2011 Fiscal Year Research-status Report
ハンス・ヨナスの哲学の統合的かつ重層的な理解の構築
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23520044
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
品川 哲彦 関西大学, 文学部, 教授 (90226134)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 倫理学 / 哲学 / 宗教学 / 未来世代 / 責任 |
Research Abstract |
本研究は平成20-23年度基盤研究(C)「ヨナス哲学の展開と統合――グノーシス、生命、未来倫理、神」の課題を再構築して進めている。ヨナス哲学は、(1)グノーシス思想研究、(2)生命の哲学、(3)生命倫理学と環境倫理学の分野での提言、(4)ホロコースト以後の神学的考察に分節される。上に記した研究では、(4)の思想を訳出し、『アウシュヴィッツ以後の神』(法政大学出版局、2009年)と題して公刊し、その中に(1)から(4)にいたる流れを示す論考を収録した。本研究はこの成果を踏まえて、(1)-(4)の各節を詳しく研究し、さらなる肉付けをめざしている。 平成23年度は、とくに(1)に焦点をあて、ヨナスの最初の著書Augustinus und das paulinische Freiheitsproblemの解釈を、Mueller,Bongart, Wernerなどの先行研究を参照しつつ進めたが、その成果を論文にするまでには至らなかった。その事情は下欄に記す。 だが、その他の点では研究の成果を提示できた。(4)に焦点をあててその中で(1)-(3)の展開を遡って跡づける論考をドイツ語訳し("Der nicht omnipotente Gott und die menschliche Verantwortung")ベルリン自由大学ハンス・ヨナス・ツェントルム所長Böhler教授の退官記念論文集に寄稿した(現在、ゲラの段階である)。また、ヨナスと和辻の類縁性を主張するLaFleurの見解を検討し、彼我の違いを指摘した"Why and how has Jonas been ‘welcomed‘ in Japan?"をJournal of Philosophy of Lifeに発表した。「責任」(『生命倫理の基本概念』)も力の関数としての責任というヨナスの思想に依拠した論考である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」に記したように、平成23年度はヨナスの哲学的経歴の出発点にあたる時期に焦点をあてて研究を進めた。この時期のヨナスは師ハイデガーの実存哲学の概念によってパウロの回心やグノーシス思想の解明を試み、とくに後者の研究によって宗教史家として認められた時期である。研究代表者のヨナス研究は上記の分節でいえば、ヨナスが独自の倫理学・哲学を提示した(3) (2)から出発し、ついで、研究代表者の専門領域が哲学・倫理学であってユダヤ思想ではないことから最も難関と予想した(4)に進み、そこから遡及的に(1)(2)(3)の展開を跡づけるというものだった。「研究実績の概要」に記したように、その成果の一端を訳書の解説に提示し、海外の研究者にあててドイツ語論文による公表を進めてきた。 そのなかで(1)においてヨナスが指摘したハイデガーとグノーシス思想が共有する自然からの人間の疎外は、生命哲学以後のヨナスにとって究極的には克服されるべき課題として位置づけたが、(1)それ自体の究明には、パウロの『ローマ人への手紙』についてのアウグスティヌスによるキリスト教の正統的な神学の伝統における解釈、ハイデガーの実存概念に影響を受けたブルトマンの聖書学における解釈、また、グノーシス思想についてもその研究史にある程度踏み込む考察が必要であり、研究代表者がもともと神学・宗教学の研究者でないために、当初の予定以上に二次文献の渉猟に手間取っている次第である。 これに加えて、2008年から逐次配本が予定されていたヨナスの全集が、2012年4月時点でもまだ1巻しか出ていないという進捗状況で、これも当初の研究計画からすると、進行に影響する予想外の要因である。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」に記した事情にあるが、しかし、(1)の時期のヨナスに関する研究は、当初に計画していた本研究の研究期間の初期に(1)に集中して研究を進めるやり方ではなく、本研究に認められている研究期間のなかでいっそう長期的な取り組みを続けるやり方に転換し、また、当初構想していたヨナス自身のテクストの内在的解釈をめざす方法だけではなく、先行研究を渉猟しつつ解釈作業を進めていく方向に転換して進めていく予定である。 しかし、その他の時期に関連しては、2012年度中にいくつかの成果発表を予定している。すなわち、5月17-18日に東京で開催される国際会議Uehiro Carnegie Oxford Conference 2012, Life: Its Nature, Value and Meaning -- No Turning Back? Ethics for the Future of Lifeには、招待講演者のひとりとして"The status of human being: Subject manipulating nature, manipulated object, and human dignity"と題して発表する。これは上記の(2)(3)におけるヨナスに関するものである。また、9月15-16日に東北大学で開催されるハイデガー・フォーラムでは、招待講演者のひとりとして「技術、責任、人間」と題して発表する。これは上記の(3)および、(1)の時期におけるハイデガーからの影響とハイデガーからの影響を脱却したのちのヨナスのハイデガーとの違いを論じるものである。その他、(1)の時期におけるヨナスの著作については、ひきつづき、その解釈を論文にする努力を進めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
直接経費700,000円のうち、文献図書資料費に250,000円(「ハンス・ヨナス関係図書」20冊×@5=100,000円、「グノーシス思想関係図書」10冊×@5=50,000円、「ユダヤ教・キリスト教関係図書」10冊×@5=50,000円、「哲学・倫理学関係図書」10冊×@5=50,000円)を計上する。ベルリン(ベルリン自由大学)、ケルン(ケルン市立中央図書館Germania Judaica(ユダヤ関係図書)、ケルン大学)を中心としてドイツへの出張のための旅費として420,000円を計上する。校閲料(外国語論文のネイティヴ・チェック)に30,000円を計上する。
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Research Products
(4 results)
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[Presentation] ケアと正義2012
Author(s)
品川哲彦
Organizer
Handai Metaphysica(招待講演)
Place of Presentation
大阪大学
Year and Date
2012年2月2日
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