2011 Fiscal Year Research-status Report
日本的美意識の哲学的基礎づけ―侘び・寂び・幽玄を中心に―
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23520007
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 透 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (60222014)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 哲学 / 美意識 / 侘び / 寂び / 幽玄 |
Research Abstract |
平成23年度の研究実施計画は、美の認識一般の成立に関する考察を再点検しつつ、「侘び」概念の考察を深め、かつ「寂び」概念の分析に着手し、それが一種の美として認識される根拠を哲学的に検討することにあった。 しかしながら、このように予定された研究実施計画のうち、平成23年度に実際に遂行できたものは、残念ながら僅かなものにとどまった(その理由は次項目に記載する)。 今年度の成果と呼び得るものがあるとすれば、それはこれまで筆者が行なってきた美の概念の一般的分析や「侘び」概念の分析について、さらに検討すべき課題の幾つかを明確にすることができたということである。そこには以下のものが含まれる。(1)美の概念が実利的関心の停止によって生じるということを筆者は「エポケー機能」と呼んだが、ハイデガーの「道具的存在者」と「事物的存在者」の対比には「美的存在者」の次元が欠けており、これら三者の関係をどう考えるべきかは、さらに考察される必要があるということ。(2)通常、過去の出来事が美化されやすかったり、イマジネーションや夢が美的に捉えられたりすることも、「エポケー機能」から説明可能であるように思われるが、その機序を具体的に解明してみること。(3)「侘び」概念に関しては、「侘び」そのものに価値が置かれる場合と、美としての「侘び」に価値が置かれる場合の双方があり、それらの相違をもう少し明確にしつつ、美としての「侘び」を浮き彫りにする必要があること。これらは本研究全体の基礎に関わる部分であり、こうした問題点を析出できたことは、今後研究全体をより堅固なものにするために有意義であったと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成23年3月11日に発生した東日本大震災により、筆者の勤務する大学が多大な被害を受け、筆者の研究室の原状復帰にも多くの日数と労力を必要とした。また大学の講義も一カ月遅れで開始されるなど、通年とはまったく異なる状況の中で、通常の講義等の進行にも気を使いつつ、科学研究費による研究を遂行することには大きな物理的、精神的な障害があった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に予定しつつも実施できなかった出張等をすみやかに行いつつ、23年度の研究計画と24年度の研究計画を合わせて実施する。具体的には美としての「寂び」概念の分析を行なうとともに、「幽玄」概念の分析にも着手し、平成25年度に研究全体を取りまとめることができる地点にまで最大限研究を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は研究当初に計画されていた備品(パソコン等)の購入、茶道美術館への出張等が、震災の影響で研究が著しく遅延し、遂行されなかったことによるものであり、今後研究の遅れを取り戻すためにも、平成24年度請求額と合わせてすみやかに使用する予定である。
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