2012 Fiscal Year Research-status Report
ハンス・ヨナスの哲学の統合的かつ重層的な理解の構築
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23520044
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
品川 哲彦 関西大学, 文学部, 教授 (90226134)
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Keywords | 倫理学 / 哲学 / 宗教学 / 未来世代 / 責任 |
Research Abstract |
5月に”Life: Its Nature, Value and Meaning; No Turning Back? Ethics for the Future of Life”を主題とする国際会議Uehiro Carnegie Oxford Conference 2012(5月17-18日、東京:国際文化会館)の招待を受けて、"What is the Status of the Human Being?: Manipulating Subject, Manipulated Object, and Human Dignity"と題して口頭発表を行った。人間の生命に操作的に介入する技術が進歩するなかで、その介入の是非をその身体を所有する個人に委ねる潮流に対して、個人の判断を無媒介に尊重するその唯名論を批判し、個人の尊重は個々人に共通する普遍的な根拠によって初めて成立することを、ヨナスの責任原理とハーバマスの類倫理を援用して指摘した。この発表をもとにした論文はオックスフォード大学哲学部のOxford Uehiro Centre for Practical Ethicsから公表される予定である。 9月には、第7回ハイデガー・フォーラム(9月15-16日、東北大学)において招待講演「技術、責任、人間」を行った。その内容は、ハイデガーの強い影響のもとにグノーシス思想の実存哲学的解釈から出発したヨナスがそれと対峙する生命哲学に転じた経緯を略述しながら、可死的な存在者である人間同胞への責任を説くヨナスの立場から、存在論に定位するハイデガーの技術論を根本的に批判した。この発表をもとにした論文は『ハイデガー・フォーラム』第7号(2013年9月刊行予定)に掲載される予定である。 以上、2012年度は、現代の科学技術に対してヨナスの倫理理論からいかなることがいえるかというテーマに取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」の欄に記した業績は2011年度実施状況報告書の「今後の研究の推進方策」の計画通りに達成できたものであるが、遺憾ながら全体としてみれば当初の計画よりも進捗が遅れている。というのも、ヨナスの思想は、(1)ローマ書とグノーシス思想の実存哲学的解釈、(2)生命の哲学、(3)生命倫理学と環境倫理学の分野での提言、(4)ホロコースト以後の神学的考察に分節され、当初の計画ではまず(1)の時期に焦点をあてる予定だった。しかし、予想されたことではあったが、哲学・倫理学の研究者である研究代表者にとって神学・宗教学の知識の深化に手間取っている。したがって、「研究実績の概要」に記したように、2012年度はむしろ(招待講演という外的制約に乗る仕方で)(3)の時期に焦点をあてた研究について成果を出す迂回策をとった。 とはいえ、(1)の時期に対する進捗がまったくなかったわけではない。ヨナスがハイデガーとともに師とし、(1)の時期の研究についてはハイデガー以上に実質的な師としたブルトマンのローマ書に関する論文を参照し、かつまた、ヨナスの(あまりこれまで主たる著作のなかに数え上げられることのなかった)Philosophical Essays所収の(1)の時期に関係する諸論文の読解を進めることで、(1)の時期に焦点をあてた研究を進める準備を進めている。直接にヨナスに関わる研究成果ではないが、ローマ書に示唆されたひとりひとりの人間のなかに見出されるその個人を超えた超越的な要素については論文「他者の人間性への尊敬――安彦一恵氏の問いかけに応えて」のなかに論じることができた。 以上に加えて、2008年度から逐次配本が予定されていたヨナスの全集が、2012年度もただ1巻だけ、それ以前と合わせてもなお2巻しか刊行されていないという事情も本研究の計画の進行にとって予想外の要素である。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」に記した事情にあるが、しかし、(1)の時期のヨナスに関する研究は、当初予定していた集中的な取り組みではなく、ひきつづき先行研究を渉猟しつつ解釈を試みる方向のもとに本研究に認められている研究期間のなかでの長期的な取り組みを進めていく予定である。 その他の時期については、2012年度に勤務校の大学院での講義のなかで(3)の時期の主著である『責任という原理』をとりあげて論じた成果をふまえて、(2)の生命哲学と(4)の神学的考察とを視野に入れた仕方でその論理構造について解明することを2013年度の課題のひとつとしている。また、(1)の時期についても、ヨナスの最初の著作であるAugustin und das paulinische Freiheitsproblemに関して論文の形で研究成果を出すことを2013年度の課題としている。 (4)の時期に関しては、拙論“Der nicht omnipotente Gott und die menschliche Verantwortung“(「全能ならざる神と人間の責任」)を収録したDietrich Boehlerベルリン自由大学教授退官記念論文集Dialog-Reflexion-Verantwortungが、近々、ドイツで出版される(すでに献本が印刷されたとの情報を3月末に得ている)ので、それに対する海外の研究者間の反応も参照していっそうの研究の深化を進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(5 results)