2011 Fiscal Year Research-status Report
懐徳堂学派における教育思想の研究―その経学思想と経世思想との融合―
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23520060
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Research Institution | Anan National College of Technology |
Principal Investigator |
藤居 岳人 阿南工業高等専門学校, 一般教科, 教授 (80228949)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 懐徳堂 / 儒者 / 朱子学 |
Research Abstract |
本研究は、江戸時代に大坂の町人が設立した漢学塾懐徳堂の儒者の有する経世思想、特にその一環としての教育思想を分析して、日本近世儒教思想史上における懐徳堂学派の思想史的位置づけを再構築することが目的である。 そのためには、まず、懐徳堂学派の儒者の社会的地位に対する認識を明らかにする必要がある。言うまでもなく、江戸期の儒者の基本的立場は朱子学を基軸としている。林羅山らの朱子学受容期を第一期、伊藤仁斎や荻生徂徠ら古学派の朱子学批判期を第二期とすれば、頼春水や尾藤二洲らの朱子学再評価期を第三期と見なすことができようが、懐徳堂学派は第三期の初期段階に位置すると言える。 そのなかで中井竹山をはじめ懐徳堂学派が朱子学を再評価したのはなぜか。その問題を中井竹山の経学研究を通して検討した。その結果、「脩己」と「治人」と、すなわち、道徳と政治との双方に通じることが朱子学の基本的立場であり、その立場を遵守するのが本来あるべき儒者だと竹山が考えていることを明らかにした。したがって、儒者としては政治に積極的に参画することが本来的な任務であり、ある程度身分制が固定化していた江戸時代にあっても、政治に関わるべき地位にみずからを位置づけるべきだという認識が懐徳堂学派の儒者にあったことが明確になった。 さらに、中井竹山の著述の読解を通した懐徳堂の経世思想の分析のために、竹山の『草茅危言』等の資料の検討を進めた。そして、『草茅危言』に見える新学校設置論等、教育に関する竹山の思想を現在、整理しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、(1)江戸期儒者としての懐徳堂学派の社会的立場を中心に分析するために、中井竹山の『奠陰集』『草茅危言』『竹山先生国字牘』等の著述の読解を進めること(2)懐徳堂の経世思想の分析のために『草茅危言』を中心に読解すること(3)懐徳堂の経学思想の分析のために、中井履軒の『四書逢原』をはじめとした著述に見える「君子」像を検討すること、をめざしてきた。 (1)については、ほぼ順調に中井竹山の著述の読解を進めて、本来的儒者に関する懐徳堂学派の基本的立場を、ある程度、明らかにすることができた。(2)についても『草茅危言』の読解を進めて、そこに見える竹山の経世思想をある程度、整理しつつある。(3)についても、『論語逢原』に見える「君子」の語のデータベース化を進めている。 上述の研究を進めるためには基礎資料の文献調査が必要である。懐徳堂学派の儒者に関する一次資料の多くは大阪大学附属図書館懐徳堂文庫に所蔵される。それ以外にも懐徳堂関係の資料は、大阪府立中之島図書館、国会図書館東京本館、たつの市立龍野歴史文化資料館等において所蔵される。今年度は国会図書館東京本館の文献調査は実施できていないが、その他の大阪大学附属図書館、大阪府立中之島図書館等の実見調査は実施できた。 以上のことから研究計画はほぼ順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、(1)江戸期儒者としての懐徳堂学派の立場の分析(2)懐徳堂の経世思想の分析(3)懐徳堂の経学思想の分析、の三点の柱を中心に懐徳堂学派の教育思想を分析することをめざしており、全般的にほぼ順調に進んでいる。(1)については、引き続き中井竹山の著述を読解して、より一層、本来的儒者に関する懐徳堂学派の基本的立場を明確にする作業を進めつつ、次年度以降の研究計画を推進してゆく。 今後は、当初の計画通り、(2)懐徳堂学派の経世思想の分析、(3)懐徳堂学派の経学思想の分析を中心に研究を進める。 (2)については、竹山と寛政改革において主導的役割を果たした近世後期朱子学派の儒者との学術的な相関関係を明らかにする作業を進める。具体的には、近世後期朱子学派の儒者の著述や竹山の『草茅危言』『奠陰集』等の読解を通じて、両者の経世思想を比較対照しつつ、竹山の経世思想が教育思想に反映される様相、すなわち、儒者が教育者として社会的地位を確立する様相を詳細に分析する。 (3)については、中井履軒の『論語逢原』に見える「君子」の語のデータベース化を完成して、中井履軒の経学思想からうかがえる理想的人間像を分析する。そして、これまでに明らかにした履軒の「聖人」に関する見解と比較対照しつつ、懐徳堂学派の経学思想が経世思想の一環としての教育思想に反映される様相を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は、上述の通り、(1)江戸期儒者としての懐徳堂学派の立場の分析(2)懐徳堂の経世思想の分析(3)懐徳堂の経学思想の分析、の三点の柱を中心に懐徳堂学派の教育思想を分析する。 この研究計画を遂行するには、初年度に引き続いて、ある程度頻繁に資料調査や情報収集等を実施する必要があり、そのための国内旅費として研究費を使用する。具体的には、大阪大学附属図書館懐徳堂文庫所蔵資料・大阪府立中之島図書館所蔵資料の実見調査を中心に、年6回(4月、6 月、8 月、10 月、12 月、3 月)の調査を予定している。また、年2 回(8 月・2 月)、国会図書館東京本館の調査を予定している。それに加えて、懐徳堂関係の資料を所蔵している龍野歴史文化資料館にも年2 回(7 月・11 月)の実見調査を予定している。 さらに設備備品費として研究費を使用する。こちらも初年度に引き続いて、中国思想史や日本近世思想史等に関する最新の研究情報を収集するための基礎的文献資料の購入を予定している。 その他、収集した研究情報の整理等のための消耗品費として研究費を使用する。具体的には、文房具(USBメモリー・CD-ROM他、パソコンに使用するものを含む)を購入する予定である。
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Research Products
(2 results)