2013 Fiscal Year Research-status Report
ミクロネシア信託統治の始原期に関する研究―委任統治からの移行と植民地社会の再編
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23510330
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
今泉 裕美子 法政大学, 国際文化学部, 教授 (30266275)
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Keywords | ミクロネシア / パラオ開拓 / 南洋群島 / 信託統治 / 委任統治 / 引揚げ / 太平洋戦争 / 南洋拓殖㈱ |
Research Abstract |
国内における史・資料収集は、引き続き戦時及び日本敗戦直後の南洋群島に関係する政府の史・資料を調査し、すでにアメリカで入手した南洋庁史料、米軍史料と比較し、分析を進めた。古書店から地図や回顧録など貴重資料を購入、北海道開拓者のパラオ入植者及び、愛知県からのサイパン渡航者の個人所蔵資料を複写した。 聴取りは沖縄と本土で次のように実施した。沖縄では南洋群島帰還者会、テニアン会に参加して本研究課題に関係するインフォマントを探し、取材したほか、南洋群島で中等教育受けた世代、すなわちサイパン高等女学校、パラオ高等女学校、サイパン実業、パラオ中学の同窓生を中心に取材した。本土では南洋興発㈱関係者による南興会会員の聴取りをを行った。また北海道のパラオ入植者による親睦会に参加し、パラオのバベルダオブ島、アンガウル島の戦時及び米軍占領下の実態、特に南洋拓殖㈱の経営、戦時のフィリピン経由の引揚げについて取材した。愛知県からのサイパンに渡航し、幼児教育に携わった女性から、戦時期の子供の様子を取材した。 海外における史・資料収集は北マリアナ諸島サイパン島、テニアン島、パラオ共和国コロール島、ペリリュー島、バベルダオブ島のフィールドワーク、パラオ博物館、ペリリュー戦争史料館で調査を行い、スタッフと研究や史料について情報交換をした。パラオでは父親が日本人、母親がパラオ人でパラオ中学に在籍、戦後日本に一端引き揚げてパラオに帰還した男性より、日本人、パラオ人双方の視点、及び中学生という立場から証言を得た。 以上の調査から、本年度は民間人について情報が少ないパラオの戦時について、日本人と非日本人の有り様の違い、軍との関係、米軍による占領政策について史料や証言を得たことが大きな成果であった。以上は論文化を目的に、移民研究者、植民地研究者との研究交流を通じて検討を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度実施しえなかった、海外、国内調査を実施し成果をあげることができた点では、昨年度の達成度「やや遅れている」から挽回しえた。ただし、昨年の本欄でも指摘したが、本研究課題に関する史・資料については、特に日本側の史・資料が発掘されてこなかったため、それに時間をかけざるをえないこと、また本研究課題に関する聴き取りや手記も、従来公表されているものでは不十分であり、証言者の高齢化からそれらを早急に進める必要性があること、などから本研究申請当初の計画からやや遅れる側面もある。しかしそれだけに、本研究の意義を明らかにしえたこと、また研究計画を随時修正しながら、着実に進めている点で「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の本項目で記載したことであるが、研究期間4年間のうち昨年度までの2年間の研究から次のことが判明し、当初の研究計画に調整が必要となったことが、平成25、26年度の研究推進方策にも影響を与えている。具体的に述べれば、日本統治下ミクロネシアの戦時、とりわけ米軍占領下について、日本政府、南洋庁の政策に関する文書、兵士、民間人の実態に関する史・資料が、予想以上に見つかりにくいことである。ミクロネシア住民についてはさらに情報、史料が少ない。当該時期の先行研究には、アメリカの信託統治政策立案に参加した文化人類学者を中心とする研究や調査書があり、特にミクロネシア住民に関する情報が豊富であるが、個々の事例の裏付け、なかでも日米の政策との関係、聴き取った内容や引用されている史・資料批判が必ずしも十分に行われていないという問題がある。したがって、上記のような検討を加えつつ、アメリカ側の情報を分析し、なおかつ日本側の史・資料の収集を継続する。また既存の研究では、日本政府の戦時南洋群島政策の分析、それが米軍占領下でどう変化したのか否か、の検討が行われておらず、本研究ではその分析を進める。平成25年度は、パラオで史料館の学芸員と情報交換をした結果、本研究課題の独自性と重要性、また報告者が発掘してきた史・資料が貴重であることを再度確認できた。よって、今後もさらに資・史料調査を続けながら、海外、特にアメリカの先行研究の整理を進め、報告者が蓄積してきた戦前の南洋群島統治に関する分析を活用しながら、本研究課題の時期、対象の分析視点と方法を精緻化し、発掘しえた史料から分析しうることを公表する。また、本研究の最終年度にあたるため、今後の研究課題を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度末に沖縄調査を計画しそこで予算を執行する予定であったが、家族の事情から沖縄調査を断念せざるを得なかったことによる。 本報告書11「現在までの達成度」に記載したように、史・資料が予想以上に所在が明らかではなく、その発掘に時間をかけざるを得ないこと、またインフォマンとの高齢化から聴き取りを可能な限り急いで、より多く行う必要があることから、これら史・資料調査および収集に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)