調査では上記史・資料調査に基づく新情報の収集、あるいは報告者の既存の聴取りを再分析することで、史・資料の再評価を行うという往復作業が意味をもち、ここにも予想以上に時間を必要としている。しかし、以上のような作業があって、新史・資料、新事実そしてそれらの分析が可能となった分、順調な進展と評価しえるであろう。 ただし、次の点から当初の予定通りには必ずしも進展させえなかった点もあった。それは東北大震災の影響から例年より科研費採択の決定が遅れたことに加え、大学内外の業務や聴き取り調査の遂行にも様々な影響が生じ、計画を再調整、再再調整することが例年より多かったことによる。よって、本年度分の研究は全て年度内に実施し、支払い申請は完了しえたが、上記の理由から年度末ぎりぎりに支出配分の再調整を行わざるをえなかったものがあり、支払いが次年度となった支出が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)史・資料の偏在の確認と史・資料調査の方針旧南洋群島は東西に樺太から台湾までの距離が包含される広がりをもち、200余りの島嶼が散在する地域で、日本統治時代には6行政区に区分された。報告者は日本統治時代の史・資料発掘と分析について先駆的な業績をあげてきたが、特に米軍占領期、そして信託統治への移行期については、今年度の調査を通じて日本側の公文書はさらに僅少かつ偏在していることを確認した。一方、米軍側の占領期史料も戦略上有利な島嶼、収容所が設けられたサイパン島、テニアン島に関しては多いが、それ以外の島嶼については極端に少ない。以上の確認をもとに、史・資料の所在を分析し、調査を進める。(2)聴き取り調査の重視…個人の手記でも、収容所があったサイパン島、テニアン島以外の島々については、米軍占領下の生活や引揚げについての記録は僅少である。一方、米国では近年、戦時期ミクロネシアのオーラルヒストリーに関する主に文化人類学の労作が刊行されている。しかし筆者が収集したような公文書の利用はなく、政策分析や現地社会と政策との関係の把握が弱い。但し近年の文化人類学研究は、米軍占領や信託統治に関与した文化人類学の検証を進めており、報告者はこれをもとに自らの収集史・資料や聴取りを踏まえ、米軍の調査や報告を再検討し、現在のオーラルヒストリー研究も検証する。聴き取り調査では、史・資料を裏づける、或いはこれらに記載されていない貴重な情報を多数確認したため、聴取り調査は重点的に継続したい。(3)ミクロネシアに現れた冷戦初期の日米関係の分析…戦時から大戦直後の日米関係を、米軍のミクロネシア占領政策、これへの日本政府や軍の対応から分析したものはない。日本の南洋群島統治の終焉は、米国のアジア及び太平洋島嶼政策の下での日本の全植民地統治の終焉とどう関係したか。南洋群島をめぐる諸民族集団の帰還、再移住政策にも着目して分析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「現在までの達成度」に記載したように、収支状況報告書上は研究費の一部執行が次年度に繰り越されているが、実際には年度内に研究は終了し支払い申請も終えているため、執行が次年度になっただけで、申請しうる予算残額は存在しない(1)国内の史料館における史・資料収集…外務省外交史料館、国立公文書館、防衛省を中心に、戦時南洋群島に関係する外務省、軍関係の史・資料を引き続き調査する。個人の所蔵史・資料があれば複写する。古書店などから関係史・資料を購入する。(2)聴き取り調査…沖縄及び本土の南洋群島帰還者組織、南洋群島関係者から戦時期、米軍占領下に関する取材を実施する。海外調査では、沖縄の南洋群島帰還者会による「慰霊・交流の旅」(北マリアナ諸島)に同行取材(報告者本年度で連続14年目の継続取材となる)する。国内外で、戦時動員と米軍占領下でのミクロネシアの人びとの戦時体制からの解放、米軍占領下での政治、経済、社会のありよう、信託統治への移行期を中心に、信託統治初期も視野にいれて聴き取り調査を実施する。(3)研究交流…今年度はミクロネシア連邦ポーンペイ州で調査し、アーキヴィスト、地元研究者との研究交流を実施する。6月に開催予定の第一回マリアナ諸島歴史会議に報告者として参加し、マリアナ諸島の諸分野に関する研究者、アーキヴィストと交流を深める。本年度の調査と分析について、研究報告を植民地研究者、近現代史関係研究者などとの研究交流、学会にて行い、論文化に努める。上記調査・研究のためにPC及び関連機器、消耗品を購入する。
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Research Products
(2 results)